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第6章 ネオ・チャイナの野望

#1 奇襲①

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 サトが音もなく立ち上がった。

 そのままルビイに歩み寄ると、再生したばかりの右腕に指を這わせた。

 白魚のような指の繊細な動きに、ルビイの躰の芯に熱い液状のものが生じ、さざ波のように全神経に広がった。

 生身の腕で感じる愛撫の感触は、ルビイにとってひどく新鮮なものだった。

 これまで義手と義足には感覚と呼べるものがなかったのだ。

「戻られたのですね。手足が。それにしても、なんて美しい…」

 上目遣いに見つめるサトの瞳に浮かぶしっとりとした光に、ルビイは彼女の欲情を感じ取ったように思った。

 が、他のメンバーたちの前でそれに応えるわけにはいかなかった。

「ありがとう。サト、あなたのおかげよ」

 サトが愛おしむように肌を愛撫するのを心地よく感じながら、ルビイは微笑んだ。

「あなたがここに私を運んでくれたとか」

「いえ、私はただ故郷の村に伝わる伝説を思い出しただけ。これは、常世の虫がルビイさまをこの星の一部と認めた証。”あれ”は星の傷を癒すようにあなたさまを治した。そういうことだと思います」

「隊長が全快したのはめでたいが、ルビイよ、これからどうする?」

 アニムスたちの背後から、マグナが訊いてきた。

 ルビイにはマグナのこの切り替えの早さがありがたかった。

 いつまでも祝福ムードに浸っているわけにはいかない。

 どういう経過なのかは不明だが、新たに命を授かった以上、使命を果たすために行動するのみだ。

「ウラの一族を探そうと思うの。彼らを説き伏せて、戦線に合流してもらう。せっかく南方領に足を踏み入れたのだから、手ぶらで帰るのはもったいない。クロエにそう教えられました」

「ウラとは、もしや」
 
 マグナの眉間に深い縦じわが寄った。

「あの伝説の鬼族のことではあるまいな」

「マグナは、ウラを知ってるの?」

 ルビイは目を見開いた。

 確かマグナの前身は、諸国を回る格闘士だったはずだ。

 さまざまな土地で力自慢を決める大会に参加して、その賞金で生活する。

 そんな興行師のような職についていたと聞いたことがある。

「ウラは俺たち力自慢の間で囁かれる伝説の一族だよ。大陸一の怪力を持つ、残虐無比な狂人の集団だ。一説によれば、王立連合軍が魔王に決戦に挑む前、独自に魔王軍と戦って滅ぼされたと聞いている。だからもう、20年以上も昔のことだな」

「それは本当じゃよ」

 祭壇のほうからクロエの声がした。

「ウラたちもわれら同様、自然の摂理に反する者の支配を嫌う。だから単身魔王に挑んだのじゃ。だが、結果は無残なものだった。力だけでは魔王には勝てぬ。やつらはそれを証明したようなものじゃった。しかし、そこの大女よ、ひとつだけその言い伝えには誤りがある。ウラは完全には滅びてはおらぬ。主転童子とその残党が、渓谷を越えた先で新たな居住地を築いて再起を図っておる。いってみれば、お主らときゃつらの目的は同じ。主転童子に気に入られれば、共闘も決して夢ではあるまいて」

「鬼族に認められるには、鬼に力で勝つしかない。確か、そういうことだったな?」

「その通りじゃ」

 クロエが高らかに哄笑した。

「お主らのうち、誰が鬼に一矢報いることができるかな?」
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