【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

文字の大きさ
152 / 248
 帰路に着く

152話 なにそれええええええええええええええ⁉

しおりを挟む
「――1995年生まれ。満二十七歳。出身は神奈川県小田原町。2008年、十二歳のときに福岡県の祖父母の元へ引き取られ、2014年の高校卒業の後、群馬県へ移住するまでそこで過ごす。2022年9月、突如アウスリゼへ。あってる?」
「はい、あってます」
「では、署名を」

 差し出された書類に、わたしは名前を記しました。

『三田園子』

 そして、書き終えたときに。書類と筆記具は風に融けるように消えました。









 しん、と空気が変わったような、肌触りが澄んだような、そんな感覚がありました。そして、水音。待合室で聴いていた、水車の水音。

「いろいろ言ってくれたね。ボケたとか漂白とか」

 右手から響いた声に、え? と思いながら受け付けカウンターを見ました。ちょうどわたしの胸あたりの高さの台の向こう、だれかが座っています。

「そもそも僕は硫化が起こるような三流品じゃない。それに適切な管理を受けているから、そんなのいらない」
「美ショタ様⁉ なんで髪染めしちゃったんですか⁉」

 真っ白です! 真っ白な髪! えー、せっかくオリヴィエ様が赤髪にして、すんごくそっくりになったのに! もしかして、オリヴィエ様みたいになりたくて、銀髪目指して脱色したのかな? そしたら白くなっちゃった? え、なにそれかわいい。ツンデレ美ショタの特大デレかわいい。推せる。オリヴィエ様の次くらいに推せる。

「……あー、そう来る? 普通なんでここにいるの、とか、そういう疑問来ないか?」
「あ、そうですね。なんでいるんですかここに」
「『ご両親に怒られるの怖くてひとりで帰れないからお兄ちゃん頼ってここで待ってたんだー、かーわーいーいー』じゃない。もうちょっと疑問を持て」
「その髪色も似合ってますけど、五十年くらい早いと思います」
「頭皮の心配もいらない。とりあえず話を進めるが、僕は君が考える『美ショタ様』じゃない」

 そう言われた瞬間に。目の前のもやがいっぺんに晴れたような感覚がありました。それまで特別視界がわるいと感じていたわけではないんですけれど。
 ――受け付けカウンターが。ありませんでした。水音が大きくなり、わたしは驚いて周囲を見渡します。なにも。なにもなくて。霞がかった白い空間。けれど振り返ったときに、走り寄ればすぐのところに水車がありました。待合室で見た大きく立派なオブジェとしてのものではなくて、何年も何十年も、もしかしたらそれ以上も使われてきたのかもしれない古く小さな……水車。
 わたしはそのどこに続いているのかわからない水の流れと、軋みながら回る水車をなにか信じられないような気持ちで眺め、そして先ほどカウンターがあったように思う方向へ向き直りました。
 美ショタ様が立っていました。いえ。そっくりで、でもぜんぜん違う、だれか。真っ白な髪。それに、ルミエラ行きの汽車に乗った美ショタ様と同じ作りだけれど真っ白な服。そして……金色の瞳。

「はじめまして、『三田園子』。直接会うことはできないから、こうして君の記憶の中から構成した姿で失礼するよ」
「だれですか」
「君たちは『王杯』って呼んでる」

 ぞわり、と背筋に冷たいものが走りました。わたしは今、相対してはいけない存在と話しているのだ、と自分の全身の反応が理性へと教えてきました。『王杯』と名乗った美ショタ様似のだれかは、薄くほほえんで左手の指を鳴らします。途端に、四肢の緊張が解けました。

「君の行動はじつにおもしろかったよ。予想外のことをいろいろしてくれたけれど、おおむね想定通りだ。さて、僕がここで君の前に現れた理由はなんだと思う?」
「漂白したらメッキがはがれるって言いたかったんですよねごめんなさい」
「違う。そもそもメッキじゃない、神器をなんだと思ってるんだ。『三田園子』。君の結論を出すときが来たよ」
「え……」

 どきり、としました。『王杯』は笑いました。

「違うよ。あいつと結婚するかどうかは、正直僕にはどうでもいい。僕は君を選んだ。君は僕が考えていたことを成した。――なので、選ばせてあげる。どうする?」
「え、その姿で結論とか、オリヴィエ様のこと以外になにが」
「君は、『ソノコ・ミタ』ではなく『三田園子』と書いたね」

