68 / 400
#66 隣家の女③
しおりを挟む
「私が想像するようなって、具体的には、どんな関係のこと?」
唇の端を歪めて、意地悪く琴子は訊いた。
虫も殺さぬ顔をして、盗人猛々しいとはまさにこのことだ。
この女、この期に及んでまだシラを切る気なのだろうか。
「そ、それは、男女の仲というか・・・つまり、肉体関係、みたいなものです」
視線をテーブルに落とし、言いにくそうに仁美が答えた。
「でも、夫がゆうべ、ここに泊まったのは事実なんですよね? それで、あなたたちの間には何もなかったと?」
そんなことが信じられるとでも思っているのか。
琴子の怒りは高まるばかりだった。
幼稚園のお泊り会じゃあるまいし。
それに、あの録画映像のこともある。
正一が浮気しているのは、まぎれもない事実なのだ。
「実は私、生まれつき心臓が悪いんです」
琴子の追及をはぐらかすつもりなのか、突然仁美がそんなことを言い出した。
「それで、今年の春頃、地下鉄の駅で調子が悪くなって倒れたところを、偶然正一さんに助けてもらったんです」
意外な言葉に、琴子は眉根を寄せた。
正一が、この女を助けた?
そんな話は聞いていない。
「それ以来、正一さん、会社の行き帰りや営業の途中で、様子見にうちに寄ってくださるようになって・・・。でも本当にそれだけなんです。ゆうべは、妻と喧嘩して、家に居辛いから泊めてほしいって、急に・・・。なんでも、息子さんの怪我のことで、奥さんと意見が合わないとか・・・」
正一のやつ。
はらわたが煮えくり返る思いだった。
和夫のことを、ぺらぺらとこの女に話したというのだろうか。
私にはろくに口もきかないくせに、赤の他人のこの女に・・・。
「他人の家のことに口を出さないでください!」
気がつくと、口調が荒くなっていた。
「それに、そんな綺麗事が通用すると思ってるんですか? 男が妻以外の女の家に入り浸る理由が、ただの親切心だなんて、そんな見え透いた言い訳、誰が信用するものですか!」
琴子の剣幕に怯えるかと思いきや、仁美がゆっくりと顔を上げた。
「そうですね・・・なかなか信じてもらえませんよね。こんな話」
自嘲気味に微笑んだ。
が、その割に眼は笑っておらず、なんとはなしに得体の知れぬ光をたたえている。
「では、恥を忍んで、琴子さんにだけ、告白することにします」
仁美が再び眼を伏せた。
ほつれ毛のかかった横顔に、匂うような色気が漂っている。
「笑わないでくださいね。正直なところ、私、男性には興味がないんです。子どもを産んでおきながら、奇妙な話だと思われるかもしれませんけど、出産してからわかったんです。私の身体は、男を受け容れるようにはできていないのだと・・・。前の夫との離婚の原因も、私のその性癖です。夫に抱かれるのが、とにかく苦痛で苦痛で耐えられなくって・・・。ですから、正一さんがいくら魅力的な男性でも、私との間にはそういう間違いは起きるはずがないんです」
「ちょ、ちょっと・・・」
言い知れぬ不安を覚えて、琴子は半ば腰を浮かしかけた。
この人、正気なのだろうか?
