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朝にはすっかり回復していたので、サージェント様と一緒に朝食をいただきました。
サージェント様から国王陛下が思ったより衰弱していて、回復するまでもう少し時間がかかりそうだと言われました。
私がきちんと治せていたのか不安そうにすると、体力が低下しているだけで数日もあれば公務に復帰できるとお医者様も言っているらしく、使用人と一緒になってマリーゴールド様が嬉々としてお世話しているということでした。
しばらく時間があるようなので、今日はライラックさんと一緒に彼の家にお邪魔することになりました。
ハイペリカム侯爵家のお屋敷は、王都の中でもお城や貴族街がある中央区画にあって、そこから西の方に行くと商家等の裕福な庶民の住宅街があり、ライラックさんの家はそこにありました。
名誉貴族なのになぜ貴族街に住んでいないのか聞いたら、貴族達は首輪を着けたいだけで仲間として認めているわけではないから、そんなところに住んでも良いことなど一つもないと、へそ曲がりなことを言っていました。
最初に屋敷と聞いたような気がするのですが、それほど大きな家ではなく、家族だけで住むには少し広いかなという感じで、貴族の邸宅といえばマトリカリア伯爵家の屋敷と最近泊めてもらったハイペリカム侯爵家の屋敷しか知らない私には随分と小さく感じました。
「王都とはいえ東側にある私の育った庶民の家や集合住宅は村の診療所と対して変わらない建屋で、これでもそれに比べたら随分と贅沢な建物なんだ」
考えていたことが顔に出ていたのか、ライラックさんがそんなことを教えてくれました。
これ以上表情が変わらないように手を頬に当てているとライラックさんはため息をついていました。
ライラックさんが事前に連絡をしていたのか、中ではライラックさんの亡くなった奥さん、アイリスさんの弟さんと思われる若い男性と同年代くらいの女性が私たちを出迎えてくれました。
以前にライラックさんは家の管理を義弟夫婦に頼んでいると言っていました。
「わざわざ店を閉めてくれたのか?それは悪いことをしたな」
「義兄さんが帰って来るのに店なんて開けている場合じゃないよ。カラード様も後から来るからちゃんと会っておいてね。義兄さんが黙って居なくなってからあの人の質問攻めが本当に大変だったんだから」
しきりに問い詰めてくるカラードさんの姿が目に浮かぶようでした。
私が横で頷いていると、一緒に出迎えてくれた女性が申し訳なさそうな顔をしていました。
「お客様を差し置いて立ち話なんて失礼だわ」
そう言われて、私の方が自己紹介もせずに突っ立っていたことを思い出しました。
私が慌てて自己紹介をすると、二人も名乗ってくれました。
アイリスさんの弟さんはロータスさんで、女性は奥さんのラジアータさん。
ロータスさんは茶色い髪の人懐っこそうな青年で、ラジアータさんも同じような髪の色で小柄な可愛らしい人です。
ロータスさんはアイリスさんに似ているのでしょうか。気になってアイリスさんの絵でもないかとキョロキョロしてみましたが、見える範囲には絵画など飾られていません。
「何を探しているのか知らないが、庶民は肖像画など飾ったりはしないからな」
ライラックさんが呆れたようにそういいました。この人は人の心を読む魔法でも使うのでしょうか。
畏まってしまった私を見て二人は微笑んでいました。
ロータスさん夫婦は親の代から営んでいる薬草などの調合材料を扱う商店を手伝っているそうです。
姉のアイリスさんは父親譲りでとても目の利く調達屋だったそうで、それで材料を買いに来たライラックさんと親しくなったそうです。
露骨に機嫌が悪くなったライラックさんが睨んでいたので、馴れ初めについてはあまり詳しい話は聞けませんでしたけど。
そうして一通り挨拶が終わると、ロータスさんの案内でライラックさんの調合室を見せてもらうことになりました。
