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式典が終わると、ルピナス様の執務室に場所を変えてあの大捕物の日のメンバーが顔を合わせました。
とはいってもルピナス様、サージェント様、ディセントラ公爵様だけです。
「フリージアよ、数日ぶりじゃな。なかなか見応えのある式典だった。長生きはしてみるものだ。ではまず、業務連絡になるが」
ディセントラ公爵様がそう口火を切り、私が挨拶を返すと先程は説明されなかった詳しい話を聞かせてくれました。
ハイドランジア侯爵家が伯爵位に爵位を降格され、領地の一部がマトリカリア侯爵領に割譲されます。
私が馬車でハイドランジアを目指したように、マトリカリアとハイドランジアとは隣同士なのです。その隣接地域の多くがマトリカリアに移りました。
しかし、私では領地運営は無理という判断で、王国から管理の役人が派遣され、徴税やら納税やらを終わらせた上で、残った物資を全てお金に変えたものが給料として私に支払われることになりました。
確かに私が目指していることは、領地に住んでいたらできることでは無いので助かる話です。私が将来マトリカリア侯爵として結婚などして現地に住まうことになれば、いつでも普通の状態に戻してくれるそうです。
それを聞いているルピナス様の眉が跳ねたような気がしましたけど。
それから、王都にあったマトリカリアの別邸はお父様によって売り払われていました。お母様が亡くなってから領地運営が厳しかったようですが、どうもそれだけではなさそうで公爵様の歯切れが悪いです。中にあったお母様の持ち物が全て処分されていたことに、私は落胆してしまいました。
屋敷自体は買い戻して既に清めてあるらしく、ハイペリカムの屋敷を出て一旦そこに住むことになりました。使用人などは全て手配してくれているそうです。サージェント様が何も言わないあたり、その辺りの調整は済んでいるのでしょう。
「これは先日伝えたディセントラからの支援を押し売りするものではない。経費は其方の許可を得てから、給料からの天引きで賄ってもらおうと思っておるがどうだ?」
全く問題無いので了承しましたが、どのくらいの金額がかかっているのか心配になりました。
「其方は領地運営に関しては本当にからっきしだな。広大な侯爵領の税収に比べたら微々たるものだ。安心するが良い。其方に任せるのは無理そうだから、資産の運用についてもしばらくは国で管理しておこう」
それから、それらに関する幾つかの書類にサインして、業務連絡と言われた話は終わりました。
ディセントラ公爵家の支援の話は特にされませんでした。私から言うのを待っているのでしょうか。
「ここからが本題なんだけど、正直、君に話すことを躊躇うような内容でね。言わないわけにはいかないから話すけど、気を確かに持ってほしい」
ルピナス様にわざわざそう前置きされました。サージェント様も公爵様も話したがらない内容をルピナス様は押し付けられたようです。
内容は当たり前ですが捕らえられた3人についての話です。ルピナス様が話し始めました。
まずアザレアとガーベラの母子について、母のアザレアについては関与していた内容から主犯格として扱われるようです。娘のガーベラのためにしていた部分もあったようですが、情状酌量の余地が無いそうです。
「娘のガーベラは生きる気力を失っていたようでね、何も口にしないから衰弱してしまって、困った刑務の者から私が相談を受けて直接見に行ったんだ」
ガーベラの様子を聞いて、私は胸が苦しくなりました。彼女の最後の言葉は胸に突き刺さったままです。彼女をそんな目に合わせたのは父親と母親ですから、被害者の私をあんな目で見ないで欲しかったです。
「君とのやりとりは私も聞いていたから、誤解を解くようにいろいろ話しておいたよ。聞いているのかわからない様子だったけど、食事を取るようになったらしいからたぶん聞いてはくれたと思うよ」
顔を合わせたくはありませんが、勘違いに気付いてくれたなら少しは気が楽になります。ルピナス様に感謝しました。
「最後に君の父親なのだけど、君の身に起きたことについては君も知っての通り彼が全て仕組んだことだ」
それはもうわかっていることです。改めて言われるとそれはそれできついものですが、こうして他の出会いもあったことですし、もう忘れたいです。
でもサージェント様から聞いていたことが気になりました。
「お父様はそれ以外にまだ何かしていたのですか?」
ルピナス様は言葉を選ぶように黙って考えています。私に言いにくいと言うことは、お父様のせいで私がまだ何か被害を受けていると言うことでしょうか。
「今から約4年前のことなんだけど、当時、衛生兵団の補給や移送を担当する部署内で緘口令が敷かれた案件があったんだ。衛生兵団で起きた事故についてなんだけど、今回の件が表沙汰になって、その事故の調査隊員だった者からそんな内部告発があった」
4年前に起きた事故と言えば、お母様が亡くなった話を思い浮かべてしまいます。そういえばルピナス様やサージェント様は公爵様の関与を疑っていて、その公爵様すら事件性は認めていたような気がします。
「王都からそう遠くない森に魔獣が現れてね。領民に被害が出たから急遽討伐隊が組まれたんだ」
