虹とスニーカーと僕

戸影絵麻

文字の大きさ
3 / 5

#3

しおりを挟む
「何よえらそうに、たかが宇宙人の分際で」
 麻美がせせら笑う。
「宇宙人なんて人間のこと虫けらくらいにしか思ってないくせに。映画とかアニメとかではみんなそうなってるじゃないの」
「タマオは違う」
 耐えられなくなって次郎はまた口をはさんだ。
「とにかくリリジウムは君が持ってる。それを渡してくれ。できれば、俺のスニーカーも」
「おあいにくさま。スニーカーは川の中だし、あたしはそんなぶっそうなもの、持ってないし」
「そこにあるじゃないか。それがリリジウムだよ」
 タマオが指差したのは、麻美の胸元だった。
 白いブラウスからのぞいた胸に、赤い宝石をあしらったペンダントが下がっている。
「あんたも馬鹿?」
 麻美があきれたような声を出した。
「これはママの形見なのよ! あたしの大好きだったママの唯一の形見なの! なんでそれをあんたみたいなどこの馬の骨ともわからない宇宙人にあげなきゃならないの?」
「僕の検索によると、リリジウムは二十年前、小さな隕石に含まれてこの地球に落ちてきた。日本のある地方、君のママの故郷の河原にね。ママはきっと子供の頃それを拾って、大切にとっておいたんだと思う」
「だったらどうなのよ! どっちにしろあんたなんかに渡さないわよ!」
 麻美はますます頑なになるばかりだ。
「どうしよう」
 次郎はタマオにささやいた。事態はいっこうに好転の兆しを見せず、悪化の一途をたどっている。
「あとは君次第だ」
 タマオが言った。
「そんなのありかよ」
 次郎はうろたえた。
「元はといえば、お前んとこの宇宙都市とやらが故障するから悪いんだろ? 宇宙人の超能力かなんかで麻美に言うことを聞かせればいいじゃないか」
「それはできない。僕は生命体個人の意志は尊重する。彼女が自分から提供してくれない限り、僕らはリリジウムを入手することはできないんだ」
「そんなこと言ってる場合か」
 次郎はあきれた。
「そんな道徳的な宇宙人なんて聞いたことないよ」
「そういうのは普遍的なものなんだ。地球人も宇宙人も関係ないと思う」
「だけどさ」
「ちょっとそこ!」
 麻美の怒声が飛んできた。
「何をごちゃごちゃ言ってるの! 用が済んだらとっとと出て行きなさいよ!」
「用が済んでないから、まだここにいるんだよ」
 仕方なく、次郎は言った。
「君がリリジウムを渡してくれない限り、俺たちは帰れない。ついでに言えば、俺のスニーカーもだけどね」
「あんたってほんと、くどいわね! もうあたし、警察呼ぶから!」
「あ」
 そのとき、突然タマオの声がした。いつのまにか麻美の横をすりぬけて、勉強机のほうに移動している。
「これが麻美さんのママですね。ふーん、やさしそうで、かわいらしい女の人だ」
[どれどれ」
 次郎は麻美を押しのけ、タマオの脇に歩み寄った。どうせ何を言っても何をしても麻美は怒るのだ。だったら、好きなように行動すべきだろう。
 いかにも女の子らしいムード満載の勉強机の片隅に写真立てがあり、タマオは熱心にそれをのぞきこんでいた。写真に写っているのは麻美に似た女の人と、今目の前にいる実物と比べるとずいぶんやわらかい印象の、麻美自身だった。麻美は小学校低学年くらいだろうか、母親と手をつないで幸せそうな笑顔をそのふっくらした頬に浮かべている。が、次郎の目を引いたのは被写体の二人ではなかった。二人の後ろに見えているのは・・・。
「あれ、お前、なんで俺んちの前にいるわけ?」
 そうなのだ。麻美親子が立っているのは、次郎の今住んでいるアパートの前の空き地なのである。
「そ、それは・・・」
 とたんに麻美の表情が曇った。
「貧乏がうつるから、こんなとこで写真撮っちゃまずいんじゃないの?」
「っるさいわね! 前にそこに住んでたんだからしょうがないでしょ!」
 言ってから、しまった、という顔つきになって口を押さえる。
「なるほど」
 タマオが言った。
 見ると、指先からコードを伸ばして、麻美の机の上にあるパソコンに勝手にアクセスしていた。
「麻美さんのママは、麻美さんを連れてこの家のパパと結婚したんですね。つまり、ママからすれば、再婚だったわけだ。パパも再婚みたいだから、麻美さんのママは後妻ということになるのかな。麻美さんはそれまでママと二人でこのアパートに暮らしていたんだ。現在の次郎君と同じように」
「なんだって?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

おとうさんのオムライス

こぐまじゅんこ
児童書・童話
きょうは、にちようび。 おとうさんのしごとも、やすみです。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

手ぶくろ

はまだかよこ
児童書・童話
バレンタインデイ 真由の黒歴史 いいもん、しあわせだもん ちょっと聞いてね、手ぶくろのお話し

処理中です...