他は掃除が行き届いていますが、ロータスさん達は調合室には出入りしなかったらしく、ドアを開けると湿気たカビの臭いがしていました。
中は随分と埃を被っていて掃除が必要そうです。しっかりした調合台に釜やランプや何に使うのかわからないガラス器具などがたくさん置いてありました。本棚には調合関係の本がずらりと並んでいます。
「カラードの奴があれこれ作れと、金と一緒に無理難題ばかり押し付けてくるものだから、物ばかりどんどん増えてしまった。正直、一度しか使わなかった本や器具が結構あるから、初歩から君に教えるためには少し整理する必要がある」
カラードさんがライラックさんの調合技術は一人で身に付けたものではないと言っていましたが、やっと意味が分かりました。
てっきり大勢で調合を研究した成果の話でもしているのだと思っていたのですが、どうやらカラードさんがパトロンだったという話のようです。
私はロータスさんと一緒に器具を一旦外に運び出して、できる範囲で洗っておくようにライラックさんに言われました。その間にラジアータさんが調合部屋の掃除をしてくれるそうです。
それから、ライラックさんは少し用事があると言って、どこかに行ってしまいました。
ライラックさんがどこに行ったのか器具を運びながらロータスさんに聞くと、アイリスさんの部屋だと教えてくれました。
アイリスさんの部屋は掃除はしているものの彼女が亡くなった時のままになっていて、遺品も全てそこに運ばれているそうです。
「姉さんに会いに行っているという表現はおかしいけど、そんな感じなんだろうな。想いを大切にしてくれていてありがたい話なんだけど、義兄さんもまだ若いんだから自分の幸せを見つけて欲しいって僕達家族は思っているんだ」
ライラックさんの喪失感が埋まる日は来るのだろうかと考えてしまいます。私はライラックさんに拾ってもらってから今まで助けられっぱなしですけど、私は彼の支えにはなっていません。
結局、お昼が過ぎて器具の運び出しが全て終わってもライラックさんは部屋から出てきませんでした。
サージェント様から国王陛下が思ったより衰弱していて、回復するまでもう少し時間がかかりそうだと言われました。
私がきちんと治せていたのか不安そうにすると、体力が低下しているだけで数日もあれば公務に復帰できるとお医者様も言っているらしく、使用人と一緒になってマリーゴールド様が嬉々としてお世話しているということでした。
しばらく時間があるようなので、今日はライラックさんと一緒に彼の家にお邪魔することになりました。
ハイペリカム侯爵家のお屋敷は、王都の中でもお城や貴族街がある中央区画にあって、そこから西の方に行くと商家等の裕福な庶民の住宅街があり、ライラックさんの家はそこにありました。
名誉貴族なのになぜ貴族街に住んでいないのか聞いたら、貴族達は首輪を着けたいだけで仲間として認めているわけではないから、そんなところに住んでも良いことなど一つもないと、へそ曲がりなことを言っていました。
最初に屋敷と聞いたような気がするのですが、それほど大きな家ではなく、家族だけで住むには少し広いかなという感じで、貴族の邸宅といえばマトリカリア伯爵家の屋敷と最近泊めてもらったハイペリカム侯爵家の屋敷しか知らない私には随分と小さく感じました。
「王都とはいえ東側にある私の育った庶民の家や集合住宅は村の診療所と対して変わらない建屋で、これでもそれに比べたら随分と贅沢な建物なんだ」
考えていたことが顔に出ていたのか、ライラックさんがそんなことを教えてくれました。
これ以上表情が変わらないように手を頬に当てているとライラックさんはため息をついていました。
ライラックさんが事前に連絡をしていたのか、中ではライラックさんの亡くなった奥さん、アイリスさんの弟さんと思われる若い男性と同年代くらいの女性が私たちを出迎えてくれました。
以前にライラックさんは家の管理を義弟夫婦に頼んでいると言っていました。
「わざわざ店を閉めてくれたのか?それは悪いことをしたな」
