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#37 再会
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思いのほか、部屋の中は静かだった。
コの字型に並べられた低いテーブルに、5、6人の子どもたちが思い思いの恰好でとりついている。
歳の頃は、3歳から6歳くらいの間だろうか。
男の子もいれば、女の子もいる。
みんな、画用紙を前に、クレヨンで絵を描いている最中のようだ。
そのあいだを、かっぽう着姿の若い女性がゆっくりと歩いている。
職員のひとりなのだろう。
ひっつめ髪のよく似合う、きびきびした立ち居振る舞いの女性である。
「どうぞ」
案内係の女性に促され、一歩中に足を踏み入れると、あの感覚がひと際強くなった。
教室の後ろに、恰幅のいい中年女性が立っている。
高級なスーツを着こなし、上品な眼鏡をかけた夫人である。
この人が、松村さん…?
女社長というイメージとはほど遠い、人の好さそうな顔をしている。
芙由子たちを見ると、やわらかく微笑んだ。
夫人の会釈に、芙由子は軽く頭を下げた。
直感的に、
違う。
と思った。
この人じゃない。
この人の顔には、悪意がない。
なら、いったい…。
その時、ジャラリと金属音がした。
豊満な夫人の陰に隠れて今まで気づかなかったが、その向こうにもうひとり、誰かいる。
夫人のパンプスの向こうにのぞく、武骨な編み上げ靴の先。
悪意の波動は、どうやらそこから漂ってくるようだ。
背筋がぞくりとした。
うなじの産毛が、ちりちりと一斉に逆立ち始めるのがわかった。
誰だろう?
確かめようと首を伸ばしかけた時、視界の隅で黄色い色が動いた。
子どもたちのほうへ目を転じると、一番離れた席で絵を描いていた少女が、ぱっと顔を上げたところだった。
ハート形の小さな顔に、愛くるしいくりくりした瞳。
黄色いセーターを着て、髪をツインテールに結んでいる。
比奈である。
「比奈ちゃん!」
芙由子が叫ぶのと、比奈がクレヨンを放り出し、駆け出すのとがほとんど同時だった。
気づいた時には、比奈の小さな身体が腕の中にあった。
「比奈ちゃん…」
芙由子はそのあたたかい身体をぎゅっと抱きしめた。
比奈は何も言わずに、ひたすら芙由子の胸に頬をすりつけてくる。
会えた。
やっと会えたのだ。
この子は…。
この子は、私が守るんだ…。
比奈の髪は日向の陽射しの匂いがした。
その匂いを胸いっぱいに吸い込んだ時、意外なほど近くで、しゃがれた男の声がした。
「ねえ、ママ、僕、あの女の子がいいんだよねえ」
コの字型に並べられた低いテーブルに、5、6人の子どもたちが思い思いの恰好でとりついている。
歳の頃は、3歳から6歳くらいの間だろうか。
男の子もいれば、女の子もいる。
みんな、画用紙を前に、クレヨンで絵を描いている最中のようだ。
そのあいだを、かっぽう着姿の若い女性がゆっくりと歩いている。
職員のひとりなのだろう。
ひっつめ髪のよく似合う、きびきびした立ち居振る舞いの女性である。
「どうぞ」
案内係の女性に促され、一歩中に足を踏み入れると、あの感覚がひと際強くなった。
教室の後ろに、恰幅のいい中年女性が立っている。
高級なスーツを着こなし、上品な眼鏡をかけた夫人である。
この人が、松村さん…?
女社長というイメージとはほど遠い、人の好さそうな顔をしている。
芙由子たちを見ると、やわらかく微笑んだ。
夫人の会釈に、芙由子は軽く頭を下げた。
直感的に、
違う。
と思った。
この人じゃない。
この人の顔には、悪意がない。
なら、いったい…。
その時、ジャラリと金属音がした。
豊満な夫人の陰に隠れて今まで気づかなかったが、その向こうにもうひとり、誰かいる。
夫人のパンプスの向こうにのぞく、武骨な編み上げ靴の先。
悪意の波動は、どうやらそこから漂ってくるようだ。
背筋がぞくりとした。
うなじの産毛が、ちりちりと一斉に逆立ち始めるのがわかった。
誰だろう?
確かめようと首を伸ばしかけた時、視界の隅で黄色い色が動いた。
子どもたちのほうへ目を転じると、一番離れた席で絵を描いていた少女が、ぱっと顔を上げたところだった。
ハート形の小さな顔に、愛くるしいくりくりした瞳。
黄色いセーターを着て、髪をツインテールに結んでいる。
比奈である。
「比奈ちゃん!」
芙由子が叫ぶのと、比奈がクレヨンを放り出し、駆け出すのとがほとんど同時だった。
気づいた時には、比奈の小さな身体が腕の中にあった。
「比奈ちゃん…」
芙由子はそのあたたかい身体をぎゅっと抱きしめた。
比奈は何も言わずに、ひたすら芙由子の胸に頬をすりつけてくる。
会えた。
やっと会えたのだ。
この子は…。
この子は、私が守るんだ…。
比奈の髪は日向の陽射しの匂いがした。
その匂いを胸いっぱいに吸い込んだ時、意外なほど近くで、しゃがれた男の声がした。
「ねえ、ママ、僕、あの女の子がいいんだよねえ」
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