異世界病棟

戸影絵麻

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#62 病棟探索①

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 乙都が運んできた朝食を食べ終え、朝の分の薬を飲むと、少し予定を早め、躰を拭いてもらうことにした。
 寝ている間にかいた汗で、全身がべとべとしてたまらなかったからだ。
 全身を拭き終えて、最後にカテーテルを抜く時、乙都は少しばかり恥ずかしそうな表情を目に浮かべたけど、
「変に興奮すると心臓に悪いから、今回はススッと行きますね」」
 そう言って僕の性器を右手で無造作につかむと、左手で管を握ってずぼっとあっさり抜いてしまった。
「あうっ」
 尿道から管が抜かれる異次元の感触に危うく勃起しかけ、僕は乙都の手から我が性器を引き戻した。
「これでもう大丈夫。あとはトイレで用を足せますよ」
 階下のコンビニで買ってきてくれたパンツを穿くのを手伝ってくれながら、マスクから出た眼で乙都が笑う。
「ではまたお昼に来ますね。昼食食べて、少ししたら、リハビリのお手伝いしますね」
 乙都がナースステーションに戻って行くと、無性に外を歩きたくなってきた。
 ICUに入っていた分も加えると、もう四日か五日、僕はベッドから出ていないのだ。
 酸素濃度のモニター、それから尿道カテーテルが取り外された分、だいぶ身軽にはなっている。
 でも、まだ心電図のモニターと点滴チューブはくっついたままだから、自由にはほど遠い。
 けれど、ひとりで病室から出られるのは、やはりうれしかった。
 点滴スタンドを支えに、おそるおそる床に足を下ろしてみる。
 スリッパを履いてゆっくり腰を上げると、さすがにふらついた。
 が、胸苦しくなる気配もないし、特にどこかが痛むということもない。
 点滴スタンドを杖代わりにして、そろそろと歩き始める。
 カーテンを開け、通路に出ると、向かい側のカーテンのすき間から、あの血走った気味の悪い眼が覗いていた。
 勇気を振り絞って空いたほうの手を伸ばし、カーテンを引き開けてやった。
 が、現れたのは、小山のように盛り上がったベッドだけ。
 寝たふりをしているのか、膨らんだ蒲団が規則正しく上下している。
 さすがにその布団を引き剥がす勇気は出なかった。
 ”コンドウサン”の病室は、僕の所と遜色ないくらい殺風景だ。
 ただ、ひとつ異彩を放っているのが、点滴スタンドからぶら下がった大きな布切れだった。
 ピンクのフリルで縁取りされたそれは、お椀をふたつ連結したような独特の形をしている。
 その正体に気づいて、僕はあっけにとられた。
 ブラジャーだ。
 サイズからして、蓮月の置き土産に違いない。
 お守りか何かのつもりだろうか。
 バカバカしくなり、乱暴にカーテンを閉め、部屋の外に出た。
 僕の記憶では、右手がエレベーターホール、左手はまだ行ったことのない未知の領域である。
 迷わず、廊下を左に進んでみることにした。
 廊下の突き当りに窓があり、外の景色が見えることに気づいたからだ。
 乙都たちの会話からして、僕の入院しているこちら側が、西棟ということになる。
 西棟には、循環器科の患者が収容されているという。
 この病棟には、平行にもう一本廊下があって、そちら側が心臓外科の東棟にあたるということらしい。
 近いうちに、東棟のほうも探検してみよう。
 そう決意して、そろりそろりと進んでいく。
 点滴スタンドは、乙都が新しいのに替えてくれたので、キャスターの回転もスムーズだ。
 まだ力の入り切らない脚には、杖の代わりになってくれてちょうどいい。
 廊下の左手には、ずらりと病室が並んでいる。
 複数のネームプレートが出ている大部屋は入口が開放されていて、名前がひとつしかない個室のドアは、どこも固く閉ざされている。
 ゆうべのあの、徘徊する異形の者たちは、みんなここの患者たちだったのだろうか。
 はっきり姿を見たわけではないけれど、壁に映る影などからして、みんな、ずいぶん人間離れした姿形をしていたようだった。
 そしてあのわめき声、足をひきずって歩く不気味な音…。
 だが、今はどの部屋も静まり返り、清潔そうなナース服に身を包んだ看護師たちが忙しそうに出たり入ったりしている。
 そうこうしているうちに、僕はいつのまにか、廊下のつきあたりまでやってきていた。
 窓の下にソファがあり、休憩できるようになっている。
 その前で立ち止まり、何気なく窓外に視線を投げた僕は、そこに広がる光景に、思わずあっと息を呑んだ。
 おいおい、マジかよ…。
 乙都の話は、本当だったんだ…。

 
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