伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家

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しかし運の悪いことに、目の前から身なりの良い黒髪の青年と、青年とよく似た貴婦人が歩いてきました。

「ラムサス様、キャメリア様、本日もご機嫌麗しく」

マリーゴールド様が何事も無さそうに優雅に挨拶しました。王妃であるマリーゴールド様が先に挨拶すれば、相手も恐縮して変な追求はしてこないでしょう。

しかし、キャメリア様は挨拶を返してきましたがラムサス様はフンと鼻を鳴らしただけです。二人とも私を見ている気がします。

「こちらはアドニス王国第二王子ラムサス・ニコラス・アドニス様と、母君のキャメリア・フローラ・ディセントラ・アドニス様だ」

サージェント様が教えてくれましたが、全く恐縮していないのは相手も王族だからですね。そんなことだろうとは思いましたけど。私は慌ててマリーゴールド様に倣って優雅に、とはいきませんがご挨拶しました。

「フリージアと申します。ラムサス様、キャメリア様、お目にかかれて光栄です」

キャメリア様は眉をひそめて私を見ていますが、ラムサス様はなんだか呆けたように私を見つめてきました。

「フリージアは私の関係者で、ちょっとパーティードレスを下賜しようと思って見せに来ましたの」

「あら、若いお嬢さんがドレスを新調しないなんてハイペリカム侯爵家は倹約家でいらっしゃるのね」

この貧乏人がと高笑いしそうな雰囲気でキャメリア様がそう言いました。それでこの場が乗り切れるなら私は安いものですけど。

「それでは失礼しますわ」

「マリーゴールド様もお聞きと存じますけれど、ルピナス様の怪我を治したとかいうどこかの村医者が、陛下の容態を見たいと言っているらしいわ。この辺りは人が増えるでしょうから、親族とはいえあまり部外者をウロウロさせないでいただきたいわ」

マリーゴールド様がそそくさと立ち去ろうとしましたが、キャメリア様がそんな忠告をしてきました。あちらも早くも話が進んでいるようですね。

「ご忠告ありがとう存じます。早く用事を済ませてから帰らせますわ」

マリーゴールド様は二人の横を通り過ぎました。私もすれ違い様に会釈をすると、未だに私を見ていたラムサス様が慌てたようにそっぽを向きました。

私達はそのままマリーゴールド様の部屋に入りました。

「せっかくだから嘘から出た誠にしましょう。フリージアの神聖性を高めておいた方が良いでしょうし。フリージア、こちらにいらっしゃい」

部屋に着くなり、マリーゴールド様が私をクローゼットの方に手招きしました。
サージェント様までついて来ようとしたので、マリーゴールド様が手を大きく振ってあっち行けをしました。さっきからこの二人はとても仲が良いです。

「叔父様はルピナスだけでなく早くに父を亡くした私の後見人でもあるの。私にとっては父親みたいなものだと思って信頼しているわ。本人には恥ずかしいから絶対に内緒よ」

私がまた変な顔をしていたのでしょう。マリーゴールド様はそう教えてくれました。

「ルピナスが言ってた通り、貴女考えてることが顔にすぐ出るのね」

マリーゴールド様がくすくすと笑っています。ルピナス様は何を言っているのでしょうか。

それからマリーゴールド様はクローゼットを見回っていろいろなドレスを物色していましたが、白地の多めの淡い桃色のドレスを手に取って私に合わせてきました。

「これでいいわ。露骨に真っ白な服でもいいけど結婚式みたいになってしまうもの。貴女達、これを着せて顔と髪を整えなさい」

マリーゴールド様は召使いに命じて私を着替えさせ始めました。急にいろいろされて、私は転んでしまいそうです。

「貴女はこれから聖女になるのだから、それっぽい雰囲気に仕上げるわ。ルピナスのために私もできる限りのことをしてあげたいのよ」

そう言うと、マリーゴールド様はクローゼットを出ていきました。この人もルピナス様に似て強引な性格です。それともルピナス様が似たのでしょうか。

聖女になるという言葉に不安を覚えてしまいます。これから私はどうなるのか想像もつきません。
できればライラックさんに調合を教わって、薬師と治療魔法の力で自分で生きていきたいのです。聖女というのもそういうものなのでしょうか。

お母様が亡くなってから、ドレスなんて着たのは初めてかもしれません。化粧をされながら鏡に映った私は別人のようになっていきました。

着替え終わった私が戻ると、

「随分と見違えたな。マリーゴールド、其方なかなかやるではないか」

「私の目に狂いはなかったわ。これで陛下を治癒できれば、ディセントラ公爵ですらフリージアを聖女と認めるしかないでしょ」
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