伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家

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24 ガーベラ視点②

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フリージアには私も全く同情しないわけじゃないの。彼女は魔法の才能が全く無いという、自分ではどうしようもないことで父親に捨てられてしまったのだから。
それは今までの私が感じていた苦悩と同じことのような気がした。でも、彼女が全てを失った時、私は全てを手に入れることができた。

衛生兵団で聖女と呼ばれていることもあり、私をマトリカリア伯爵家の当主とする報告はすんなりいったようだった。正直、前当主の実子ではない私が後継なんて認められないと思っていた。

フリージアが魔法学校に行けなかったためか、彼女が治癒魔法を使えないことを恥としたお父様がそうしていたのかわからないけど、彼女の王国での認知度がほぼ無かったのが幸いしたみたい。

こうして地位と名声を手にした私は順風満帆の人生を歩み始めた。もう私は子供ではないのだから、自分の人生を何かに翻弄されることなく幸せを自分で掴み取れるようになった。

私の昔語りはここで終わりよ。

今日は家族で王都に来ているわ。お父様の話だとご病気の国王陛下を見舞うように言われているらしい。もしかしたら私の治癒魔法をアテにされているのかもしれない。そう思うと少し緊張してきた。

王宮に着いて案内された先は王族の居住区にある国王陛下の寝室だった。もし王子様に見染められたらどうしよう。私にはマトリカリアの当主という立場があるから、その場合は、お互いに泣く泣く諦める悲恋になってしまうかも。

そんなことを考えながら通された部屋に入ると、扉が閉められて入り口には数名の兵士が見張りに立った。物々しい雰囲気に少し違和感を感じてしまったけど、辺りを見回して納得した。

部屋には国の重鎮達がひしめき合っていた。その中でも、作り物のように端正な顔と、白基調の煌びやかなドレスで一際目を引く女性にはどこか見覚えがあった。

「フリージア……」

横でお父様が青ざめていた。お母様に至ってはその場で腰を抜かしてしまったようで、必死にお父様の手を取っていた。

なんでフリージアがここにいるの?お父様は彼女を始末したのではなかったのかしら。私も自分が手に嫌な汗をかいているのを感じた。

「やあ、マトリカリア伯爵。よく来てくれたね。今日は病に伏せておられる国王陛下に、卿のお嬢さんの治癒魔法を施してもらおうと思ってここに呼んだんだ」

あれは第一王子のルピナス殿下だわ。
フリージアは私達の事を全て話しているはず。なのにこんな頼み事をしてくると言うことは、お嬢さんというのは私のことで良いのかしら。だって彼女は治癒魔法なんて使えないのだから。
でも、彼はこちらに頼み事をしているのに、随分と冷たい目をしているわ。

「ガーベラにでございますか?お役に立てるかどうか」

お父様は震える声でそう言った。するとフリージアの近くにいた老人が笑い声をあげた。あれはディセントラ公爵だ。
まるで国の重鎮が勢揃いして、フリージアの存在を認めているみたいに見えるのだけど。

「マトリカリア伯爵、卿はなかなか面白いことを言うね。ではその娘にもお願いしようか。ガーベラとやら、こちらへ来なさい」

ルピナス様にそう言われて、私は歩き始めた。それで気づいたのだけど私も足が震えてしまっていた。
ガーベラとやら、とは失礼ではないかしら。私はマトリカリア伯爵家の当主のはずなのに。

近づいてみると着飾っていて随分と見違えたけど本当にフリージアだった。彼女はいつもの無表情ではなく、心配そうな顔で俯いていた。

「本当に治癒魔法をお願いしたいのは、このフリージア・マトリカリアなんだけどね。まあせっかくの推薦だから先に試して貰おうか」

「失礼ながら、フリージアは治癒魔法を使えませぬゆえ……」

お父様が恐る恐るそう言うけど、ルピナス様は全く意に介さない様子だった。

「ああ、だから卿はフリージアを追い出して殺してから、出自を偽った不義の娘を当主に据えてマトリカリア伯爵家を乗っ取ろうとしたのだったね。偶然フリージアに出会わなかったら、まんまと騙されるところだったよ」

不義の娘、私のことだ。出自を偽った?いったいお父様は何をしたのよ。

堂々とそんな失礼なことを言われたのは生まれて初めてで、あまりの怒りに気が遠くなりかけた。それと同時に、私達に向けられた王族からの明確な悪意に嫌でも動悸が早くなった。

お父様はこの世の終わりのような顔をして動かなくなっている。聞いていた話と全く違うじゃない。

「でも陛下を治癒できれば、目溢しもあるかもしれないし、君も頑張ってみてくれ」

ルピナス様は私を馬鹿にしたようにそう言った。いいわよ、やってやろうじゃない。その能無しとの違いを見せてやるわ。

そう思っていると、誰かに後ろから乱暴に押し出された。振り返って睨みつけようとしたら、相手はハイペリカム侯爵だった。

「やるならさっさとやれ。邪魔だ」

あまりに無神経な態度に言葉も出ない。言われなくてもやるわよ。
いろいろあり過ぎて心が落ちつかないけど、深呼吸してなんとか治癒魔法に集中した。

手をかざして治癒魔法を使うと、陛下が目を覚まして苦しみ始めた。え、なんで??

「ぐ……痛い!ぐああ!」

「治癒魔法が薬の麻酔効果を解いてしまったようです!」

後ろから医者の声がした。陛下は気でも触れたように痛がり続けている。

「痛い!私はもう駄目だ!お願いだ、誰か私を殺してくれ!」

陛下の病気って何!?こんなに酷い病気、治せるはずがないじゃない!
次の手が浮かばない私は立ちすくんでしまった。

「そこをどけっ!」

「きゃあっ!」

ハイペリカム侯爵に肩を掴まれて後ろに投げ倒されてしまった。無様に地べたに這いつくばった私は、生まれて初めての屈辱とそれ以上の恐怖に身体が震えてしまった。

「フリージアお願い!早く陛下を救ってあげて!私もう限界よっ!」

「母上、落ち着いてください。フリージア、すまないが頼めるかな」

「わかりました、試してみます」

フリージアは私が見たことの無い凛々しい顔つきでそう言うと陛下の横に移動した。
王族達はいったい何を言っているの。その女は治癒魔法なんて何も使えないのに!
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