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『三田園子』という人
199話 どちらかと言うと裏ボス編ですかね
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さて。七日が経過しました。ひさしぶりにこの言葉を使いましょう。――エンタメはテンポが大事! もうわたしの人生とかエンタメコンテンツじゃんって最近思うし。笑い飛ばしておくんなせい。
この一週間なにをしていたかと言うと、勇二兄さんのマンションと八丁堀のマンションを行き来して、料理の特訓とか特訓とか特訓とか、あと身辺整理とか。していました。はい。夜に勇二兄さんが作っているのを見て説明を受けてメモを取ったりして、次の日の日中に自分で作ってみる、みたいな。スタッフが美味しくいただきました。はい。
で、今日は。特訓の成果の発表会。らしいです。勇二兄さんのお家へ午後にお邪魔しています。みなさんお仕事中なのでわたしひとりです。くれぐれもベッドルームのクローゼットは開けないようにって言われたんですけど、言われなければ興味すら持たなかったのになんで言うんでしょうかね。開けてほしいんですかね。開けませんけど。
どうして兄さんの家でなのか、というと。食材が余っても、その後使ってもらえるから。勇二兄さんからの提案でした。言葉にしなくても、わたしたちはお別れの準備をしていました。
どんなメニューにしようかな、と思うのですが。とりあえず、さばの味噌煮はマストで。もう間違えないし。あと、ばあちゃんがいっつも作ってくれた、モツ煮みたいなお味噌汁にしよう。あれは得意。あとは、里芋の煮物にしようかな。あっさりめで。いっしょうけんめい兄さんからレクチャーされたことを思い出しつつ、しっかり計量して。お水の分量までしっかり量って調理するとか、これまでの人生で考えたこともなかった。
夕方ごろに『今から帰る』とメッセージがありました。そのタイミングで炊飯器のスイッチを押しました。なんだか真くんさんも来るらしいので、すべてちょっと多めに作ってあります。一希兄さんが帰国したときに食べさせたいから、保存用も作ってほしいって言われていましたし。
しばらくしてから、玄関で解錠する音がしました。迎えに出て、「おかえりなさい」と言いました。勇二兄さんはちょっとだけ止まって、「ただいま」と言いました。
「真くんさん、来なかったんです?」
「仕事押し付けてきた。あとから来るから、先に食べていよう」
器に盛って。一希兄さんの教えのひとつに「いいか、園子。食は見た目からだ」というものがあります。本当に何度も言われました。食べてしまえば同じじゃんとかぜったいに言っちゃいけない感じでしたし、言わないようにされていた気がします。はい。勇二兄さんのお家にはたくさんのすてき食器があるので、難しくないんですけどね。あれですよ。さばの味噌煮を盛り付けたときに、器の端が汚れてしまったらちゃんと拭いてから食卓に並べるんです。お店か。お店なのか。ちゃんとやりますよ、もちろん。
「塩さばじゃないね」
勇二兄さんが笑いました。はい。見た目からすぐにわかるのさすがですね。いっしょにいただきますをして、食べました。おいしかったです。我ながら。勇二兄さんからも「おいしいよ」との是認をいただけました。やった!
