背徳の獣たちの宴

戸影絵麻

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第1章 背徳の影

#5 7日前・夜

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 父が帰ってきた気配で、階下に降りることにした。

 居間に顔を出すと、テーブルには家族3人がそろっていた。

「大丈夫か?」

 新聞から顔を上げて、父が訊いてきた。

 暑い日が続くせいか、いつもよりやつれて生え際も後退しているように見える。

 派手な顔立ちと豊満な体つきの母に比べると、腹の出た小男の父は、いかにもみすぼらしい。

 ノミの夫婦とでもいおうか。

 要は、不釣り合いなのだ。

「いつものやつ。だから平気」

 短く私は答えた。

「無理しないのよ」

 家族の取り皿にボウルに山盛りのポテトサラダを取り分けながら、母が言った。

「つらいなら、明日学校、お休みしてもいいから」

「大丈夫だったら」

 声にいら立ちが混じるのがわかった。

 母だけには、話しかけられたくなかったのだ。

 ちらりと俊のほうを見る。

 俊は何事もなかったように、箸で白米を口に運んでいる。

 心なしか、顔色が悪い。

 この季節は、家の中に居ても日射病にかかることがある。

 もしかしたら、本当に体調が悪かったのだろうか。

 それとも、母に、あんなことを、されたせい?

 どういうつもりなのか、できれば俊に直接聞いてみたかった。

 あれは合意の上だったのか。

 それとも、無理やりされたのか…。

 私と父の分の味噌汁と料理を並べ終えると、母は俊の隣に腰かけた。

 いつもの席といえば、そうだ。

 食事の時、私と父、俊と母が並んで座る。

 でも、きょうはいつもより、距離が近すぎる気がする。

 母の肩は、完全に俊の腕に触れているし、あの位置なら、テーブルの下で手を握っていてもおかしくはない。

 たまらなくなって、私は隣の父の様子を横目でうかがった。

 なにも知らない様子で、夕刊を読みながら、のんびりと箸を口に運ぶ父。

 何もかもを打ち開けてしまいたい。

 突然、そんな衝動に駆られ、私はぱたんとテーブルに箸を置いた。

「どうしたの?」

 目ざとく見つけて母が訊く。

 その瞬間だった。

 それまで黙っていた俊が、おもむろに口を開いた。

「テレビ、つけていいかな?」

 テレに嫌いの俊には、珍しいことだった。



 
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