雑草の背伸び

honjya

文字の大きさ
5 / 13
2. 夢見る雑草

現実世界

しおりを挟む
シャコッ!
「よかった、返ってきた。」
少し安心したのもつかの間、
【わかりました。よろしくお願いします。】
感情がわからない短文の返信に中城はさらに自問の沼にはまっていったのだった。

人が感じる時間とは人それぞれである。相対性理論とか難しい事ではない。例えば、大勢の人の前で話さなければならない状況を待つ時間は早く感じるものだ。つまり、その人の置かれている状況や感情で同じ時間を遅くも早くも感じることがある。その日の中城も約束の19時までの時間があっという間に過ぎていった。

同じ日々が揺れた。
19時前、会社帰りの人々が交差する中、中城は〇〇駅の待ち合わせ場所として有名な猫の銅像の前にいた。
考えていた。第一声はどう声をかければいいのか。
「お疲れ様です、お疲れ様、研修お疲れ様、おう!、やぁ、こんばんは、チェース、ハロー、、、」緊張のあまり中城は訳の分からない状態まで壊れていた。Aを見つけたら手をあげるべきか、近づいていくべきか。
中城の視線は意味もなく駅のポスターに向いていた。
その時、視界の端にAが改札を出てくる姿が映った。しかし、中城はなぜかポスターから視線を外さず直視出来なかったが、確信できるほどAの姿だ。カーと頭に血液が集まる。
「どうしよう。」
そうこうしているうちにAは視線の端から消えていた。
おそらく他の人から見ればポスターを夢中で凝視しているおじさんに見えるだろう。
ポスターが目に焼きつくほどに凝視しているが、何のポスターかすら分からないくらい意識は視線の端に集まっていた。
1分くらい経っただろうか。
耐えられないくらいAの行方が気になる。
「なんで気付かないフリをしているんだ、俺は、」
ゆっくりと駅の改札に目を向け、Aの行方を追ったが予想した進路には見えなかった。平然を装いながらも、焦りが勝ち中城の目は激しく動いていた。

ポンッ!
肩に小さな衝撃を受けた。反射的に振り向いた先には、Aが微笑みを浮かべ立っていた。
思わず笑みがこぼれる。
鼓動が走り出す。
「中城さん、お疲れ様です。」
「お、お疲れ様。」
一瞬眩しさを感じた中城は、目をパタパタさせた。
「どうかされました?」
黄色いカーディガンにタイトめの白いパンツが、駅のくすんだ基調のキャンバスに映えていた。
「いや、なんでもないよ。」
Aは、ハハハと口を押さえ笑い出した。
「何?」
少し怪訝な顔で中城が問いかける。
「いえ、中城さんこの前会社の階段で転んでたの思い出しちゃいました。」
「見てたの?」
「はい!!すごく上手に転んでましたよね。」
確かに一週間くらい前のある日、昼休み直前に書類を他の部署に渡すため、急いで階段を下り始めた矢先、スーツのポケットが階段の取っ手に引っかかり、まるでスケート選手のダブルアクセルの様に回転しながら踊り場まで転んでいた。誰にも見られてないとおもっていたのに、、、
「みてたの?」
「はい、私も階段に行ったら中城さんが回りながら落ちていくの見て笑いが抑えられなくて事務所に戻りながら爆笑してました。」
「本当?誰もいないかも思ったのに、、
ひどいな、助けてよ。」
「ごめんなさい。でも、持っている書類も一緒に回っていたから、プロペラみたいで飛びそうでしたよ。」
Aは、思い出したイメージが鮮明になったのか吹き出しながらさらに大きく笑っていた。
「見られてるなんて全然気づかなかったな~。」などと話しながら、中城は切り出すタイミングを見ていた。
「行こうか。」
「はい。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...