今日仕事でこんなことがあったんだ、みたいなたわいのない話をして笑いました。そして、ふっと真顔になった勇二兄さんが、「園子、ありがとう」とおっしゃいました。
「どういたしまして。兄さんの作るものには及ばないけど」
「そんなことない。あと、料理だけじゃなくて」
言葉を探すように兄さんが視線を泳がせました。そして「ちょっと、待って」とベッドルームへ向かいます。白い紙袋を手に戻って来られました。
「……なにがいいかわかんなかったけど。……プレゼント。よかったら」
「えっ、ありがとう! 見ていい?」
「うん」
ノートが入っていました。それに、小さい箱。うっわティファニーとか書いてある。開けてみたら、シルバーのタグペンダントでした。なにか書いてある。日付。
「あ……『家族になった日』」
裏側にも文言が。『Family is a beginning and love never ends.』……家族は始まりで、愛は終わらない。べったべたやな。でも、きっと本気でそう思ってくれているんだと思う。わたしは笑って、勇二兄さんを見て「ありがとう、うれしい」と言いました。兄さんは、ちょっと泣きそうに見えました。
「ノートは……なに?」
「レシピ。俺の」
「ひょー!」
見てみると、几帳面な字で分量や調理手順が書かれていました。えっ、すごい、ぜったいわたし作れない系。いわゆる応用編。この一週間料理の基礎をひたすら叩き込まれたわたしがここに到達するまでにあとどれくらいかかるのか。わたしは「えっ、いいの? これすごい、前から書き溜めていたものじゃない?」と尋ねました。
「俺が……園子に持たせてやれるのは、それくらいしかないから」
――着実に、お別れのときが近づいていました。あと何日、わたしは日本にいるのだろう。惜しむような気持ちがついあふれてしまって、ちょっとだけ泣いてしまいました。ちょっとだけ。兄さんはティッシュボックスをわたしへ差し出してくれて、自分も二枚取って目に当てました。そして「さっき、園子が、『おかえりなさい』って迎えてくれたんだ」と言いました。
「そして、俺は『ただいま』って言った。家族ってさ、そういうことなんだよな。やっとわかったよ」
そういうことってどういうことですか。わたしは鼻をすすって。勇二兄さんも鼻をかみました。そして「新しい家族のみなさんによろしく。そして、『おかえりなさい』を言う用意はあるから、いつ帰ってきてもいい」と、一希兄さんっぽいことを言いました。
わたしは笑って、「じゃあ、けんかしたら帰ってきます」と言いました。……むりだけど。きっと、ぜったいむりだけど。たぶん兄さんもそれは気づいていて、でも「じゃあ毎週けんかするといい」と笑いました。
勇二兄さんのスマホがふるえて、真くんさんからもうすぐ着くとのメッセージが届きました。あわててお互い、顔を洗ったり化粧を直したりしました。間一髪セーフでした。
そして、翌日。
八丁堀のマンションへ、検査結果が届きました。わたしは勇二兄さんへ電話をして、ひとこと「届きました」と伝えました。
『――わかった。調整して、折り返す』
数分後に連絡がありました。『今日の十七時……だいじょうぶ?』との張り詰めた声に、わたしは「はい、行きます」とはっきり告げました。
さて、最終決戦。行きますか。
この一週間なにをしていたかと言うと、勇二兄さんのマンションと八丁堀のマンションを行き来して、料理の特訓とか特訓とか特訓とか、あと身辺整理とか。していました。はい。夜に勇二兄さんが作っているのを見て説明を受けてメモを取ったりして、次の日の日中に自分で作ってみる、みたいな。スタッフが美味しくいただきました。はい。
で、今日は。特訓の成果の発表会。らしいです。勇二兄さんのお家へ午後にお邪魔しています。みなさんお仕事中なのでわたしひとりです。くれぐれもベッドルームのクローゼットは開けないようにって言われたんですけど、言われなければ興味すら持たなかったのになんで言うんでしょうかね。開けてほしいんですかね。開けませんけど。
どうして兄さんの家でなのか、というと。食材が余っても、その後使ってもらえるから。勇二兄さんからの提案でした。言葉にしなくても、わたしたちはお別れの準備をしていました。
どんなメニューにしようかな、と思うのですが。とりあえず、さばの味噌煮はマストで。もう間違えないし。あと、ばあちゃんがいっつも作ってくれた、モツ煮みたいなお味噌汁にしよう。あれは得意。あとは、里芋の煮物にしようかな。あっさりめで。いっしょうけんめい兄さんからレクチャーされたことを思い出しつつ、しっかり計量して。お水の分量までしっかり量って調理するとか、これまでの人生で考えたこともなかった。
夕方ごろに『今から帰る』とメッセージがありました。そのタイミングで炊飯器のスイッチを押しました。なんだか真くんさんも来るらしいので、すべてちょっと多めに作ってあります。一希兄さんが帰国したときに食べさせたいから、保存用も作ってほしいって言われていましたし。
しばらくしてから、玄関で解錠する音がしました。迎えに出て、「おかえりなさい」と言いました。勇二兄さんはちょっとだけ止まって、「ただいま」と言いました。
「真くんさん、来なかったんです?」
「仕事押し付けてきた。あとから来るから、先に食べていよう」
器に盛って。一希兄さんの教えのひとつに「いいか、園子。食は見た目からだ」というものがあります。本当に何度も言われました。食べてしまえば同じじゃんとかぜったいに言っちゃいけない感じでしたし、言わないようにされていた気がします。はい。勇二兄さんのお家にはたくさんのすてき食器があるので、難しくないんですけどね。あれですよ。さばの味噌煮を盛り付けたときに、器の端が汚れてしまったらちゃんと拭いてから食卓に並べるんです。お店か。お店なのか。ちゃんとやりますよ、もちろん。
「塩さばじゃないね」
勇二兄さんが笑いました。はい。見た目からすぐにわかるのさすがですね。いっしょにいただきますをして、食べました。おいしかったです。我ながら。勇二兄さんからも「おいしいよ」との是認をいただけました。やった!
