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第6章 ネオ・チャイナの野望

#56 少女に迫る危機⑧

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 ミネルヴァを出発して十日間ー。

 ルビイは不眠不休でモーターサイクルを駆った。

 もとよりこのハーレーは、スナフと女神との契約により、永久駆動機関を備えている。

 だからそもそも給油の必要がない。

 問題なのは、搭乗者のほうだった。

 超古代文明のナノマシンと、龍脈のエネルギーにより強化されたルビイはまだいい。

 だが、同行させたアニムスは、そうはいかなかった。

 思春期の少年らしく、けなげに意地を張ってはいるが、かなりバテてきているのがわかる。

 そろそろ野宿はやめて、街に泊まるかー。

 腰にしがみついたまま、じっと押し黙っているアニムスを慮って、ルビイは険しい峠道を下った。

 荒れ地、草原地帯、砂漠地帯、岩山と、すでに大陸を三分の二ほど横断してきている。

 ネオ・チャイナの国境をきのう越えたところで、目的地のネオ・ホンコンはすぐそこだ。

 あと三分の一を踏破してネオ・ホンコンに入るには、五日もあれば十分だろう。

 マシンで突っ走ってきたため、ほとんど魔物と戦わずに済んでいた。

 そもそも、全速力で走るモーターサイクルに追いつくことのできる生物など、この世界には存在しないのだ。

 ここからなら、ネオ・チャイナの主要都市のひとつ、ネオ・シャンハイが近そうだ。

 町はずれにマシンを隠し、徒歩で中に入った。

 闇市の喧騒に紛れ、スラムに宿を取ることにする。

 気になるのは、アニムスの態度だった。

 旅が続くにつれ、無口になり、なぜだかルビイを避けるようなそぶりを見せるのだ。

 心当たりは、あった。

 アニムスとて、本当は、妹のことで頭も心もいっぱいのはずである。

 だが、思春期の少年としての肉体が、そんな思いを裏切ろうとしている。

 おそらくそんなところだろう。

 ルビイが選んだのは、最低ランクの宿だった。

「なに、ツイン? 姉さん、趣味が悪いねえ。その坊主、まだ子供じゃないかい」

 受付カウンターから身を乗り出し、乱杭歯を剥き出しにして、禿げ頭の親父が嗤った。

「な…」

 何か言いかけ、アニムスが真っ赤になる。

「余計な口を利くんじゃないよ。このカスが」

 長い脚を振り上げ、頑丈なブーツの底でカウンターを蹴り飛ばすと、ルビイはすごんだ。

「あんたはさっさと部屋を用意すりゃあいいんだよ。死にたくなけりゃ、引っ込んでな!」
 
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