異世界病棟

戸影絵麻

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#6 不穏な会話①

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「どうしちゃったんですか? 近藤さん」
 カーテンの開く音に続き、会話が始まった。
 無意識のうちに、僕は耳を澄ましていた。
 ”近藤さん”なる同室の患者が、気になってならない。
 変なものを目撃したせいもある。
「ミ・ル・ク!」
 一音一音区切って、叩きつけるように近藤さんが言う。
 しわがれ、喉に痰の絡んだひどく聞き辛い声だ。
 本人を見たわけではないが、あの声からして、近藤さんはかなりの高齢者に違いない。
「はいはい、そう思って、コンビニで牛乳買ってきましたよ。これでやっとお薬飲めるかな?」
 乙都の同期という看護師は、かなり辛抱強い性格のようだ。
 駄々をこねる幼児みたいな老人を、うまくあしらっている。
 が、近藤さんのほうが、更に上手らしかった。
 次の瞬間、割れ鐘みたいな声が病室の空気を震わせた。
「いらんっ。ちがうっ! やれっ! いつもみたいに!」
 ガシャンと何かが床に落ちる音がして、看護師が小さく悲鳴を上げた。
「わがまま言わないで。いつもみたいにって、あれは…。それに、きょうは新しい患者さんも、いるし、第一、まだお昼で、明るいじゃあ、ありませんか…」
「ミ・ル・クっ! ミ・ル・クっ! ミ・ル・クっ!」
「しょうがないなあ…。まだお昼ですよ。ブラックナースの出番じゃないんですから。でもまあ、ちょっとだけなら・・・。…その代わり、朝のお薬、絶対飲んでくださいよ…」
 ブラックナース?
 これまた意味不明だ。
 衣ずれの音が始まった。
 何だろう?
 他人事ながら、胸がドキドキしてきた。
 心臓が、苦しくなる。
 よくない傾向だ。
 でも、気になる。
 どういうことなんだ?
 いつもみたいとか、まだ明るいとか…。
 それに、あの音・・・。
 看護師さん、なんか、服を脱いでるみたいなんだがー。

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