【完結】喪女は、不幸系推しの笑顔が見たい ~よって、幸せシナリオに改変します! ※ただし、所持金はゼロで身分証なしスタートとする。~

つこさん。

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 帰路に着く

151話 審査中……です

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 おはようございます。いろいろあって眠ったのが丑三つ時ってやつでした。でもやっぱり気が張っているらしくて、目が覚めたのは明け方くらい。寝る直前に四人それぞれどのベッドを使うかでひともんちゃくありまして。クイーンサイズのベッドひとつと、エキストラベッドがふたつ。もんちゃく内容は割愛しますが、最終的にわたしと女性警備さんがクイーンサイズベッドで眠りました。ええ。はい。ええ。
 こっそり起きてベッドから出ようとすると、女性警備さんが小声で「おはようございます」とおっしゃいました。起こしちゃったかな。わたしも「おはようございます、カミーユさん」とあいさつしました。男性二人も目が覚めていたみたいで、すっと身を起こされました。あれ、なんだ結局わたしが一番お寝坊の可能性?
 身支度して、食堂で朝ごはん。わたしはしっかりレアさんかつらを装着。みなさんはかわいいとか似合うって言ってくれるんですけど、わたしの目には失敗した七五三のコスプレに見えます。はい。

「はい、ハニー♡ あーん♡」
「やだ、ダーリン、はずかしいわ♡」
「はずかしがる君もかわいいよ♡」
「もうっ、ダーリンったら♡」

 古い記憶を呼びおこすような会話が聞こえました。なんだっけ。すっごいラブラブなカップルが真ん中のテーブルに並んで着いて、食堂の中心で愛を叫んでいます。幾人かの他のお客さんたちはちょっと引き気味に壁際席へ着いていらっしゃいました。

「――こちらの席、よろしいですか?」

 オリヴィエ様がなにを思ったかよりによってその隣の席へ。カップルたちは「もちろん!」と声をあわせて返事をしました。息ぴったり。

「アンナ――こちらへ」

 にっこりとオリヴィエ様、もとい赤髪のクロード・バルビエさんがご自身の隣の席をわたしへと指しました。ちょっと逆らえないなにかを感じて座ります。警備のダミアンさんとカミーユさんは、わたしたちの向かい側へ。

「ご夫婦でご旅行ですか?」

 クロード様がラブラブカップルへ尋ねました。「そうなんです♡」とこの度も息ぴったりでした。

「結婚五周年のお祝いで、ルミエラから、自動車の旅をしているんです♡」
「最近自動車を購入したものですから。領境の封鎖も解かれたので、足を運んでみたんですよ。ははは♡」
「へえ!」

 クロード様はたのしそうな表情で「では、僕たちとは逆の行程だね、アンナ」とわたしに話を振ります。えっ。あっ。うっ。おっ。「ソウデスネ」と小声で答えました。ところでオリヴィエ様の僕一人称全力で萌えませんか。萌えますよね。もう一度言ってお願いプリーズ。

「こちらは新婚旅行でして。五周年おめでとうございます。ぜひあやかりたいものです」
「あらー、いいわね! 新婚旅行!」
「僕たちにもそんなころがあったよ。そうだな、夫婦円満の秘訣かい? もちろん、愛情を毎時間しっかりと伝えることさ!」
「もうやだー、ダーリン♡」
「事実じゃないか、ハニー♡」

 クロード様は最近のルミエラはどうか、とか、市民目線の情報を巧みに引き出していました。わたしは朝ごはんの味がよくわかりませんでした。ダーリンとハニーはずっとダーリンとハニーでした。はい。

 そして、越境管理局へ。自動車を所定の場所に停車し、わたしたちは手荷物検査とか越境登録とかをします。蒸気機関車だと領境を越えるあたりで車掌さんが回ってきて、やってくれるんですよね。汽車内はそもそも爆発物とか危険なものを持ち込んではいけないので、乗る前に手荷物はある程度チェックされていますし、個人情報の登録も済ませてあるので、簡易なもので済むからかもしれません。自家用車等で越える場合は、かなりしっかり調べられるんだそうです。国内移動なのにすごい。治める人の違う土地が隣り合っているって、そういう手間が必要なんですね。
 わたしはいっしょうけんめい覚えた『アンナ・バルビエ』さんの情報を声には出さずに何度も復唱しました。窓口で筆記し提出する書類があるとのことなので。ゆっくり書けば間違えないと思います。たぶん。……たぶん。
 自動車は、なにか違法なものを積んでいないか検査官さんがチェックします。それに運転をされていた警備のダミアンさんが付き添います。クロード様がわたしの左手をとって握りました。……恋人つなぎぎゃあああああああああああああ‼ まって手汗拭かせてお願いプリーズ‼ ぜったいこれダーリンとハニーの影響‼ どうしようアンナの設定忘れた‼ ぜんぶ飛んだ‼

