キチママ

戸影絵麻

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#8 体育倉庫にて

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 いつもなら、傷は日曜日一日で回復する。
 それだけ例の薬が強力だからだ。
 薬はその家族にだけ、絶大な効果をもたらすようにつくってある。
 当然、僕の所もそうだった。
 なのに、月曜日になっても、痛みは去らなかった。
 あいにくその日は4時間目が体育で、僕は先生に頼んで見学させてもらうことにした。
 これは時々あることだから、先生も心得たもので、特に何も言わなかった。
 体育館でバスケットボールに興じるクラスメートたちを眺め、終齢とともに腰を上げた時である。
 体操着姿の佳世がやってきて、少し離れたところから手招きした。
「ちょっと後片付け、手伝って」
「なんで俺が。そんなの、体育委員がやればいいだろ」
「小夜子がいなくなって、人手が足りないの。ずっと見てるだけだったんだから、それくらいいいでしょ」
 佳世も僕と同じ団地に住んでいる。
 E棟の2階が小夜の家で、低学年の頃はよく遊びに行っていた。
 小夜子も時々一緒だったように思う。
 僕らはいわゆる幼馴染というやつなのだ。
 佳世が片づけを口実に使ったのは明らかだった。
 作業を終え、ほかのメンバーが体育倉庫を出て行くと、扉にもたれ、通せんぼするようにして話しかけてきた。
「きのうも言ったけど、純、やっぱりちょっとヤバいんじゃない? その顎のとこの黒いの、それ、ひげだよね」
「ち、違うよ」
 僕は真っ赤になって、口から下を手で隠した。
「こんなの、ただの産毛だって」
「うそ」
 佳世の声が鋭くなる。
 小悪魔めいた貌で、僕の一挙一動を見逃すまいと、じっと睨んでいる。
「じゃあ、証拠にパンツ脱いでよ」
「は?」
 想定外の展開に、僕は思わず絶句した。
「そんなに言い張るなら、下の毛がはえてないかどうか、見せてよ」
「な、なんでだよ。なんでおまえなんかに」
 自分でも、声が震えるのが分かった。
 どうしてバレたのだろう?
 あそこのまわりで、うっすらと濃くなってきた体毛。
 絶対人には見られていないはずなのに。
 まして女の佳世なんかには。
「『おまえなんか』は失礼じゃない?」
 佳世が顔を真っ赤にして怒った。
「こんなにあたしが心配してあげてるのに」
「心配? な、なんのことだよ?」
「あたしたち、ふたりともヤバいかもしれないんだよ」
 ふたりとも?
 どういうことだ?
「いいわ。あたしから見せてあげる」
 だしぬけに、佳世が体操着の裾に手をかけた。
「ほら見て。ここ」
 上半身裸になると、生白い胸を指さして、挑むように言った。
「こんなにふくらんできちゃってる」


 
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