私が嫌な汗をかき始めると、何故か横にいたライラックさんまで目に見えて青ざめていました。
とはいってもルピナス様、サージェント様、ディセントラ公爵様だけです。
「フリージアよ、数日ぶりじゃな。なかなか見応えのある式典だった。長生きはしてみるものだ。ではまず、業務連絡になるが」
ディセントラ公爵様がそう口火を切り、私が挨拶を返すと先程は説明されなかった詳しい話を聞かせてくれました。
ハイドランジア侯爵家が伯爵位に爵位を降格され、領地の一部がマトリカリア侯爵領に割譲されます。
私が馬車でハイドランジアを目指したように、マトリカリアとハイドランジアとは隣同士なのです。その隣接地域の多くがマトリカリアに移りました。
しかし、私では領地運営は無理という判断で、王国から管理の役人が派遣され、徴税やら納税やらを終わらせた上で、残った物資を全てお金に変えたものが給料として私に支払われることになりました。
確かに私が目指していることは、領地に住んでいたらできることでは無いので助かる話です。私が将来マトリカリア侯爵として結婚などして現地に住まうことになれば、いつでも普通の状態に戻してくれるそうです。
それを聞いているルピナス様の眉が跳ねたような気がしましたけど。
それから、王都にあったマトリカリアの別邸はお父様によって売り払われていました。お母様が亡くなってから領地運営が厳しかったようですが、どうもそれだけではなさそうで公爵様の歯切れが悪いです。中にあったお母様の持ち物が全て処分されていたことに、私は落胆してしまいました。
屋敷自体は買い戻して既に清めてあるらしく、ハイペリカムの屋敷を出て一旦そこに住むことになりました。使用人などは全て手配してくれているそうです。サージェント様が何も言わないあたり、その辺りの調整は済んでいるのでしょう。
「これは先日伝えたディセントラからの支援を押し売りするものではない。経費は其方の許可を得てから、給料からの天引きで賄ってもらおうと思っておるがどうだ?」
全く問題無いので了承しましたが、どのくらいの金額がかかっているのか心配になりました。
「其方は領地運営に関しては本当にからっきしだな。広大な侯爵領の税収に比べたら微々たるものだ。安心するが良い。其方に任せるのは無理そうだから、資産の運用についてもしばらくは国で管理しておこう」
それから、それらに関する幾つかの書類にサインして、業務連絡と言われた話は終わりました。
ディセントラ公爵家の支援の話は特にされませんでした。私から言うのを待っているのでしょうか。
「ここからが本題なんだけど、正直、君に話すことを躊躇うような内容でね。言わないわけにはいかないから話すけど、気を確かに持ってほしい」
ルピナス様にわざわざそう前置きされました。サージェント様も公爵様も話したがらない内容をルピナス様は押し付けられたようです。
内容は当たり前ですが捕らえられた3人についての話です。ルピナス様が話し始めました。
まずアザレアとガーベラの母子について、母のアザレアについては関与していた内容から主犯格として扱われるようです。娘のガーベラのためにしていた部分もあったようですが、情状酌量の余地が無いそうです。
「娘のガーベラは生きる気力を失っていたようでね、何も口にしないから衰弱してしまって、困った刑務の者から私が相談を受けて直接見に行ったんだ」
ガーベラの様子を聞いて、私は胸が苦しくなりました。彼女の最後の言葉は胸に突き刺さったままです。彼女をそんな目に合わせたのは父親と母親ですから、被害者の私をあんな目で見ないで欲しかったです。
「君とのやりとりは私も聞いていたから、誤解を解くようにいろいろ話しておいたよ。聞いているのかわからない様子だったけど、食事を取るようになったらしいからたぶん聞いてはくれたと思うよ」
顔を合わせたくはありませんが、勘違いに気付いてくれたなら少しは気が楽になります。ルピナス様に感謝しました。
「最後に君の父親なのだけど、君の身に起きたことについては君も知っての通り彼が全て仕組んだことだ」
それはもうわかっていることです。改めて言われるとそれはそれできついものですが、こうして他の出会いもあったことですし、もう忘れたいです。
でもサージェント様から聞いていたことが気になりました。
「お父様はそれ以外にまだ何かしていたのですか?」
ルピナス様は言葉を選ぶように黙って考えています。私に言いにくいと言うことは、お父様のせいで私がまだ何か被害を受けていると言うことでしょうか。
「今から約4年前のことなんだけど、当時、衛生兵団の補給や移送を担当する部署内で緘口令が敷かれた案件があったんだ。衛生兵団で起きた事故についてなんだけど、今回の件が表沙汰になって、その事故の調査隊員だった者からそんな内部告発があった」
4年前に起きた事故と言えば、お母様が亡くなった話を思い浮かべてしまいます。そういえばルピナス様やサージェント様は公爵様の関与を疑っていて、その公爵様すら事件性は認めていたような気がします。
「王都からそう遠くない森に魔獣が現れてね。領民に被害が出たから急遽討伐隊が組まれたんだ」
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