臓物少女

戸影絵麻

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#10 逃避行②

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 放っておくわけにも行けないので、父の亡骸を寝室に使っている奥の部屋まで運んだ。
 顔にタオル、躰に布団をかけてやったが、やはり悲しみに類する感情は湧いてこなかった。
 居間に戻ると少女は卓袱台の前にへたり込んでいて、細い両手で頭を抱えていた。
「あのう」
 向かい側に正座すると、明はおそるおそる声をかけた。
「いろいろわかんないんだけど・・・よかったら教えてくれないかな?」
 コンビニの客以外で他人と話すのはずいぶん久しぶりだった。
 だから自然、緊張で声がかすれてしまう。
「例えば、父さんが言ってた、その、人肉厨房とか、培養人間とか・・・」
 一番知りたいのは、少女が何者か、ということだ。
 が、とりあえずそれは、外堀を埋めてからにしよう、と明は思っている。
「人肉厨房は、臓器の密売で世界を牛耳る闇の組織。その影響力は、海外の経済界、政界にも及んでいる」
 頭を抱えたまま、少女がしゃべり出した。
 意外にしっかりとした口調で、”牛耳る”とか、難しい言葉を使いこなす所をみると、案外知的水準は高いのかもしれない。
「あたしたち培養人間は、最初、臓器のクローンをつくる元であるオルガノイドとして、万能細胞から生み出された。でも、臓器培養が軌道に乗ると、人肉厨房は、面白がって、あたしたちを怪人に改造し始めたの。余興というか、ある意味、生体兵器として」
「オルガノイドって何?」
 明にはそもそも最初のそこがわからない。
「オルガノイドとは、人体組織培養のための”基盤”のこと。それぞれ専門分野に分かれてて、脳オルガノイドとか、前立腺オルガノイドとか、肺オルガノイドとか、肝臓オルガノイドとか、さまざまな種類が開発されてるの。もちろん、目玉とか指とかもね」
「ああ、だから、やつは指の化け物だったのか」
「そう、指ノイド。その前は、目玉ノイドに襲われた。この場所はバレてるから、もうここにはいられない」
 すっくと立ちあがる少女。
 ミニスカートからすらりと伸びた生足が目の前ににょっきり二本現れ、明はごくんと唾を呑み込んだ。
 少女の足は、脛から膝までは細いのに、徐々に太くなって、むっちりした太腿に続いている。
 太腿のつけ根はさすがにプリーツスカートの闇に隠れているが、丈が短いのでマジですれすれだ。
 ここまでのミニだと普通、裏パンツ付きであるのが常識である。
 だが、少女の場合、たまにちらりと見える白い布は明らかに下着っぽい。
 ヤバい。
 俺は何を考えてるんだ。
 誘引物質から眼を逸らし、明は全身を強張らせた。
 強張っているのは肩や背中だけではない。
 一番しこってきているのは、股間である。
 しまった、と思う。
 こんなことなら、ゆうべしっかりオナニーしておけばよかった。
 下手に溜まっているだけに、この状況は苦しくてならない。
「行きましょう」
 葛藤に苛まれる明を見下ろし、尻尾を揺らして、少女が言った。
「次の追手が来る前に、早く隠れ家を見つけなきゃ」
 
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