言うことが、どんどん常軌を逸していくような気がしてならないんだけど…。
「あなた、何が言いたいんですか?」
狼狽する琴子を見つめて、仁美が意味ありげに口元を綻ばせた。
垂れ目がちな眼が、濡れたように潤んで見えるのはなぜだろう。
「なんなら、ここで証明してみせてもいいんですよ」
気味が悪いほど甘ったるい声音で、仁美が言った。
「さっき言いませんでしたっけ? 私、ずっと前から琴子さんのこと、見てたんです・・・。いつか一緒に、ゆっくりおしゃべりできたらいいなって。もちろん、おしゃべりだけじゃなく、それ以上のこともできたらって・・・」
唇の端を歪めて、意地悪く琴子は訊いた。
虫も殺さぬ顔をして、盗人猛々しいとはまさにこのことだ。
この女、この期に及んでまだシラを切る気なのだろうか。
「そ、それは、男女の仲というか・・・つまり、肉体関係、みたいなものです」
視線をテーブルに落とし、言いにくそうに仁美が答えた。
「でも、夫がゆうべ、ここに泊まったのは事実なんですよね? それで、あなたたちの間には何もなかったと?」
そんなことが信じられるとでも思っているのか。
琴子の怒りは高まるばかりだった。
幼稚園のお泊り会じゃあるまいし。
それに、あの録画映像のこともある。
正一が浮気しているのは、まぎれもない事実なのだ。
「実は私、生まれつき心臓が悪いんです」
琴子の追及をはぐらかすつもりなのか、突然仁美がそんなことを言い出した。
「それで、今年の春頃、地下鉄の駅で調子が悪くなって倒れたところを、偶然正一さんに助けてもらったんです」
意外な言葉に、琴子は眉根を寄せた。
正一が、この女を助けた?
そんな話は聞いていない。
「それ以来、正一さん、会社の行き帰りや営業の途中で、様子見にうちに寄ってくださるようになって・・・。でも本当にそれだけなんです。ゆうべは、妻と喧嘩して、家に居辛いから泊めてほしいって、急に・・・。なんでも、息子さんの怪我のことで、奥さんと意見が合わないとか・・・」
正一のやつ。
はらわたが煮えくり返る思いだった。
和夫のことを、ぺらぺらとこの女に話したというのだろうか。
私にはろくに口もきかないくせに、赤の他人のこの女に・・・。
「他人の家のことに口を出さないでください!」
気がつくと、口調が荒くなっていた。
「それに、そんな綺麗事が通用すると思ってるんですか? 男が妻以外の女の家に入り浸る理由が、ただの親切心だなんて、そんな見え透いた言い訳、誰が信用するものですか!」
琴子の剣幕に怯えるかと思いきや、仁美がゆっくりと顔を上げた。
「そうですね・・・なかなか信じてもらえませんよね。こんな話」
自嘲気味に微笑んだ。
が、その割に眼は笑っておらず、なんとはなしに得体の知れぬ光をたたえている。
「では、恥を忍んで、琴子さんにだけ、告白することにします」
仁美が再び眼を伏せた。
ほつれ毛のかかった横顔に、匂うような色気が漂っている。
「笑わないでくださいね。正直なところ、私、男性には興味がないんです。子どもを産んでおきながら、奇妙な話だと思われるかもしれませんけど、出産してからわかったんです。私の身体は、男を受け容れるようにはできていないのだと・・・。前の夫との離婚の原因も、私のその性癖です。夫に抱かれるのが、とにかく苦痛で苦痛で耐えられなくって・・・。ですから、正一さんがいくら魅力的な男性でも、私との間にはそういう間違いは起きるはずがないんです」
「ちょ、ちょっと・・・」
言い知れぬ不安を覚えて、琴子は半ば腰を浮かしかけた。
この人、正気なのだろうか?
言うことが、どんどん常軌を逸していくような気がしてならないんだけど…。
「あなた、何が言いたいんですか?」
狼狽する琴子を見つめて、仁美が意味ありげに口元を綻ばせた。
垂れ目がちな眼が、濡れたように潤んで見えるのはなぜだろう。
「なんなら、ここで証明してみせてもいいんですよ」
気味が悪いほど甘ったるい声音で、仁美が言った。
「さっき言いませんでしたっけ? 私、ずっと前から琴子さんのこと、見てたんです・・・。いつか一緒に、ゆっくりおしゃべりできたらいいなって。もちろん、おしゃべりだけじゃなく、それ以上のこともできたらって・・・」
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる