6 / 15
#6 晩餐
しおりを挟む
カチャリ。
ママがナイフとフォークを置く音に、僕はびくりとした。
夕食のテーブル。
昼の間からママが仕込んだ料理の数々が、その上に所狭しと並んでいる。
ママは裸の上に薄物を羽織っていて、僕の対面の席についていた。
下着を身に着けていないのは、いつもの通り。
透明に近い薄絹を通して、豊かで形のいい乳房が透けて見えることからそれとわかる。
「おかしいわね」
ママは不機嫌そうに、皿の上に乗ったステーキを見つめている。
「いつもよりお肉が硬いし、変な苦みがあるわ」
冷たい汗が腋の下を伝い、僕は自分の皿に視線を落とした。
きょうのメインディッシュは、この100グラムのステーキだ。
1週間に一度、金曜の夜にママがふたりのために用意する、貧しい我が家にとってのスペシャルディナーである。
ママのものと同じく、僕の皿のステーキも、ほとんど減っていない。
でも、僕がこれを食べる気になれないのは、おそらくママとは理由が違う。
1週間に一度のこのディナーが、僕には苦痛でならないのだ。
小夜子もそうだっただろう。
ふとそんなことを思うと、よけい食欲がなくなった。
「部活、してなかったわよね?」
切れ長の目を上げて、ママが訊く。
「う、うん」
ぎこちなくうなずく僕。
「じゃあ、食べさせたものが悪かったのかしら?」
「そ、そうだね」
とっさに僕はうそをつくことをした。
「先々週、遠足があったでしょ? あの時、友だちにお弁当のおかず、いろいろわけてもらったりしたから」
「ふうん、それで」
軽くうなずき、母がサイコロ状に切った肉を口に運び始めた。
「これからは気をつけてね。ママのつくったもの以外は絶対に食べちゃだめ。純ももう11歳なんでしょ。卒業まで、あと1年もないんだから」
卒業。
残酷な言葉だった。
急にどうしようもない悲しみが込み上げてきて、僕はママの顔を見つめた。
アーモンド型の、顎の尖った可愛らしい顔。
どの女優やアイドルと比べても、素晴らしい。
「あ、そうそう。明日の夜は大丈夫? お薬塗って、少しはよくなった? でも、変よね。1週間経っても、まだ治らないなんて。お薬自体が古くなってきたのかしらね。まあでも、今度は太腿の内側にするから、あまり心配しないで。きっとそのほうがお肉自体も柔らかいと思うし」
まずそうに肉を咀嚼し、ワインで喉に流し込むと、気を取り直したように母が言った。
「さ、だから純も食べなさい。明日のためにも、栄養つけなきゃ、でしょ?」
ママがナイフとフォークを置く音に、僕はびくりとした。
夕食のテーブル。
昼の間からママが仕込んだ料理の数々が、その上に所狭しと並んでいる。
ママは裸の上に薄物を羽織っていて、僕の対面の席についていた。
下着を身に着けていないのは、いつもの通り。
透明に近い薄絹を通して、豊かで形のいい乳房が透けて見えることからそれとわかる。
「おかしいわね」
ママは不機嫌そうに、皿の上に乗ったステーキを見つめている。
「いつもよりお肉が硬いし、変な苦みがあるわ」
冷たい汗が腋の下を伝い、僕は自分の皿に視線を落とした。
きょうのメインディッシュは、この100グラムのステーキだ。
1週間に一度、金曜の夜にママがふたりのために用意する、貧しい我が家にとってのスペシャルディナーである。
ママのものと同じく、僕の皿のステーキも、ほとんど減っていない。
でも、僕がこれを食べる気になれないのは、おそらくママとは理由が違う。
1週間に一度のこのディナーが、僕には苦痛でならないのだ。
小夜子もそうだっただろう。
ふとそんなことを思うと、よけい食欲がなくなった。
「部活、してなかったわよね?」
切れ長の目を上げて、ママが訊く。
「う、うん」
ぎこちなくうなずく僕。
「じゃあ、食べさせたものが悪かったのかしら?」
「そ、そうだね」
とっさに僕はうそをつくことをした。
「先々週、遠足があったでしょ? あの時、友だちにお弁当のおかず、いろいろわけてもらったりしたから」
「ふうん、それで」
軽くうなずき、母がサイコロ状に切った肉を口に運び始めた。
「これからは気をつけてね。ママのつくったもの以外は絶対に食べちゃだめ。純ももう11歳なんでしょ。卒業まで、あと1年もないんだから」
卒業。
残酷な言葉だった。
急にどうしようもない悲しみが込み上げてきて、僕はママの顔を見つめた。
アーモンド型の、顎の尖った可愛らしい顔。
どの女優やアイドルと比べても、素晴らしい。
「あ、そうそう。明日の夜は大丈夫? お薬塗って、少しはよくなった? でも、変よね。1週間経っても、まだ治らないなんて。お薬自体が古くなってきたのかしらね。まあでも、今度は太腿の内側にするから、あまり心配しないで。きっとそのほうがお肉自体も柔らかいと思うし」
まずそうに肉を咀嚼し、ワインで喉に流し込むと、気を取り直したように母が言った。
「さ、だから純も食べなさい。明日のためにも、栄養つけなきゃ、でしょ?」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる