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第四話
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「大丈夫か?」
心配しているのか困惑しているのか、眉尻を下げてこちらを見ているカイを見上げて、リーアはまた息を飲んだ。
言葉が出てこないかわりに、何度かうなずく。
「あの実がとりたいのか?」
「……どうしてここに?」
質問の答えにはなっていない返事をすると、カイは口ごもった。
「魔導士様は、この時間はお忙しいのでは」
不愛想をやめてちゃんと接客しようという先程の決意は、悪い方向に現れた。声は硬いのに言葉だけはお客様向けで、結果として厭味ったらしい。
しまったと後悔したが、出てしまったものはどうしようもなかった。
案の定、カイはむっとしたように眉根を寄せた。
「何だよ、その言い方。ちょうど時間が空いてたんだ」
「だって……ごめんなさい」
リーアはのろのろと立ち上がると、服についた土を落とした。
それはもう念入りに、何度も服をはたいた。
カイは黙ってこちらを見ている。
それに気付かない風を装って、リーアは服をはたき続ける。
気まずくて手持無沙汰だったのだ。結局、どうしてカイがここに来たのかもよく分かっていない。
沈黙が流れる中、リーアが服をはたく音と、風が木の葉を揺らす音だけが響く。目を合わせづらくて、彼女の視線はずっとカイの胸元辺りに注がれていた。それより上を見る勇気が出てこない。
「……それじゃ」
リーアがようやく思いついた言葉は、その程度だった。
頭を一つ下げて、カイの脇を擦り抜けようとする。
「え、木の実は?」
元々、木の実は自分でとるつもりがなかった。動揺して変な行動に出てしまっただけだ。
「後で誰かに手伝ってもらうから大丈夫」
「それなら、俺が手伝うよ。ほら」
カイが言い終わらない内に、リーアの足は地面を離れた。
浮遊感に、思わず悲鳴が漏れる。一人で浮かんだのは初めてで、リーアは縋るものを求めて両手をバタバタさせた。
その片手が大きな手に包まれて、彼女は驚いて彼の顔を直視してしまった。
「そんなに慌てなくても、落っことしたりしないよ」
そう言って笑みを零したものだから、リーアは息をするのを忘れてしまいそうだった。
宙に浮いている中で支えてくれるのは彼の手だけで、思わず強く握り返してしまう。そうすると、彼女より大きくて硬くかさついた温もりが、無視するには難しいほど伝わってくる。
リーアの心臓が早鐘を打っている。全神経が片手に集中してしまったかのようだ。
彼女が先程登ろうとした木は結構な大木だったようで、実の生っている枝は随分高いところにあった。
あまりにも慌てていたので、そんなことにも気付いていなかったのだ。
カイはリーアを太い枝の上に下ろしてくれた。彼女がしっかり腰を下ろしたのを確認すると、彼の手がはなれ、彼女を包んでいた魔法の風も弱まっていく。それに安堵すると共に、心に隙間風ができたような寂しさを感じた。
カイは隣に降り立つと、手のひら大の実をいくつかもいで手渡してくれた。リーアも、届く範囲のものを三つほどとり、膝の上に集めていく。熟れても硬い実がごろごろと膝の上を転がる。
「袋か何かないのか?」
「うん」
カイは肩から斜めに掛けていた鞄の中を漁った。
木の実を入れるものを探してくれたようだが、生憎見つからなかったらしい。一つ溜息をついて、彼はリーアの隣に腰を下ろした。
「食っちゃえばこれ使えるな」
そう言って彼が取り出したのは、リーアが今朝手渡した、パン屋の紙袋だった。
ガサガサと音を立ててサンドイッチとドーナツを取り出すと、空っぽになった袋をリーアに寄越す。
礼を言ってそれを受け取り、リーアは紙袋に木の実を入れていった。袋の中はドーナツの甘い匂いがした。
なんだかよく分からない状況になった。
木の実を詰めながら、リーアはこっそりとカイの顔を覗き見た。サンドイッチを頬張っている。
「親父さんのパンって美味いよな。リーアはどう? 上達した?」
「パンも練習はしてるけど、お父さんみたいには全然……」
「そっか」
店を継ぐならパン作りももっと上手にならなければいけないが、まだ店に出すのを許されたのはパン一種類とドーナツだけだ。父親が得意な丸パンの出来は雲泥の差だった。
「あの……職場に帰らなくていいの? というか、どうしてここに来たの?」
先程聞きそびれたことを、もう一度尋ねてみる。
カイはサンドイッチを食べながら「うーん」と唸った。
「さっきリーアが話してた先生がさ、リーアの様子がおかしかったから、心配だから追いかけろって」
あの女の先生は、容姿だけじゃなく内面まで素晴らしいようだ。会ったばかりのリーアのことを見抜いた上、心配までしてくれるなんて。
気遣いが嬉しい反面、自分の未熟さを思い知って落ち込んだ。
「あの先生、リーアの作ったドーナツがめちゃくちゃ気に入ったみたいでさ。今度の祭りの時は絶対買いに行くんだって」
「……そうなんだ」
喜んでいいのか泣いていいのか、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
カイとこうして久しぶりに話ができて嬉しい。ドーナツを褒めてもらえて嬉しい。だが、彼の口から出てくるのは別の女性の話だ。
だが、そこで悲しむから駄目なのだとリーアは自身を叱咤した。完敗なのだから、すっぱり諦めるべきだ。
諦めるためにもカイの口からはっきり言ってもらおうと、リーアは決意した。
「……あ、あの綺麗な先生と、一緒に、ドーナツを食べたの?」
カイは目を丸くした。変なことを訊くんだな、という顔をしている。
「同僚皆でというか……俺、いっつも同じもの食ってるからさ。どれだけ美味いのか味見させろって言われて、八等分くらいにさせられたんだ。結局俺の口に入ったのは八分の一だよ」
大げさに溜息をつく様子に、リーアは思わず小さな笑い声を零した。
二人だけで分け合ったのではなかった。
それが分かっただけで、不思議と彼女の心は軽くなった。
「別に味が変わるわけじゃないけど、輪っかになってないドーナツじゃ物足りないよ」
「そうなの? 穴が開いている分損してるって言ってなかった?」
「けど、何かいいものが見えるんだろ?」
カイは残りのサンドイッチを口に詰め込むと、ドーナツを掲げた。きっとその穴からは、町の景色が見えているだろう。
今日はいい天気だ。ぽかぽかと日差しは暖かく、白い雲がゆったり流れていく。この様子なら、午後もきっとたくさんお客さんが来てくれるだろう。
「いいもの、見えた?」
「うーん」
カイはドーナツを虫眼鏡のように目の前に持ってきたまま、隣に座るリーアに顔を向けた。
「好きな女の子が見える」
その言葉を飲み込むのに時間がかかり、リーアは何度か瞬きした。相変わらず、カイはドーナツの穴からこちらを見ている。
「ど」
「ドーナツ?」
「ち、違う」
顔から火が出そうだった。
「ど、どうしてそんなこと言うの」
「どうしてって……結構勇気出して言ったんだぞ、これでも」
カイは眉根を寄せて、ドーナツをかじった。よく見ると、耳が少し赤い。
「だって、私……ずっと愛想悪かったし……油臭いし……カイの周りには、もっといい人がたくさんいるのに」
言い訳だが、だからこそ彼女は想いを告げようとは考えなかったのだ。
祭りの日にカイの腕に抱きついた女の子も、先程の女性教師も、リーアよりずっと魅力的だ。
「なんだよ。振るならはっきり振ってくれよ。俺のことどう思ってんの?」
カイの目が真っ直ぐにリーアに向けられる。
とても真剣な目だった。
多少の居心地の悪さも手伝って、彼女の心臓はばくばくとうるさいくらいだ。
口を開きかけ、閉じる。
リーアは、喉元まで出かかっている言葉を懸命に押し出した。
「……好き。すごく、ずっと」
裏返ったり掠れたりの、悲しくなるほど情けない声だった。
だが、目の前のカイの表情がほころんだので、リーアもつられて笑みを浮かべた。
「良かった。俺の勘違いだったらどうしようかと思った」
「勘違いって?」
「だってさ、期待するじゃないか。毎朝あんなに顔を真っ赤にされたら」
「え?」
全く自覚していなかった。
「俺に気があるのかな、なんて期待して大外れだったら、赤っ恥だろ?」
リーアは首を振った。
顔を赤くしていた自覚はなかったが、リーアがカイを好きだというのは大当たりだった。
「恐かったの。カイが先生になって、朝の少しの時間だけど、また毎日お店で会うことができるようになって……告白して、断られたらそれすらなくなっちゃうと思ったから」
「俺だって似たようなもんだよ。振られたら店に通いづらいし、そしたら店のパンもドーナツも食えなくなる」
「でも、カイはちゃんと言ってくれたわ。……私も、これからはもっと頑張る」
リーアの決意表明に、カイは眉を上げた。
ドーナツの最後の一口を飲み込み、リーアの様子を見守っている。
リーアは意を決して口を開いた。
もうこれ以上はないというくらい、頬が熱をもっている。
「キ」
「うん?」
「…………キス、したい」
「何?」
「……キスが、したいの」
「もう一回」
「聞こえないふりしてない?」
思わず眉をしかめると、カイは笑い声を漏らした。
「ごめん、いっぱい聞きたくなって」
そう言いながら伸ばした彼の手が、リーアの髪に触れた。それにどきりとしている間に、二人の距離が縮んでいく。
紙袋の残り香か、リーアの髪に染みついた匂いか、先程まで食べていたカイのものか。ドーナツの匂いが鼻孔をくすぐる。
そっと優しく重ねられた唇は、ドーナツのように甘く感じた。
心配しているのか困惑しているのか、眉尻を下げてこちらを見ているカイを見上げて、リーアはまた息を飲んだ。
言葉が出てこないかわりに、何度かうなずく。
「あの実がとりたいのか?」
「……どうしてここに?」
質問の答えにはなっていない返事をすると、カイは口ごもった。
「魔導士様は、この時間はお忙しいのでは」
不愛想をやめてちゃんと接客しようという先程の決意は、悪い方向に現れた。声は硬いのに言葉だけはお客様向けで、結果として厭味ったらしい。
しまったと後悔したが、出てしまったものはどうしようもなかった。
案の定、カイはむっとしたように眉根を寄せた。
「何だよ、その言い方。ちょうど時間が空いてたんだ」
「だって……ごめんなさい」
リーアはのろのろと立ち上がると、服についた土を落とした。
それはもう念入りに、何度も服をはたいた。
カイは黙ってこちらを見ている。
それに気付かない風を装って、リーアは服をはたき続ける。
気まずくて手持無沙汰だったのだ。結局、どうしてカイがここに来たのかもよく分かっていない。
沈黙が流れる中、リーアが服をはたく音と、風が木の葉を揺らす音だけが響く。目を合わせづらくて、彼女の視線はずっとカイの胸元辺りに注がれていた。それより上を見る勇気が出てこない。
「……それじゃ」
リーアがようやく思いついた言葉は、その程度だった。
頭を一つ下げて、カイの脇を擦り抜けようとする。
「え、木の実は?」
元々、木の実は自分でとるつもりがなかった。動揺して変な行動に出てしまっただけだ。
「後で誰かに手伝ってもらうから大丈夫」
「それなら、俺が手伝うよ。ほら」
カイが言い終わらない内に、リーアの足は地面を離れた。
浮遊感に、思わず悲鳴が漏れる。一人で浮かんだのは初めてで、リーアは縋るものを求めて両手をバタバタさせた。
