30 / 39
30
しおりを挟む
数日後、サージェント様から国王陛下との謁見が決まったと連絡がありました。
思ったより陛下の回復に時間がかかったのかと思っていたら、衛生兵団でお父様が所属する補給・輸送部門から何やら聞き捨てならない内部告発があったため、お父様の取り調べに時間がかかっていたようです。
サージェント様は内容については口を濁していて、委細についてはルピナス様から聞いてほしいと言われました。
少し話が戻りますが、カラードさんの依頼に必要な材料を書き出してロータスさんに渡すと、翌日には全ての材料が調合室の横にある倉庫まで運びこまれました。
この数日間は、ライラックさんに教わりながら少しずつ依頼品を調合していました。
ライラックさんが頑なに自分の家で寝泊まりしようとしないので、私たちは毎日ハイペリカム侯爵家の屋敷とライラックさんの家を往復しています。
サージェント様がそれでいいと言っていたから良いのですけど、ライラックさんのダメ出しが増えると帰りが夜遅くになるのでちょっと辛かったりします。
ライラックさんは私だけ泊ればいいなんて言うのですが、ロータスさん夫婦は家を管理しているだけでたまにしか来ないし、夜は必ず自分達の家に帰ってしまいます。
一人きりにされるのは恐いのでライラックさんにそう伝えたら、なら通うしかないと言われてしまいました。
謁見は明日ということでしたので、今日はカラードさんの依頼を半分まで終わらせて早めに帰ることになりました。
作業は順調で、謁見で一日消費しても予定通り10日間で仕上げることが出来そうです。結構な数をこなしているのでポーション程度の薬品を数種類ほど何も見ずに作れるようになりました。
謁見はライラックさんと一緒です。私を保護していたことと、私が王宮に入るための協力を惜しまなかったことで陛下が礼をしたいと言っているようです。
当日は、ハイペリカムの屋敷にあったマリーゴールド様の若い時のドレスを借りて、化粧をしてもらいました。今回は大人しめの格好です。
王宮に着くと、貴族や兵士がずらりと並んで人だかりになっていました。真ん中には道ができていて謁見の間まで続いています。あまりの歓待に驚いていると、向こうの方からルピナス様が歩いて来ました。
「ようこそフリージア。お礼なんてこちらから出向くべきなんだろうけど、王だとか国だとかいう体裁上こればかりはどうしようもなくてね」
ルピナス様は申し訳なさそうにそう言っていますが、そんなことよりこの騒ぎの方が気になって仕方ありません。ご招待いただいたお礼だけ言っておきました。
「陛下を救ったマトリカリアの聖女を一目見ようと貴族達が詰めかけて来てね。まあ君はあまり好まないかもしれないので申し訳ない」
私が目を白黒させていることに気づいたのか、ルピナス様がそう説明してくれました。
「聖女のお披露目か。君が医師になったら客には困らないだろうな」
「もう、他人事だと思って」
ライラックさんは面白そうに言いますが、あまり衆目に晒されることに慣れていないので、緊張してクラクラしてきます。
「ライラック卿も付き合って貰ってすまないね。よくよく調べるとカラードだけじゃなくて君を評価している人間は随分多かったよ。王都に残る気は無いのかい?」
「そのつもりはありません。フリージアに調合を教え終えたら村に帰ります」
ライラックさんはひたすらに頑固です。ルピナス様は頷くと、私達を先導して謁見の間に歩き始めました。
「まずは勲章の授与だとか、式典めいた形での謁見になる。そのあと、報告したいことがあるから場所を変えて話をしよう」
報告とはお父様のことでしょう。追加の取り調べに時間がかかったという話ですが、彼はいったいあれ以上に何をしでかしていたのでしょうか。
謁見の間に入ると既に陛下は玉座にいて、国の重鎮が段下に揃っていました。他にも身なりの良い貴族達が大勢集まっています。
私達は前に進むと臣下の礼を取りました。
「マトリカリア伯爵令嬢フリージア、並びにライラック卿よ。頭を上げてくれ」
陛下に言われて頭を上げます。陛下は血色が良くなっていて、まだ少しやつれ気味ではありましたが健康そうでした。
こうして近くで見ると、ルピナス様の凛々しい部分は陛下に似ているようですが、どちらかというと髪が黒いこともあって弟のラムサス殿下の方が良く似ていました。
「改めて、私と王太子の命を救ってくれた其方らに最大級の謝意を送る」
陛下のその言葉から始まった謁見ではとにかく感謝を伝えられ、勲章やたくさんの金品をいただきました。
私のことはカトレア・マトリカリアの娘だと周知され、本当に聖女として逃げ場が無くなりそうです。
また、マトリカリアは侯爵位に爵位が昇格し、ライラックさんは男爵位を与えられました。
ライラックさんは後から、給料が上がるだけで何か変わるわけでも無いと言っていました。ライラックさんはなんとなく貴族社会を疎んでいる気がしてきました。何かあったのでしょうか。
「本当にありがとう。君達が困ったら言ってくれ。何でも力になろう」
最後に陛下が段下に降りて私とライラックさんの手を取りながらそう言いました。
これは後から聞くと前列を見ないことだそうです。
そして拍手に包まれる中、謁見は無事に終わりました。
思ったより陛下の回復に時間がかかったのかと思っていたら、衛生兵団でお父様が所属する補給・輸送部門から何やら聞き捨てならない内部告発があったため、お父様の取り調べに時間がかかっていたようです。
サージェント様は内容については口を濁していて、委細についてはルピナス様から聞いてほしいと言われました。
少し話が戻りますが、カラードさんの依頼に必要な材料を書き出してロータスさんに渡すと、翌日には全ての材料が調合室の横にある倉庫まで運びこまれました。
この数日間は、ライラックさんに教わりながら少しずつ依頼品を調合していました。
ライラックさんが頑なに自分の家で寝泊まりしようとしないので、私たちは毎日ハイペリカム侯爵家の屋敷とライラックさんの家を往復しています。
