汚れちまった悲しみに、きょうも血潮が降り注ぐ

戸影絵麻

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#14 接触

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 窓には分厚いカーテンがかかっている。
 が、音は間違いなくその方向から聞こえてくるようだ。
 ゴミの山の中を四つん這いになって移動すると、比奈は膝で立ち上がり、窓の桟に手をかけた。
 なんだろう。
 音のしたあたりのカーテンを少しめくってみる。
 外の明るい光が射してきて、無意識に目を細めた。
 曇った窓ガラスの向こうに、黒い影が見える。
 誰かがベランダにいるのだ。
 比奈は人差し指でで曇りをこすって、10円玉ほどの大きさの丸い窓を開けた。
 女の人の顔。
 肩までの髪。
 悲しそうなまなざし。
 なんだか心配そうな表情をしている。
 びっくりして、のけぞった。
 見たことのない顔だ。
 あ、でも、この人。
 思い出した。
 きのう、ベランダで震えていた時、声をかけてくれたあの人だ。
 確か、比奈と同じ名前だとか、言ってたっけ。
 もう一度、窓に顔を近づける。
 と、女の人の口が動いた。
 だ・い・じょ・う・ぶ?
 そう言っているように見える。
 反射的に比奈は首を横に振った。
 いい人かも。
 本がそう告げている。
 比奈にやさしくしてくれる人は、ほとんどいない。
 でも、この人は…。
 急いで、窓に指で文字を書いた。
 ーおなか、すいたー
 女の人が、笑った。
 そこだけ陽が射したような、あたたかい笑顔だった。
 その笑顔に勇気づけられて”窓”を拡大すると、比奈にも見えるよう、女の人がコンビニの袋を掲げて見せた。
 食べ物だ!
 比奈の眼が輝いた。
 サッシ窓のクレセント錠に手を伸ばし、震える指先で回した。
 窓を開けると、冷たい風が吹き込んできて、比奈のふわふわの髪を撫で上げた。
「こんなことだろうと思った」
 女の人が、泣き笑いのような顔をして、言った。
「また会えたね。比奈ちゃん。はい、これ」
 比奈は旨に押しつけられた袋に目を落とした。
 おいしそうな菓子パンが、いっぱい入っている。
 比奈の大好きな牛乳もあった。
「食べて」
 涙声で、女の人が言った。
「これは、がんばってる比奈ちゃんへの、差し入れだよ」
 

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