その片手が大きな手に包まれて、彼女は驚いて彼の顔を直視してしまった。
「そんなに慌てなくても、落っことしたりしないよ」
そう言って笑みを零したものだから、リーアは息をするのを忘れてしまいそうだった。
宙に浮いている中で支えてくれるのは彼の手だけで、思わず強く握り返してしまう。そうすると、彼女より大きくて硬くかさついた温もりが、無視するには難しいほど伝わってくる。
リーアの心臓が早鐘を打っている。全神経が片手に集中してしまったかのようだ。
彼女が先程登ろうとした木は結構な大木だったようで、実の生っている枝は随分高いところにあった。
あまりにも慌てていたので、そんなことにも気付いていなかったのだ。
カイはリーアを太い枝の上に下ろしてくれた。彼女がしっかり腰を下ろしたのを確認すると、彼の手がはなれ、彼女を包んでいた魔法の風も弱まっていく。それに安堵すると共に、心に隙間風ができたような寂しさを感じた。
カイは隣に降り立つと、手のひら大の実をいくつかもいで手渡してくれた。リーアも、届く範囲のものを三つほどとり、膝の上に集めていく。熟れても硬い実がごろごろと膝の上を転がる。
「袋か何かないのか?」
「うん」
カイは肩から斜めに掛けていた鞄の中を漁った。
木の実を入れるものを探してくれたようだが、生憎見つからなかったらしい。一つ溜息をついて、彼はリーアの隣に腰を下ろした。
「食っちゃえばこれ使えるな」
そう言って彼が取り出したのは、リーアが今朝手渡した、パン屋の紙袋だった。
ガサガサと音を立ててサンドイッチとドーナツを取り出すと、空っぽになった袋をリーアに寄越す。
礼を言ってそれを受け取り、リーアは紙袋に木の実を入れていった。袋の中はドーナツの甘い匂いがした。
なんだかよく分からない状況になった。
木の実を詰めながら、リーアはこっそりとカイの顔を覗き見た。サンドイッチを頬張っている。
「親父さんのパンって美味いよな。リーアはどう? 上達した?」
「パンも練習はしてるけど、お父さんみたいには全然……」
「そっか」
店を継ぐならパン作りももっと上手にならなければいけないが、まだ店に出すのを許されたのはパン一種類とドーナツだけだ。父親が得意な丸パンの出来は雲泥の差だった。
「あの……職場に帰らなくていいの? というか、どうしてここに来たの?」
先程聞きそびれたことを、もう一度尋ねてみる。
カイはサンドイッチを食べながら「うーん」と唸った。
「さっきリーアが話してた先生がさ、リーアの様子がおかしかったから、心配だから追いかけろって」
あの女の先生は、容姿だけじゃなく内面まで素晴らしいようだ。会ったばかりのリーアのことを見抜いた上、心配までしてくれるなんて。
気遣いが嬉しい反面、自分の未熟さを思い知って落ち込んだ。
「あの先生、リーアの作ったドーナツがめちゃくちゃ気に入ったみたいでさ。今度の祭りの時は絶対買いに行くんだって」
「……そうなんだ」
喜んでいいのか泣いていいのか、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
カイとこうして久しぶりに話ができて嬉しい。ドーナツを褒めてもらえて嬉しい。だが、彼の口から出てくるのは別の女性の話だ。
だが、そこで悲しむから駄目なのだとリーアは自身を叱咤した。完敗なのだから、すっぱり諦めるべきだ。
諦めるためにもカイの口からはっきり言ってもらおうと、リーアは決意した。
「……あ、あの綺麗な先生と、一緒に、ドーナツを食べたの?」
カイは目を丸くした。変なことを訊くんだな、という顔をしている。
「同僚皆でというか……俺、いっつも同じもの食ってるからさ。どれだけ美味いのか味見させろって言われて、八等分くらいにさせられたんだ。結局俺の口に入ったのは八分の一だよ」