サージェント様がそれでいいと言っていたから良いのですけど、ライラックさんのダメ出しが増えると帰りが夜遅くになるのでちょっと辛かったりします。
ライラックさんは私だけ泊ればいいなんて言うのですが、ロータスさん夫婦は家を管理しているだけでたまにしか来ないし、夜は必ず自分達の家に帰ってしまいます。
一人きりにされるのは恐いのでライラックさんにそう伝えたら、なら通うしかないと言われてしまいました。
謁見は明日ということでしたので、今日はカラードさんの依頼を半分まで終わらせて早めに帰ることになりました。
作業は順調で、謁見で一日消費しても予定通り10日間で仕上げることが出来そうです。結構な数をこなしているのでポーション程度の薬品を数種類ほど何も見ずに作れるようになりました。
謁見はライラックさんと一緒です。私を保護していたことと、私が王宮に入るための協力を惜しまなかったことで陛下が礼をしたいと言っているようです。
当日は、ハイペリカムの屋敷にあったマリーゴールド様の若い時のドレスを借りて、化粧をしてもらいました。今回は大人しめの格好です。
王宮に着くと、貴族や兵士がずらりと並んで人だかりになっていました。真ん中には道ができていて謁見の間まで続いています。あまりの歓待に驚いていると、向こうの方からルピナス様が歩いて来ました。
「ようこそフリージア。お礼なんてこちらから出向くべきなんだろうけど、王だとか国だとかいう体裁上こればかりはどうしようもなくてね」
ルピナス様は申し訳なさそうにそう言っていますが、そんなことよりこの騒ぎの方が気になって仕方ありません。ご招待いただいたお礼だけ言っておきました。
「陛下を救ったマトリカリアの聖女を一目見ようと貴族達が詰めかけて来てね。まあ君はあまり好まないかもしれないので申し訳ない」
私が目を白黒させていることに気づいたのか、ルピナス様がそう説明してくれました。
「聖女のお披露目か。君が医師になったら客には困らないだろうな」
「もう、他人事だと思って」
ライラックさんは面白そうに言いますが、あまり衆目に晒されることに慣れていないので、緊張してクラクラしてきます。
「ライラック卿も付き合って貰ってすまないね。よくよく調べるとカラードだけじゃなくて君を評価している人間は随分多かったよ。王都に残る気は無いのかい?」
「そのつもりはありません。フリージアに調合を教え終えたら村に帰ります」
ライラックさんはひたすらに頑固です。ルピナス様は頷くと、私達を先導して謁見の間に歩き始めました。
「まずは勲章の授与だとか、式典めいた形での謁見になる。そのあと、報告したいことがあるから場所を変えて話をしよう」
報告とはお父様のことでしょう。追加の取り調べに時間がかかったという話ですが、彼はいったいあれ以上に何をしでかしていたのでしょうか。
謁見の間に入ると既に陛下は玉座にいて、国の重鎮が段下に揃っていました。他にも身なりの良い貴族達が大勢集まっています。
私達は前に進むと臣下の礼を取りました。
「マトリカリア伯爵令嬢フリージア、並びにライラック卿よ。頭を上げてくれ」
陛下に言われて頭を上げます。陛下は血色が良くなっていて、まだ少しやつれ気味ではありましたが健康そうでした。
こうして近くで見ると、ルピナス様の凛々しい部分は陛下に似ているようですが、どちらかというと髪が黒いこともあって弟のラムサス殿下の方が良く似ていました。
「改めて、私と王太子の命を救ってくれた其方らに最大級の謝意を送る」
陛下のその言葉から始まった謁見ではとにかく感謝を伝えられ、勲章やたくさんの金品をいただきました。
私のことはカトレア・マトリカリアの娘だと周知され、本当に聖女として逃げ場が無くなりそうです。
また、マトリカリアは侯爵位に爵位が昇格し、ライラックさんは男爵位を与えられました。
ライラックさんは後から、給料が上がるだけで何か変わるわけでも無いと言っていました。ライラックさんはなんとなく貴族社会を疎んでいる気がしてきました。何かあったのでしょうか。
「本当にありがとう。君達が困ったら言ってくれ。何でも力になろう」
最後に陛下が段下に降りて私とライラックさんの手を取りながらそう言いました。
これは後から聞くと前列を見ないことだそうです。
そして拍手に包まれる中、謁見は無事に終わりました。
15
あなたにおすすめの小説
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。
しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。
王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。
絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。
彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。
誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。
荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。
一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。
王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。
しかし、アリシアは冷たく拒否。
「私はもう、あなたの聖女ではありません」
そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。
「俺がお前を守る。永遠に離さない」
勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動……
追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる