制服の胸のここには

戸影絵麻

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#13 校長室へ

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 夢遊病者のような足取りで教室に向かった。
 一応、服は着たものの、身体中から青臭い臭気を発しているようで、我ながら不快だった。
 生乾きの体液でごわごわになった下着が、足を交差させるたびに内腿に貼りつくのも最悪だ。
 廊下に生徒の姿はなく、外界ではいったい何が起こっているのか、窓の外ではサイレンの音が喧しい。
 しばらく途絶えていた校内放送が復活して何か言っていたけど、サイレンの音に消されてよく聞こえなかった。
 教室へ向かう階段の下に立ち、何気に上を見上げた時である。
 すらりとした脚が突然視界に入ってきて、僕はドキリとして目を見張った。
 階段の先にプリーツスカートの中が見えそうなくらい際どいアングルで佇んでいるのは、あの氷室基子だ。
 ついさっき別れたばかりの基子があたかも僕を待っているかのようにそこにいる。
 女子の中では長身の部類に入る基子は、足が長いせいか、特に短くしているわけでもないのに、制服のスカートがミニ丈に見える。
 意に添わぬ放出で生命力を失ったはずの股間の”器官”が冬眠から目覚めた土竜よろしくもぞりと動いた。
 下から仰ぎ見るこのアングルは、そんな彼女を窃視するにはあまりにも最適で、僕の中の下衆な性癖を刺激せずにはいられなかったのだ。
 基子は何かに耳を澄ますように遠くに視線を投げ、黙り込んでいる。
「そ、そんなところで、ど、どうしたの?」
 そのぎりぎりの太腿の付け根から目を離せず、罪悪感からついそうたずねると、
「しっ! 黙って!」
 横目でにらんで叱責してきた。
 気圧されて口をつぐむと、サイレンの切れ目から校内放送が聴こえてきた。
 ー繰り返します。2年B組の氷室基子、金田猛の両名は、至急、校長室まで来てくださいー
「呼ばれてる」
 基子が僕を見下ろした。
 僕の視線がどこに集中しているかに気づくと、不快そうに眉をひそめて一歩下がった。
 太腿がスカートに隠れ、基子の下着を見るという千載一遇のチャンスは掻き消えた。
「聴こえたでしょ。呼ばれてるのは、あなたと私。なぜだと思う?」
「さあ」
 いたずらを見つかった幼児のように頭を掻きながら、僕はかぶりを振った。
「さっきの件かな。高尾たちに、呼び出された件…」
 如月の名は口にできなかった。
 僕に汚らわしい快楽を与えたあの男…。
「でも、それならなぜ私が? 高尾君や如月君が呼ばれるのが筋でしょう?」
 基子はあえてと言わんばかりに如月の名を告げてきた。
「わからない…」
 またかぶりを振ると、ため息の後、基子がつぶやいた。
「ま、行ってみるしかないか」
「う、うん」
 なにもこんな時に、と思ったけど、僕に拒む権利はなさそうだった。
「校長室は4階にある。あなたが先に歩いて」
 氷柱を突きつけるように基子の声が冷たくなった。
「え?」
 驚いて顔を上げると、
「あなたの前を歩くのって、ちょっと危ない気がするから」
 僕は言葉を失い、うなだれた。
 先ほどの覗き見。
 やはりバレていたのだ。
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