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#15 最期の晩餐
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話し声で目が覚めた。
なんだろう?
薄目を開けると、周囲を女性たちが取り囲んでいた。
どれもどこかで見た顔ばかりだ。
小夜子のママも、佳世のママも、みんないる。
なぜか全員、服を着ていない。
近所でよく見かけるおばさんたちの真ん中に、裸エプロンの僕のママがいた。
不思議なのは、僕の目線が異様に低いことだった。
目の高さにテーブルがあり、びっくりするほど近くに、にサラダを盛ったボウルや皿が見える。
ここは、うちのキッチンなのか…。
でも、あれからいったい、どうなったのだろう。
天井から吊るされ、あんな恥ずかしい目に遭わせられて…。
いつのまにかまた、気を失っていたらしい。
そしてふと気づいた。
テーブルの真ん中に開いた穴。
どうやら僕は、そこから鼻から上を出しているらしいのだ。
テーブルの下の身体は、裸のままのようだった。
頭がジンジン痛み、手足がしびれて動かない。
いったいどうなったのだろう?
これもお仕置きの続きなのだろうか?
でも、どうして近所のおばさんたちが、家にいるのだろう?
「次のトンジの当てはあるのかい? あれ、今、けっこう高いんだろう? 今年は不作だとかでさ」
おばさんのひとりが、ママに話しかけている。
”豚児”というのは、かつては親が自分の子供をへりくだって言う謙譲語のひとつだったと、学校で習ったことがある。
でも、今は違う。
豚児とは、僕らのことだ。
佳世も僕も、いやこの団地の子供たちはみな豚児なのだ。
「ええ、まあ。お金なら貯めてありますから」
ママが華やいだ声で言う。
僕は唇を噛んだ。
自治会長にいくらもらったか知らないが、あれは僕の代わりを買う資金だったというわけだ。
「仁美さんは美人だからねえ。貢ぐ男なんて、いくらでもいそうだものねえ」
どっとばかりに笑い声が起こった。
その笑い声をかき消すように、ママが声を張り上げる。
「さあさ、みなさん、そんなことより、早くいただきましょう。全身に悪いものが回らないうちに」
「小夜ちゃんに続いて、最期の晩餐だねえ」
「次は、うちの佳世ですかねえ」
「仁美さん、後始末の時は、内臓によく薬草をまぶしてから、壺に入れるんだよ」
「骨を出す時は、不燃物のほうだからね」
「わかってますよ。こう見えても、もう二匹目なんですから」
口々に言いながら、おばさんたちがエプロンをつけ、ナイフとフォークを手に持った。
二匹目…?
ってことは、あの薬壺の中身は、僕の兄さんか、姉さんだったってこと…?
「じゃ、切り分けますね」
ママが立ち上がり、僕の頭に手をかけた。
ぱかっという音がして、急に額から上が涼しくなった。
「まあ、綺麗な脳味噌だこと」
誰かが嘆声を漏らした。
「おいしそうだわ。オスの豚児の脳って、私、久しぶり」
そういうことか…。
涙が一筋、頬を伝った。
僕は上目遣いにママを見上げた。
ママは、いつものように慈愛に満ちたまなざしをしている。
僕が愛したママの顔だ。
「ママ…」
つぶやいた時、
「さよなら、純」
ナイフを僕の大脳に差し入れながら、やさしい声で、ママが言った。
「許してね。もとはと言えば、大人になったあなたが悪いのよ」
なんだろう?
薄目を開けると、周囲を女性たちが取り囲んでいた。
どれもどこかで見た顔ばかりだ。
小夜子のママも、佳世のママも、みんないる。
なぜか全員、服を着ていない。
近所でよく見かけるおばさんたちの真ん中に、裸エプロンの僕のママがいた。
不思議なのは、僕の目線が異様に低いことだった。
目の高さにテーブルがあり、びっくりするほど近くに、にサラダを盛ったボウルや皿が見える。
ここは、うちのキッチンなのか…。
でも、あれからいったい、どうなったのだろう。
天井から吊るされ、あんな恥ずかしい目に遭わせられて…。
いつのまにかまた、気を失っていたらしい。
そしてふと気づいた。
テーブルの真ん中に開いた穴。
どうやら僕は、そこから鼻から上を出しているらしいのだ。
テーブルの下の身体は、裸のままのようだった。
頭がジンジン痛み、手足がしびれて動かない。
いったいどうなったのだろう?
これもお仕置きの続きなのだろうか?
でも、どうして近所のおばさんたちが、家にいるのだろう?
「次のトンジの当てはあるのかい? あれ、今、けっこう高いんだろう? 今年は不作だとかでさ」
おばさんのひとりが、ママに話しかけている。
”豚児”というのは、かつては親が自分の子供をへりくだって言う謙譲語のひとつだったと、学校で習ったことがある。
でも、今は違う。
豚児とは、僕らのことだ。
佳世も僕も、いやこの団地の子供たちはみな豚児なのだ。
「ええ、まあ。お金なら貯めてありますから」
ママが華やいだ声で言う。
僕は唇を噛んだ。
自治会長にいくらもらったか知らないが、あれは僕の代わりを買う資金だったというわけだ。
「仁美さんは美人だからねえ。貢ぐ男なんて、いくらでもいそうだものねえ」
どっとばかりに笑い声が起こった。
その笑い声をかき消すように、ママが声を張り上げる。
「さあさ、みなさん、そんなことより、早くいただきましょう。全身に悪いものが回らないうちに」
「小夜ちゃんに続いて、最期の晩餐だねえ」
「次は、うちの佳世ですかねえ」
「仁美さん、後始末の時は、内臓によく薬草をまぶしてから、壺に入れるんだよ」
「骨を出す時は、不燃物のほうだからね」
「わかってますよ。こう見えても、もう二匹目なんですから」
口々に言いながら、おばさんたちがエプロンをつけ、ナイフとフォークを手に持った。
二匹目…?
ってことは、あの薬壺の中身は、僕の兄さんか、姉さんだったってこと…?
「じゃ、切り分けますね」
ママが立ち上がり、僕の頭に手をかけた。
ぱかっという音がして、急に額から上が涼しくなった。
「まあ、綺麗な脳味噌だこと」
誰かが嘆声を漏らした。
「おいしそうだわ。オスの豚児の脳って、私、久しぶり」
そういうことか…。
涙が一筋、頬を伝った。
僕は上目遣いにママを見上げた。
ママは、いつものように慈愛に満ちたまなざしをしている。
僕が愛したママの顔だ。
「ママ…」
つぶやいた時、
「さよなら、純」
ナイフを僕の大脳に差し入れながら、やさしい声で、ママが言った。
「許してね。もとはと言えば、大人になったあなたが悪いのよ」
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みんなの感想(2件)
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羊たちの沈黙を思い出しますね。いや、あれは続編の方でしたか。
柔らかいし回復も早いから最適と言うのはエグいと同時になかなか合理的でもありますね。
用済みとなった後奴隷として働かされないだけ、まだマシなんでしょうか。色々と想像が膨らむ話でした。
コメント、ありがとうございます。
私にしては意外にあっさり終わってしまいました。
ラストについては、ご指摘の通りです。
終わり方が決まっているだけに、書きやすかったというのはありますね。
なるほど、これは「キチ」ですね。生理的にグッと来そうです。
エログロの混淆がどこへ行き着くのか楽しみにしてます。
コメント、ありがとうございます。
正統派ホラーといいながら、実は、これもエログロがメインテーマなのでした。
書きやすい方向に流れると、なぜかいつもこうなってしまうようで…。
まあ、と言っても今更軌道修正はきかないわけですが(笑)