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#31 夢の中の夢②
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「いえ、別に・・・」
僕は首を横に振った。
いくらヘッドホンをつけていたとはいえ、外で流血騒ぎがあれば気がつきそうなものだ。
「部屋にはずっと?」
「深夜零時ごろに、一度近くのコンビニまで・・・。夜食の買い出しにと思って・・・」
「その時には、この血はありましたか?」
「いいえ、なかったと思います」
「それからずっと、部屋で動画鑑賞を?」
「ま、まあ、そんなようなものです」
「で、物音や気配には気づかなかったと?」
「は・・・はい」
「動画に夢中で、ヘッドホンで聞こえなかったと、そういう可能性もありそうですね」
警官が意地悪そうな目つきで僕の顔をのぞきこむ。
まるで、おまえの秘密、知ってるぞ、とでも言いたげに。
「な、ないことは、ないです」
僕は首を縮めた。
嫌な感じしか、しなかった。
「実はこの血だまりなんですが、一階にもありましてね。見ていただけますか?」
「え? ええ」
階段で一階に降りた。
U字形に回り込んだところが、1階ホールである。
ドアを開けて、中に入る。
格安マンションなので、セキュリティ・ロックなどなく、手で押せばすぐに開くのだ。
むろん、管理人もいなくて、大家さんが月一度、掃除に来るぐらい。
開いたドアの向こうから、生臭い臭気が流れてくる。
「あれです」
警官に示されるまでもなかった。
向かって右側、エレベーターの扉の前に、血だまりが拡がっている。
大きさも形状も、2階にあったふたつとほぼ同じ。
「どういうことでしょう?」
僕は困惑して、警官に質問した。
「ひどい怪我をした何者かが、ここからエレベーターで、2階に?」
僕の部屋は二階に上がったすぐ左手の201号室。
問題の隣人の部屋は、階段を上がった突き当り、正面の202号室。
エレベーターは階段から見て向かって右側に位置している。
どの道、2階だからエレベーターを使うことはまずない。
可能性として、ありそうなのは・・・。
202号室の住人が負傷して帰宅し、階段を登る気力もなく、エレベーターを使ったと、そういうことだろうか。
「さあ、今の段階では、なんとも・・・。私たちは、いわばそれを調べているところでしてね」
警官が警帽の上から頭を掻いた時だった。
「鍵、借りて来たわよ。大家から、202号室の鍵」
月明かりを背景に、すらりとした人影が立った。
体のラインを際立たせる、グレーのスーツを着込んだ若い女性だ。
金色に近い茶髪。
丸眼鏡が、すっと通った細い鼻梁の上に乗っかっていて、月光にきらりと光った。
すっぴんみたいだけど、かなりの美人だ。
女刑事なのだろうか。
それにしては、刑事ドラマの主役級の貫禄で、スタイル抜群で、ずいぶんかっこいい。
でも、この顔、どこかで見たような・・・。
「あ、タイラミズキ刑事、ご苦労様です」
警官ふたりが、頬を紅潮させて直立不動になり、敬礼を返した。
タイラ・・・ミズキ・・・?
記憶の底で、何かがざわめいた。
「中を見ればわかるわ。これがオル・・・・・ドの痕跡かどうか」
女刑事が、階段の上を見上げて言う。
一部聴き取れなかったのは、ちょうどその時、すぐ前の車道を大型トラックが轟音を上げて走り去っていったからだった。
「じゃ、じゃあ、僕は、これで」
軽く会釈して逃げ出そうとした瞬間、タイラミズキとかいう名の女刑事が僕の手首をつかんだ。
「待ちなさい。201号室のユイソウタね。あなたにも202号室の中、ぜひ見てもらいたいから」
僕は首を横に振った。
いくらヘッドホンをつけていたとはいえ、外で流血騒ぎがあれば気がつきそうなものだ。
「部屋にはずっと?」
「深夜零時ごろに、一度近くのコンビニまで・・・。夜食の買い出しにと思って・・・」
「その時には、この血はありましたか?」
「いいえ、なかったと思います」
「それからずっと、部屋で動画鑑賞を?」
「ま、まあ、そんなようなものです」
「で、物音や気配には気づかなかったと?」
「は・・・はい」
「動画に夢中で、ヘッドホンで聞こえなかったと、そういう可能性もありそうですね」
警官が意地悪そうな目つきで僕の顔をのぞきこむ。
まるで、おまえの秘密、知ってるぞ、とでも言いたげに。
「な、ないことは、ないです」
僕は首を縮めた。
嫌な感じしか、しなかった。
「実はこの血だまりなんですが、一階にもありましてね。見ていただけますか?」
「え? ええ」
階段で一階に降りた。
U字形に回り込んだところが、1階ホールである。
ドアを開けて、中に入る。
格安マンションなので、セキュリティ・ロックなどなく、手で押せばすぐに開くのだ。
むろん、管理人もいなくて、大家さんが月一度、掃除に来るぐらい。
開いたドアの向こうから、生臭い臭気が流れてくる。
「あれです」
警官に示されるまでもなかった。
向かって右側、エレベーターの扉の前に、血だまりが拡がっている。
大きさも形状も、2階にあったふたつとほぼ同じ。
「どういうことでしょう?」
僕は困惑して、警官に質問した。
「ひどい怪我をした何者かが、ここからエレベーターで、2階に?」
僕の部屋は二階に上がったすぐ左手の201号室。
問題の隣人の部屋は、階段を上がった突き当り、正面の202号室。
エレベーターは階段から見て向かって右側に位置している。
どの道、2階だからエレベーターを使うことはまずない。
可能性として、ありそうなのは・・・。
202号室の住人が負傷して帰宅し、階段を登る気力もなく、エレベーターを使ったと、そういうことだろうか。
「さあ、今の段階では、なんとも・・・。私たちは、いわばそれを調べているところでしてね」
警官が警帽の上から頭を掻いた時だった。
「鍵、借りて来たわよ。大家から、202号室の鍵」
月明かりを背景に、すらりとした人影が立った。
体のラインを際立たせる、グレーのスーツを着込んだ若い女性だ。
金色に近い茶髪。
丸眼鏡が、すっと通った細い鼻梁の上に乗っかっていて、月光にきらりと光った。
すっぴんみたいだけど、かなりの美人だ。
女刑事なのだろうか。
それにしては、刑事ドラマの主役級の貫禄で、スタイル抜群で、ずいぶんかっこいい。
でも、この顔、どこかで見たような・・・。
「あ、タイラミズキ刑事、ご苦労様です」
警官ふたりが、頬を紅潮させて直立不動になり、敬礼を返した。
タイラ・・・ミズキ・・・?
記憶の底で、何かがざわめいた。
「中を見ればわかるわ。これがオル・・・・・ドの痕跡かどうか」
女刑事が、階段の上を見上げて言う。
一部聴き取れなかったのは、ちょうどその時、すぐ前の車道を大型トラックが轟音を上げて走り去っていったからだった。
「じゃ、じゃあ、僕は、これで」
軽く会釈して逃げ出そうとした瞬間、タイラミズキとかいう名の女刑事が僕の手首をつかんだ。
「待ちなさい。201号室のユイソウタね。あなたにも202号室の中、ぜひ見てもらいたいから」
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