「義兄さんが帰って来るのに店なんて開けている場合じゃないよ。カラード様も後から来るからちゃんと会っておいてね。義兄さんが黙って居なくなってからあの人の質問攻めが本当に大変だったんだから」
しきりに問い詰めてくるカラードさんの姿が目に浮かぶようでした。
私が横で頷いていると、一緒に出迎えてくれた女性が申し訳なさそうな顔をしていました。
「お客様を差し置いて立ち話なんて失礼だわ」
そう言われて、私の方が自己紹介もせずに突っ立っていたことを思い出しました。
私が慌てて自己紹介をすると、二人も名乗ってくれました。
アイリスさんの弟さんはロータスさんで、女性は奥さんのラジアータさん。
ロータスさんは茶色い髪の人懐っこそうな青年で、ラジアータさんも同じような髪の色で小柄な可愛らしい人です。
ロータスさんはアイリスさんに似ているのでしょうか。気になってアイリスさんの絵でもないかとキョロキョロしてみましたが、見える範囲には絵画など飾られていません。
「何を探しているのか知らないが、庶民は肖像画など飾ったりはしないからな」
ライラックさんが呆れたようにそういいました。この人は人の心を読む魔法でも使うのでしょうか。
畏まってしまった私を見て二人は微笑んでいました。
ロータスさん夫婦は親の代から営んでいる薬草などの調合材料を扱う商店を手伝っているそうです。
姉のアイリスさんは父親譲りでとても目の利く調達屋だったそうで、それで材料を買いに来たライラックさんと親しくなったそうです。
露骨に機嫌が悪くなったライラックさんが睨んでいたので、馴れ初めについてはあまり詳しい話は聞けませんでしたけど。
そうして一通り挨拶が終わると、ロータスさんの案内でライラックさんの調合室を見せてもらうことになりました。
他は掃除が行き届いていますが、ロータスさん達は調合室には出入りしなかったらしく、ドアを開けると湿気たカビの臭いがしていました。
中は随分と埃を被っていて掃除が必要そうです。しっかりした調合台に釜やランプや何に使うのかわからないガラス器具などがたくさん置いてありました。本棚には調合関係の本がずらりと並んでいます。
「カラードの奴があれこれ作れと、金と一緒に無理難題ばかり押し付けてくるものだから、物ばかりどんどん増えてしまった。正直、一度しか使わなかった本や器具が結構あるから、初歩から君に教えるためには少し整理する必要がある」
カラードさんがライラックさんの調合技術は一人で身に付けたものではないと言っていましたが、やっと意味が分かりました。
てっきり大勢で調合を研究した成果の話でもしているのだと思っていたのですが、どうやらカラードさんがパトロンだったという話のようです。
私はロータスさんと一緒に器具を一旦外に運び出して、できる範囲で洗っておくようにライラックさんに言われました。その間にラジアータさんが調合部屋の掃除をしてくれるそうです。
それから、ライラックさんは少し用事があると言って、どこかに行ってしまいました。
ライラックさんがどこに行ったのか器具を運びながらロータスさんに聞くと、アイリスさんの部屋だと教えてくれました。
アイリスさんの部屋は掃除はしているものの彼女が亡くなった時のままになっていて、遺品も全てそこに運ばれているそうです。
「姉さんに会いに行っているという表現はおかしいけど、そんな感じなんだろうな。想いを大切にしてくれていてありがたい話なんだけど、義兄さんもまだ若いんだから自分の幸せを見つけて欲しいって僕達家族は思っているんだ」
ライラックさんの喪失感が埋まる日は来るのだろうかと考えてしまいます。私はライラックさんに拾ってもらってから今まで助けられっぱなしですけど、私は彼の支えにはなっていません。
結局、お昼が過ぎて器具の運び出しが全て終わってもライラックさんは部屋から出てきませんでした。
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