雑草の背伸び

honjya

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1. 小さなそよ風

A

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  入社して一年程で配置転換により中城と同じ事務所で働いているAは転属当初から大人しいイメージではあるが、もの落ちしない発言で何かと名前が挙がる事が多く、いつも笑顔を見せてくれる性格から皆からは癒し系と重宝されている女性だった。
 中城と部署は違うが事務所の席は真後ろに座っていた彼女だが、あまり話す機会もないまま一年が過ぎていた。
配置転換から経験のない仕事を任されていた事もあり必死になる彼女をあまり気にもとめず、中城もそれなりに仕事をしてきた。
きっと彼女もそんなに中城を気にかけてはいなかっただろう。女性という意識からあまり話しかけられなかった事もあっただろう。

同じ日々のはずだった。
ある日の15時頃、小ミーティングを終えた中城は、多少自分の意見が取り上げられた事で少しいい気分になっていた。普段より少し自席で同僚達と雑談が盛り上がる中、入社したての部下から、
「今度飲みに行きましょうよ~」
と言われたが
「いやー、俺酒飲めねーしなー」
と中城は面倒くさそうに言った。
南国に所縁を持つ家系の中城は、顔が人一倍濃く一見、酒豪と思われる事が多いが下戸だと明かすと驚かれる場面が度々あった。
突然、
「中城さん、飲めないんですか?」
酒の話に食いついたのか、Aが会話に加わってきた。今までAから話しかけられる事など無かった為、多少驚きながらも
「そうなんだよね~、体質的に駄目なんだよ。以前カクテル2杯で倒れた経験があるくらいだからね。」
事実である。もともと両親からしてそんなに酒が強くない中城はさらに下戸になってしまっていたようだ。
「Aさんは飲めるの?」
なかなか中城にしては珍しくキャッチボールができている。
「お酒好きなんです。飲み屋さんの雰囲気で飲むのがいいんですよ。」
意外だった。大人しいイメージからは想像できなかった。
「へ~~、じゃぁ 今度皆んなで飲みに行くか?」
「いいですね~、是非!」
そう言ってAはまたデスクに戻っていった。照れからか部下にも目を合わせず中城も席に戻り平然と仕事をしているフリをしていたが、全く仕事の事は考えられなかった。本当の事を言えばAに対して今までそんなに意識する事がなかった。とびきりの美人でもないが、見た目が悪い訳でもない。ただ、大人しさから話が続きそうもないと感じていたのかもしれない。ただ、話してみると気を使うものの気さくに話せそうな気がした。
しかし、その日それ以外何もなくいつもの時間、帰宅電車の中で冷静になりながら今日の出来事を考えていると、「まぁ、結局どちらから誘う事もなくこの飲み会は開かれないだろうな」とだんだん思い始めた。

また同じ日々の中、Aとも話す事もなく数週間がたった。あの会話から次の日、その次の日くらいは「もしかしたら誘われるかも、誘うチャンスがあるかも」などと淡い期待もあったが、日が経つにつれ実は夢の出来事だったかのように忘れていった。
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