 そう言われてわたしは……喉元にナイフを突きつけられたような緊迫感を、いえ、もっと他のなにか。焦りという言葉に収まらない、切実な感覚を覚えました。
 わたしは――ソノコ・ミタで、三田園子で。

「そうだよ。それを、君に選ばせてあげるってことだ」

 謎かけめいていて。それでもその意図することははっきりとわたしへ向けられていました。でもそれをどうやって成すのでしょうか。わたしは今、ここに。アウスリゼに『ソノコ・ミタ』として生きている。『三田園子』ではない。どうやって選ぶことが……選ぶ余地があるというのだろう。

「僕が君を選んだ理由は、いくつかあるよ。その中の一番大きい理由だけ伝えるよ。『三田園子』は、生きるつもりがなかった」

 それは、問いかけですらありませんでした。なのでわたしは少し笑いながらうなずきました。……他人には、うそではない気持ちで、長生きしてとかずっと生きてとか、平気で言えるのに。心の底から願えるのに。けれど、自分の未来は想像できなくて。何度も何度も周回した、グレⅡシナリオのオリヴィエ様のように。時が来たら、終わらされる以外の選択肢がないとぼんやり感じていました。だからその先になにがあるか想像できないし、ずっとわからなかった。でも、それがなんだというのだろう。それがわたしだ。

「僕にとっては都合がよかった。自分の生活にも、人生にも、命にも興味がない人間。けれど『この世界』を理解し、その発展を真に願う者。適任だったんだよ、君は」

 たしかに、わたしほどグレⅡ世界のことを考え続けたオタは少ないかもしれません。十三歳のときから、ずっと。たくさんプレイしただけではなく、たくさんの二次創作作品を読みました。わたしも手習いのように書いたこともあった。オリヴィエ様がもし、生き延びたなら。そしたら、きっといつかステキな女性と恋に落ちて、そして結婚して、幸せになって。もちろん独身を貫くように描かれた作品だってあった。一番多かったのはたぶんリシャールとのBL主従モノ。次世代どうするのとかのつっこみは置いておいて、みんな、オリヴィエ様に生きていてほしかった。あんな終わり方をしてほしくなかった。
 ゲーム上で一度も描かれなかった……笑顔で生きてほしかった。

「そうやって君は必死になってくれた。『この世界』の成り行きを変えるために。思っていた以上に君はいろいろなことを動かしてくれたし、それは僕の介入によらないものだった。だから、ご褒美をあげようと思って」

 にっこりと、美ショタ様の顔で『王杯』はほほえみます。美ショタ様の姿になったのってきっとこのナチュラル上位者ムーブが似合うからだと思います。わたしが疑問を口にするよりも早く、『王杯』は言葉を続けました。

「君が、『あちら』でどう生きるかも、『こちら』でどうするかも、僕にはどうでもいいんだ。君の役目は終わったから。だから自分で決めなよ。あとは――好きにしたまえ」

 水音が。水車が回っています。「君の設定がおもしろかったから、ここにしたんだ」と言って、『王杯』はすっと右手を伸ばして先を指差しました。

「出口はあそこ。これから君が選ぶものは、君が選んだものだ。どちらにせよそれを尊重するよ。――まあ、せいぜい悩むといいよ」

 ふしぎと疑問を抱かずに、わたしは差された方向を目指しました。そこには光が。戸口から差し込むような、光が。そこをくぐったとき、まぶしくて目をおもいっきりつぶりました。

 しん、と耳の底ですべての音が消えたような感覚があって。
 先に戻ってきた感覚は、首元をなでる風。日差しの暑さ。まぶたを通しても見える、光。
 そして、とても聞き慣れた、けれど遠い記憶のはずの、『とおりゃんせ』の電子音。それに、喧騒、自動車の走行音。

 ――――電子音⁉

 わたしは、目を開けました。視界に飛び込んできた情報を、頭が処理するのに時間がかかりました。たくさんの色、形、人。わたしは、自分の立っている場所がどこかを確認するためにあたりを見回します。信じられない気持ちで、それでも確定的な外からの刺激に、わたしは太陽を仰ぐように『青い標識』を見上げました。

『県道 602 福岡』

 文字が目に入ったときに思ったのは、「あ、日本語」でした。すっごくアジア。理解が追いつかず、しばらくのちにフリーズから立ち上がったわたしは声を張り上げて言いました。

「……うそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉」
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...