伯爵令嬢は身の危険を感じるので家を出ます 〜伯爵家は乗っ取られそうですが、本当に私がいなくて大丈夫ですか?〜

超高校級の小説家

文字の大きさ
29 / 39

29

しおりを挟む
戻らないライラックさんは放っておいて、ラジアータさんが用意してくれた昼食を食べていると、王国鑑定師のカラードさんが家にやってきました。

昼食はお米の上に少しピリっとした不思議な味の炒め物と目玉焼きがどーんと乗せられただけのもので、それがもう美味しすぎて無我夢中で食べてしまいました。

「君、よほどお腹が空いていたのかい?僕が来たことにも全く気付かずにがっついていたけど」

カラードさんはいきなりのご挨拶でした。ラジアータさんが嬉しそうに微笑んでいるからいいですけど、そんなところをまじまじと見られていては恥ずかしいことこの上ありません。
私は消え入るような声でカラードさんに挨拶しました。

「王宮では随分と派手にやったみたいじゃないか。君の起こす奇跡を僕ももう一回見たかったな。ところで肝心のライラックはどうしたんだ?」

そういうカラードさんにロータスさんが事情を説明すると、私の方に向かって「それは君も落ち着かないね」などと言いました。王国鑑定師は私に対して妙な鑑定をするのはやめて欲しいです。

取り乱してライラックさんに縋る姿を見られていますからそう思うのでしょうけど、そういえばルピナス様もあの場にいましたね。彼の目にはどう映ったのでしょうか。

ロータスさんがライラックさんを呼びに行こうとした時、不穏な気配でも察知したのかライラックさんがアイリスさんの部屋から出てきました。

涙の跡でも無いかなと私はライラックさんの顔を覗き込んでみましたが特にそんなものはなく、逆に「なんだ?」と不機嫌そうに言われて私がへこみました。

「騒がしいと思ったらカラードか。人の家まで押しかけて来て、いったいどうしたんだ」

「それはご挨拶だね。お前が帰って来たと聞いて早速仕事を持って来たんだ。これなんだが頼めるかな?」

カラードさんはそう言いながら紙の束をピラピラさせています。ライラックさんはそれを引ったくると、目を通し始めました。

「今回は簡単な依頼だけだから材料はロータスの所から仕入れてくれ。それを含んだ依頼料になっている」

カラードさんがそう説明すると、横にいるロータスさんはほくほく顔で「カラード様、恐れ入ります」などと言っています。

こんなに沢山の薬品をどうするのか聞いたら、王国軍の物資ということでした。カラードさんは王国鑑定師という資格を使って、王国軍の資材調達をしているそうです。
つまるところ、ライラックさんのパトロンはカラードさんではなく、王国だったということですね。

「だから突然居なくなられて、調達できなくなった僕の面目が丸潰れだったんだ。既成品を購入すると値段は馬鹿高いし、ライラックに任せていた部分が多すぎて小難しい依頼を頼めそうな腕の薬師は他にいなかったし」

それは気の毒な話です。そう言われてもライラックさんはどこ吹く風で紙の束を眺めていましたが、おもむろに数枚の依頼書を引き抜いてカラードさんに見せました。

「これとこれが少し安すぎる。今の季節だと材料費を賄えないぞ」

「はあ……目敏い奴だな。じゃあこのくらいでどうだ」

カラードさんがペンを取り出して金額を二割増に書き換えると、それを見てライラックさんは「良かろう。交渉成立だ」と言いました。

「いつまでに作ればいい?フリージアは近日中に国王に呼び出されるだろうから、あまり急ぎだと難しい。10日もあれば揃うだろうが」

「え?私が作るんですか!?」

いきなり話を振られた私は素っ頓狂な声を出してしまいました。私が作ってもカラードさんが納得してくれるのでしょうか。

「当たり前だろう。私は君に技術を教えるためにここにいるだけだ。幸い初歩的な薬品ばかりで、君の練習にはちょうど良さそうだ」

「本当に君が作るのかい?大丈夫かなあ」

案の定、カラードさんは心配そうにしています。王国軍の物資ということなのでいい加減な物は納品できないですし。

「もちろんチェックは私がする。というか、君はそのつもりでこの依頼を持って来たのだろう。白々しいにも程があるぞ。君が私にこんな初歩的な薬品を依頼するはずが無い」

「へ?」

私が目を丸くすると、カラードさんはバレたかという顔をしています。

「まあ、ライラックは頑固だから君に引き継ぐと言った以上は僕の話を聞かないだろうからね。早く君に一人前になってもらわないと。練習するにも無駄に作るよりは納品した方がいいだろう?」

「私が作ったものを買ってくれるんですか?」

「納品先の重要性はわかって貰えただろう?僕とライラックの顔に泥を塗らないように頑張ってくれ」

言い方はともかく、私を信じて任せてくれた仕事ですから頑張らないといけません。私がそう意気込んでいるとライラックさんが依頼書の束を渡してきました。

「そう気負わなくていい。ロータスにこのメモを渡せば全て材料を揃えてくれるだろうが、まずは君の勉強のためにも材料を書き出すところから始めようか。教えるから調合室に来なさい」

そう言ってライラックさんは調合室に向かってしまいました。気の早いことです。

「カラードさん、頑張って良いものを作りますね!」

「ああ、期待しているよ」

私は急いでライラックさんの後を追いかけました。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

処理中です...