大げさに溜息をつく様子に、リーアは思わず小さな笑い声を零した。
二人だけで分け合ったのではなかった。
それが分かっただけで、不思議と彼女の心は軽くなった。
「別に味が変わるわけじゃないけど、輪っかになってないドーナツじゃ物足りないよ」
「そうなの? 穴が開いている分損してるって言ってなかった?」
「けど、何かいいものが見えるんだろ?」
カイは残りのサンドイッチを口に詰め込むと、ドーナツを掲げた。きっとその穴からは、町の景色が見えているだろう。
今日はいい天気だ。ぽかぽかと日差しは暖かく、白い雲がゆったり流れていく。この様子なら、午後もきっとたくさんお客さんが来てくれるだろう。
「いいもの、見えた?」
「うーん」
カイはドーナツを虫眼鏡のように目の前に持ってきたまま、隣に座るリーアに顔を向けた。
「好きな女の子が見える」
その言葉を飲み込むのに時間がかかり、リーアは何度か瞬きした。相変わらず、カイはドーナツの穴からこちらを見ている。
「ど」
「ドーナツ?」
「ち、違う」
顔から火が出そうだった。
「ど、どうしてそんなこと言うの」
「どうしてって……結構勇気出して言ったんだぞ、これでも」
カイは眉根を寄せて、ドーナツをかじった。よく見ると、耳が少し赤い。
「だって、私……ずっと愛想悪かったし……油臭いし……カイの周りには、もっといい人がたくさんいるのに」
言い訳だが、だからこそ彼女は想いを告げようとは考えなかったのだ。
祭りの日にカイの腕に抱きついた女の子も、先程の女性教師も、リーアよりずっと魅力的だ。
「なんだよ。振るならはっきり振ってくれよ。俺のことどう思ってんの?」
カイの目が真っ直ぐにリーアに向けられる。
とても真剣な目だった。
多少の居心地の悪さも手伝って、彼女の心臓はばくばくとうるさいくらいだ。
口を開きかけ、閉じる。
リーアは、喉元まで出かかっている言葉を懸命に押し出した。
「……好き。すごく、ずっと」
裏返ったり掠れたりの、悲しくなるほど情けない声だった。
だが、目の前のカイの表情がほころんだので、リーアもつられて笑みを浮かべた。
「良かった。俺の勘違いだったらどうしようかと思った」
「勘違いって?」
「だってさ、期待するじゃないか。毎朝あんなに顔を真っ赤にされたら」
「え?」
全く自覚していなかった。
「俺に気があるのかな、なんて期待して大外れだったら、赤っ恥だろ?」
リーアは首を振った。
顔を赤くしていた自覚はなかったが、リーアがカイを好きだというのは大当たりだった。
「恐かったの。カイが先生になって、朝の少しの時間だけど、また毎日お店で会うことができるようになって……告白して、断られたらそれすらなくなっちゃうと思ったから」
「俺だって似たようなもんだよ。振られたら店に通いづらいし、そしたら店のパンもドーナツも食えなくなる」
「でも、カイはちゃんと言ってくれたわ。……私も、これからはもっと頑張る」
リーアの決意表明に、カイは眉を上げた。
ドーナツの最後の一口を飲み込み、リーアの様子を見守っている。
リーアは意を決して口を開いた。
もうこれ以上はないというくらい、頬が熱をもっている。
「キ」
「うん?」
「…………キス、したい」
「何?」
「……キスが、したいの」
「もう一回」
「聞こえないふりしてない?」
思わず眉をしかめると、カイは笑い声を漏らした。
「ごめん、いっぱい聞きたくなって」
そう言いながら伸ばした彼の手が、リーアの髪に触れた。それにどきりとしている間に、二人の距離が縮んでいく。
紙袋の残り香か、リーアの髪に染みついた匂いか、先程まで食べていたカイのものか。ドーナツの匂いが鼻孔をくすぐる。
そっと優しく重ねられた唇は、ドーナツのように甘く感じた。
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