今日仕事でこんなことがあったんだ、みたいなたわいのない話をして笑いました。そして、ふっと真顔になった勇二兄さんが、「園子、ありがとう」とおっしゃいました。
「どういたしまして。兄さんの作るものには及ばないけど」
「そんなことない。あと、料理だけじゃなくて」
言葉を探すように兄さんが視線を泳がせました。そして「ちょっと、待って」とベッドルームへ向かいます。白い紙袋を手に戻って来られました。
「……なにがいいかわかんなかったけど。……プレゼント。よかったら」
「えっ、ありがとう! 見ていい?」
「うん」
ノートが入っていました。それに、小さい箱。うっわティファニーとか書いてある。開けてみたら、シルバーのタグペンダントでした。なにか書いてある。日付。
「あ……『家族になった日』」
裏側にも文言が。『Family is a beginning and love never ends.』……家族は始まりで、愛は終わらない。べったべたやな。でも、きっと本気でそう思ってくれているんだと思う。わたしは笑って、勇二兄さんを見て「ありがとう、うれしい」と言いました。兄さんは、ちょっと泣きそうに見えました。
「ノートは……なに?」
「レシピ。俺の」
「ひょー!」
見てみると、几帳面な字で分量や調理手順が書かれていました。えっ、すごい、ぜったいわたし作れない系。いわゆる応用編。この一週間料理の基礎をひたすら叩き込まれたわたしがここに到達するまでにあとどれくらいかかるのか。わたしは「えっ、いいの? これすごい、前から書き溜めていたものじゃない?」と尋ねました。
「俺が……園子に持たせてやれるのは、それくらいしかないから」
――着実に、お別れのときが近づいていました。あと何日、わたしは日本にいるのだろう。惜しむような気持ちがついあふれてしまって、ちょっとだけ泣いてしまいました。ちょっとだけ。兄さんはティッシュボックスをわたしへ差し出してくれて、自分も二枚取って目に当てました。そして「さっき、園子が、『おかえりなさい』って迎えてくれたんだ」と言いました。
「そして、俺は『ただいま』って言った。家族ってさ、そういうことなんだよな。やっとわかったよ」
そういうことってどういうことですか。わたしは鼻をすすって。勇二兄さんも鼻をかみました。そして「新しい家族のみなさんによろしく。そして、『おかえりなさい』を言う用意はあるから、いつ帰ってきてもいい」と、一希兄さんっぽいことを言いました。
わたしは笑って、「じゃあ、けんかしたら帰ってきます」と言いました。……むりだけど。きっと、ぜったいむりだけど。たぶん兄さんもそれは気づいていて、でも「じゃあ毎週けんかするといい」と笑いました。
勇二兄さんのスマホがふるえて、真くんさんからもうすぐ着くとのメッセージが届きました。あわててお互い、顔を洗ったり化粧を直したりしました。間一髪セーフでした。
そして、翌日。
八丁堀のマンションへ、検査結果が届きました。わたしは勇二兄さんへ電話をして、ひとこと「届きました」と伝えました。
『――わかった。調整して、折り返す』
数分後に連絡がありました。『今日の十七時……だいじょうぶ?』との張り詰めた声に、わたしは「はい、行きます」とはっきり告げました。
さて、最終決戦。行きますか。
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