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23 ガーベラ視点①

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私はガーベラ・H・マトリカリア。最近15歳になったばかりよ。

名前のHはハイドランジアの頭文字。王国では嫁いだりして家が変わっても自分の出自が判るように、名前に以前の家名を入れる決まりになっているのだけど、私の場合はあまり公表することではないから頭文字にしておきなさいとお母様に言われたわ。

私の人生はそんな名前のように、自分ではどうしようもないことに翻弄された嫌なものだった。

私には小さい頃父親がいなかった。お母様の伴侶という意味では存在していたし、私もその男と血だけは繋がっていると思っていたわ。

でも、その男は私を全く愛さなかった。そればかりか、私が物心ついた頃から家庭も冷めきっていたわ。珍しく一緒にいると思えば必ず両親は言い合いをしていた。

自分の両親が口汚く罵り合うのを聞いたことがあるかしら。親の口から汚い言葉が出るのだって耐え難いのに、それが狭い部屋で双方から延々と繰り返されるの。私はとても耐えられなくて、喧嘩が始まるとベッドで布団を被って耳を塞いでいたわ。それでも空耳のように聞こえてくるのだけど。

ある日、その男が死ぬことでそんな生活は終わりを告げた。大人の話を聞いていると、私はまだ小さかったけど自殺だって想像がついた。

それから一度名前が変わってハイドランジア公爵家の屋敷に住むようになった。死んだ男の家名は棄てることになってお母様は肩身が狭かったかもしれないけど、お祖父様も叔父様も私を凄く可愛がってくれたし、召使いもたくさんいて何不自由の無い生活を送れた。

そんな私にも得意な事ができた。ハイドランジアに住むようになって少ししてから、転んで怪我をした時にそこを撫でていると治ることがわかったのでお母様に話したら、みんな凄く喜んでくれた。
それからはお爺様がいろいろな治癒魔法を教えてくれたから、得意になった私は一生懸命に練習したわ。

ある日、お母様と一緒にお爺様のところに呼ばれた。そこでお母様にマトリカリア伯爵と再婚の話があることを教えられた。お母様は何故か凄く嬉しそうで、正直私は嫌だったけどそうは言えなかった。

私が悲しそうにしていたからか、お爺様から養子にならないかと言われたけど、その時はお母様と離れるなんて考えられなかったから、私も一緒に行くことにした。

新しいお義父様は凄く優しい人で、最初はお母様を奪われてはいけないと二人の話の間に割り込んだり、彼に冷たい態度を取ったりしてたけど、次第に本当に私を大切に扱ってくれている気がして、そんなことはしなくなった。男親なんて信じられなかったけど、私はお義父様に少しずつ心を許していることを自覚していた。

一つ歳上のフリージアという名の義姉もできた。彼女は治癒魔法の天賦の才能を持つ聖女の血を受け継いだ、マトリカリアの正当な当主と聞いた。お義父様はその後見人という立場らしかった。
でも、私はお母様に言われてあまり彼女には近づかないようにしていた。

私はマトリカリアに来ると同時に魔法学校に通うようになった。
治癒魔法のことを教わりたくて私からフリージアに話しかけてみたんだけど、どういうわけか彼女は治癒魔法を一切使えなくて、魔法学校に通ってすらいないことがわかった。

それを知った私は凄く頭にきたわ。聖女などという輝かしい血統とそれに相応しい地位を、何の苦労もせず才能もない彼女が持っているなんて。こんなにも不幸なのに努力してきた私が欲しがっても手に入らないのに。

それをお母様に話すと、元々お爺様に何か言われて来たらしいお母様はフリージアにきつく当たり始め、そんなお母様を見て私も同じことをするようになった。

人の悪口を言ったり嫌がらせをしたりすることは最初は私も抵抗があったのだけど、それに何も言い返さないフリージアの卑屈な態度を見ていると苛々してきたわ。

嫌がらせは次第にエスカレートして、いつからかそれが当たり前のようになった。叩くと私の手も痛かったけど手をあげるようにもなった。

私は14歳になり王国衛生兵団の入団試験に合格した。お義父様もお母様ももの凄く喜んでくれて、お義父様に至っては私のことを自分の宝物だと言ってくれたのがとても印象に残った。フリージアは無表情な顔でこっちを見ていたわ。

私が衛生兵として王宮に出仕するようになってしばらく経った。私は衛生兵団で一生懸命仕事をしたし、使える治癒魔法の質も高かったみたいて、最近は聖女などと褒めてもらえるようになった。

ある日、急にお母様に部屋に呼ばれて、珍しく神妙な顔をしたお母様と対面していた。
なんだろうと思っていたら、お母様はお義父様のことを私の本当の父親だなんていうとんでもないことを打ち明けてきた。

それを聞いて私は妙に納得してしまった。死んでしまったあの男は私の父親ではなかった。きっと彼もそのことを知っていて、私のことを愛せなかったんだ。

次にどうしようもなく怒りが湧いてきた。だって、そうだとしたらお義父様はお母様と生まれた私を捨てて、別の女との人生を取ったということですもの。そのことで私がどれだけ辛い思いをしたことか。

お母様にそう伝えたら、とても悲しそうな顔であの時はどうしようも無かったと言われた。
私ももう子供ではないので、お互いに許されないことをしたんだと理解した。なんて汚らわしいことかしら。

でも、本当のお父様はそのことをとても悔やんでいて、実の娘で才能のある私にマトリカリア伯爵家を継がせたいと思っていて、近くフリージアを家から追い出してくれると言っているらしい。お父様は私のことをそこまで大切にしてくれているのだと。
私は舞い上がってしまい、それで家族をやり直しましょうなどと言っているお母様のことは上の空だった。

数日後、あまり詳しくは聞かされなかったけれどフリージアをハイドランジア向かわせる名目でそのまま追い出すことになった。私はお母様からその話を聞くと、その足でフリージアの部屋に行った。

よくよく考えたら初めて入る飾り気の無い部屋の中で、フリージアは古ぼけた指輪を眺めていた。私が来たのが余程嫌だったのか、いつもの無表情ではなく困惑したような顔をしていた。

私はお父様とお母様のこと、私とフリージアのことを全て彼女にぶちまけた。何故そんなことをしたのか自分でもよく分からないけど、多分、お父親が彼女の母親より私のお母様を、彼女より私を取ったのだとわからせてやりたかったんだと思う。

フリージアは顔が青くなっていたけど相変わらずの無表情だったので、面白くなくなった私は部屋を出た。でも、その扉の向こうから嗚咽が聞こえた時、私は喜びに打ち震えてしまった。

次の日、ハイドランジアに向かう彼女を見送りに行ったけど、彼女はいつもの無表情に戻っていた。
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