 越境管理局は、その名前の通りに領境をまたぐように建っているレンガ造りの大きい建物でした。もはや懐かしさすら感じる、マディア北東部事変の舞台となるはずだったパイサン川を渡るように、アーチみたいな感じでこちらとあちらを結んでいます。そして……マディア領側の待合い所に水車がありました! めっちゃおっきい! すごくないです? 建物の中に水車を設置してオブジェにしちゃうとか。クロード様と水車の近くのソファに座り、アルファ波とかマイナスイオンとかが出てそうな水音を聞きながら順番を待ちました。なんとなく周囲を見回すと、他の待っている方たちの中に見知った顔ぶれが。こっそりオリヴィエ様警護の方たちですね。一般人のふりしてしらーっと同じ行程で行くわけです。わたしは気づかなかったふりをしました。はい。

「アンナ」
「はい」

 ささやくような呼びかけに、わたしも小声で返事をしました。少しだけ考えるような時間があって、クロード様はわたしにだけ聞こえる声でおっしゃいました。

「……この旅が終わったら。……また……いっしょに、ファピーを観に行こう」

 わたしはその言葉にちょっと泣きたくなりました。そんな言葉が、来ると思わなくて。そして、しっかりうなずいて「はい」と答えました。
 びっくりするくらい強引なときもあるけれど。……それでもオリヴィエ様は、わたしの意志を尊重してくれる。
 
『自動車番号、151、378、429、630のみなさま、入境審査までお進みください』

 わたしたちの番号も呼ばれて、クロード様が「行こうか」ととろけるように甘い笑顔でおっしゃいました。わたしの腰骨もとろけるからやめてほしい。手をつないだまま立ち上がって、入境審査の場所へ移動します。
 横にずらりと一列、個別窓口の空間がありました。二十カ所くらいでしょうか。そこを通り抜けてあちら側の空間が、王国直轄領との領境線上というわけです。左側の半分くらいに『審査中』との札がかかっています。それぞれのボックスにひとりずつ順番に入って、中にいらっしゃる越境審査官さんとの面談です。海外旅行とかしたことがないわたしにはすごくどきどきする体験です。どうしよう三田園子って名乗りそう。

「いやー俺財務省行きたいわー。金扱う仕事してー」
「わかる。都会で仕事したいよな、こんな田舎じゃなくて」
「稼げど稼げど、遊ぶ時間も場所もねえ。あー、異動になんねーかなあ」

 後ろから事務服姿の男性が三名、道具箱みたいのを持って、空いていた後半のボックスの中へ入っていきました。なんかお疲れ様です。札が『審査中』に変えられて、「こちらどーぞー」と声をかけられました。クロード様は「じゃあ、またあとで」と握っていた手を解いて、ひとつのボックスへ向かいました。わたしはちょっとためらってしまって、他の人が入って埋まってしまいました。

 わたしはクロード様……オリヴィエ様の入ったボックスの、『審査中』の札を見ながら、先日のオリヴィエ様の言葉を思い出しました。

『――返事は、急がないから。ソノコの気持ちが向くまで……待つから』

 染めた髪を洗って、美ショタ様そっくりになられたオリヴィエ様は、わたしにそうおっしゃいました。
 とても、とてもたいせつな言葉をもらったのに。そのお返事は、すぐじゃなくていいって。オリヴィエ様は、とてもやさしい。わたしに逃げ道を作ってくださって、わたしが悩めるように、ちゃんと向き合えるように、してくださった。
 わたしはふと、肩にかけて持っていたバッグの中を見ました。お財布に、ハンカチ。レアさんからもらったお化粧ポーチ。そして、ファピーの新聞記事を集めたスクラップブック。その途中のページに、こっそり貼り付けたものを見ました。……わたしと、オリヴィエ様の写真。
 入境審査の書類には、配偶者の欄があるとのことです。『アンナ・バルビエ』は、そこに『クロード・バルビエ』と記入します。

 ――いつかソノコ・ミタとして領境を越えるとき。わたしはそこにだれかの名を、書くのだろうか。……書けるだろうか。わたしは、それに見合うだけの人間だろうか。自分を偽りなく正面から見つめ、心の奥底までつぶさに調べたとき。……出る結論はどんなものだろう。
 わたしは……ふさわしい人間だろうか。

 いつのまにか一番右奥のボックスの札が『審査中』になっていました。中から手招かれて、わたしは急いでそこへ入りました。
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