異世界病棟

戸影絵麻

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#5 ある疑惑

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 見習い看護師の乙都が検査器具を抱えて出て行くと、とたんに心細くなった。
 向かい側のカーテンの向こうからは、相変わらずあの「ミルク・・・ミルク・・・」という耳障りな声が聞こえてくる。
 ナースコールも、まだ鳴り続けていた。
 きっと、うめきながら”近藤さん”がボタンを押し続けているのだろう。
 それにしても・・・。
 シーツをかぶってうめき声を耳から締め出しながら、僕は思い返していた。
 さっきのあれは、何だったのだろう?
 ”コンドーさん”のカーテンの隙間から見えた、あの灰色のものは・・・。
 ずるっと気味悪い音を立てて、床を擦っていったあれは…。
 位置的に言って、床すれすれだから、見えるのは足の一部のはずである。
 でもあれは・・・なんだか、象の皮膚か、海亀の前肢みたいな、そんなひどく人間離れした感じだったのだ・・・。
 ざらついていて、死人の肌みたいな色をしていて・・・。
 あのカーテンの向こう側に寝ているのは、いったい・・・?
 もう一度起きて、確かめてみようか、とも思った。
 が、身体を動かしてみて、すぐに無理だとわかった。
 がんじがらめで、ろくに動けない。
 鼻には酸素吸入器。
 手首から伸びた点滴の管が、スタンドにつながっている。
 まだある。
 身体中に貼られた電極から伸びた心電図のコード。
 指先に取りつけられた酸素濃度を測る器具。
 そして、病衣の股間から渦を巻くカテーテル。
 これでは泰良女医が言ったように、ひとりで用便どころか、ベッドから下りることすら不可能だ。
 -ミルクううっ! ミ・ル・クううっ!
 足元から聞こえる近藤さんの叫びは、耳を聾さんばかりに大きくなっている。
 はっきり言って、迷惑もいいところだ。
 どうして誰も怒らないのだろう。
 この病室には僕と彼以外には誰もいないのだろうか。
 耐え切れず、ナースコールに手を伸ばした時だった。
「ごめんごめん、近藤さん、お待たせしちゃったねえ」
 バタバタと足音がして、大きな影が閉まったカーテンを横切った。
 ”コンドーさん”の喚き声が一瞬、やんだ。
 ということは、あれが乙都の言ってた、同期の見習い看護師さん?
 名前は確か、レンゲツ・・・。
 福士蓮月だったっけ…? 
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