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第8部 妄執のハーデス

#83 2回戦②

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「ふあああ、また遅刻だよお」

「大丈夫! まだ間に合うよ! がんばれ!」

「バットガールたち、もう来てるじゃん。やっばーい!」

 少女たちが駆け込んできたのは、試合開始5分前。

 壇上に北条の軍服姿が現れた時のことだった。

「リサ、ただいま参りましたあ!」
 
「リタ、参上しましたですっ!」

「遅くなってごめんなさーい! リナでーっす!」

 バタバタと整列する3人を眺めながら、杏里はこの自己紹介を脳裏に刻み込んだ。

 ピンクのリボンが、リサ。

 青色が、リタ。

 そして黄色が、リナ。

 3人とも姿かたちと衣装はまったく同じなので、リボンの色で識別するしかない。

 ステージに垂直になるように、2列に向かい合って、立つ。

 3人の背丈は杏里とほぼ同じくらい。

 体形はどちらかというと華奢である。

 全員、右手首に銀色のブレスレットを装着している。

 委員会支給のリストバンドは左手首にはまっているので、それとは別のアクセサリーだ。

「全員そろったな。特別に付け加えることはないが、強いて言うなら、設備をあまり壊さないでほしい」

 冗談とも本気ともつかぬ口調で、壇上から北条が言った。

「それから、ここを使うのは、今晩は君たちだけだ。後は詰まっていないから、存分に戦うがいい」

「はい!」

 3人組が、何のつもりか、一斉に敬礼した。

「時間だな。では、始めたまえ。例によって、私は別室で観戦させてもらうことにする」

 前回同様、気のない合図だった。

 ホイッスルも、ブザーもない。

 北条の姿が消えると、少女たちがさっと後方に飛び退った。

 三角形の先頭にリサ。

 右の頂点にリタ。

 左にリナが位置している。

「フォーメーションA!」

 甲高い声で、リタが号令をかける。

 両手を左右に開き、フラダンスでも踊るように、ゆらゆらと3人の身体が揺れ始める。

 足は軽いステップを踏んで、まるで今からダンスでも始めるみたいな感じである。

「どこからでもかかってきな」

 杏里を背中にかばって、由羅が挑発する。

 由羅は両のこぶしを胸の当たりに構え、ボクシングのファイティング・ポーズをとっている。

「うちは急いでるんだ。子どもの遊びにかまってる暇はないんだよ」

「言ったね」

 リサの眼が鋭い光を放った。

「子どもの遊びかどうか、その身体で確かめるがいい」

 そう、言い終わるか、終わらないかのうちだった。

 次の瞬間、だしぬけに3人の姿が消えた。

 え?

 杏里が目を見開いたとたんである。

 由羅の身体が、まるで目に見えないトラックにはねられたかのように、突然、壁際まで大きく吹っ飛んだ。


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