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ステラさんを見つけて声をかけると事情を知っていたようで、気まずそうに話を聞かせてくれました。
「昨日ね、クロエちゃんのお姉さん、えっとグレースさんだったかな?がここにやってきたのよ」
グレースお姉様は私を出せと散々喚き散らした挙げ句、私を捕まらないことがわかると、男爵夫人であるお義母様の名前を使って私の冒険者カードの迷宮探索の許可を停止する手続きをしました。
冒険者カードは個人に発行されているものですが、報酬などを含む迷宮関連の許可は家に出されているので、家長の配偶者となる男爵夫人ならそれを止めることができるそうです。
「話し合いがしたいからクロエにはシリウスの屋敷に来るように言っておいて頂戴」
そう言い残してグレースお姉様は帰って行きました。
「本当にごめんなさい。私があの日、考えなしにクロエちゃんの情報を公開してしまったばっかりに」
ステラさんが悪いわけではありません。気をつけるべき私が全くその考えに至らなかったのです。少し調子に乗って以前の慎重さを失っていたのかもしれません。
話を聞いた私が目を瞑って歯を食いしばっていると、ルーカス君が私の肩を叩いて言いました。
「別に実家に帰ってお願いしたらいいじゃんか。時間がもったいないし今から行こうぜ」
私はカチンときて、つい声を荒げてしまいました。
「何も知らないくせに簡単そうに言わないで!そんな事が悩まずにできるなら、私は死ぬ思いまでして迷宮探索なんかしていないの!」
ルーカス君は一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしましたが、すぐに怒った顔になってそっぽを向きました。
「なんだよ!話してくれないからわかるわけがないだろ!勝手にしろ!」
売り言葉に買い言葉でルーカス君は協会を飛び出して帰ってしまいました。
ルーカス君はきっと私を元気づけようとしてくれたのだと思います。
「私ってば本当に最低……」
思えば、辛い事しか無かった以前と違って、ルーカス君のお陰もあって最近は楽しいことばかりでした。
以前は当たり前だった、久しぶりの理不尽に心を乱されてルーカス君に八つ当たりで酷いことを言ってしまいました。
迷宮からここまで私が事情も話さずに無言でいたせいで何も知らないだけなのに。
なんだか悲しくなって私は久しぶりに泣いてしまい、ステラさんがカウンターから出てきて肩を抱いてくれました。
「ルーカスならわかってくれるから、事情を少し打ち明けて謝っておいでよ」
私が頷いてルーカス君を追いかけようとした時、協会の入り口に良く知った顔が現れました。
「ルーナお姉様……」
ルーナお姉様は小柄でどことなくクールな印象を受ける美女です。得意な槍術のために上げていた前髪を下ろして左目を隠していました。迷宮で視力を失ったのでしたっけ。
「クロエ、貴女を探すようにグレースお姉様に言われて来たわ」
ルーナお姉様はこちらに近づいて来てそう言いました。
「クロエちゃん、ここは目立つから奥の休憩室で話すといいわ。ルーナさんも、あちらにどうぞ」
ステラさんに促されて私とルーナお姉様は休憩室の椅子に腰掛けました。
正直なところ、ルーナお姉様と面と向かって話をしたことが無かったので、私は何を話したらいいのかわかりません。彼女も同じみたいで暫く沈黙が続きましたが、意を決したようにルーナお姉様が話を始めました。
「クロエを連れて来るまで家に戻らないように言われているの。でも正直なところ、私はこれ以上クロエに迷惑をかけたくないっ……」
ルーナお姉様は意外なことを言いました。この人にも私は散々意地悪をされたような気がしますが、よくよく考えたら直接手を出されたり何か言われたりした事は無いような。ムカデの時は、まあ仕方ないとして。
でも、よく乗っかって笑い声とかあげたりしてましたよね。あれ、結構キツイですからね?
「クロエが来るまでは私はグレースお姉様に散々意地悪されてきたの。クロエほど酷い目に遭わされていたわけじゃないけど。この目を見れば、私が家でどういう立場なのか分かってもらえるかも」
そう言ってルーナお姉様は隠していた髪を避けて、失った左目を見せてくれました。
いや、特に何もわからないし、かなり痛々しいから見せてくれなくていいし。
目を背けるのも失礼だと思ったけれど、尻込みしてしまうのは仕方ないですよね。
「あはは、クロエって思ってる事がすぐに顔に出るよね。私も鏡で見て、酷い顔だなって思うよ」
「申し訳ありません、ルーナお姉様」
ルーナお姉様は一瞬楽しそうに笑いましたが、私がそう謝ると自嘲したような、或いは寂しそうな顔をして元の塞ぎ込んだ顔に戻りました。
「グレースお姉様が貴女を探してる。行ったらまたロクでもないことを言い出すわ」
さて、どうしましょうか。グレースお姉様が鬱陶しいからといって、逃げ続けていても迷宮に行けなくて困るのは私の方なんですよね。
もうあの家に養ってもらう必要は無いし、正直私も強くなったので暴力に訴えられたら返り討ちにすれば良いことです。
迷宮に入る許可にしたって、実のところ私は最速攻略冒険者なので、いろいろと面倒ですが別の貴族に雇ってもらう手もあります。自由に探索できなかったり、グレースお姉様みたいに他人を都合良く使う相手だと危険を伴いますけど。
今まで通りに自由に探索できるかどうか、交渉次第です。リンカーンさんよりは容易い相手でしょう。
もちろん、自分を連れて行けなんて言われたらお断りですけどね。
「話だけでも聞きに行っても構いませんよ。ノーラお姉様も大変なのでしょう?」
「クロエ、貴女なんでそんなに前向きでいられるのよ……」
ルーナお姉様は呆れたようにそう言いました。別に答えを求められた訳ではなさそうなので、そのままルーナお姉様を伴ってシリウスの屋敷に向かいました。
怒りん坊なルーカス君の事が後回しになっちゃったけど、まあいいや。
「昨日ね、クロエちゃんのお姉さん、えっとグレースさんだったかな?がここにやってきたのよ」
グレースお姉様は私を出せと散々喚き散らした挙げ句、私を捕まらないことがわかると、男爵夫人であるお義母様の名前を使って私の冒険者カードの迷宮探索の許可を停止する手続きをしました。
冒険者カードは個人に発行されているものですが、報酬などを含む迷宮関連の許可は家に出されているので、家長の配偶者となる男爵夫人ならそれを止めることができるそうです。
「話し合いがしたいからクロエにはシリウスの屋敷に来るように言っておいて頂戴」
そう言い残してグレースお姉様は帰って行きました。
「本当にごめんなさい。私があの日、考えなしにクロエちゃんの情報を公開してしまったばっかりに」
ステラさんが悪いわけではありません。気をつけるべき私が全くその考えに至らなかったのです。少し調子に乗って以前の慎重さを失っていたのかもしれません。
話を聞いた私が目を瞑って歯を食いしばっていると、ルーカス君が私の肩を叩いて言いました。
「別に実家に帰ってお願いしたらいいじゃんか。時間がもったいないし今から行こうぜ」
私はカチンときて、つい声を荒げてしまいました。
「何も知らないくせに簡単そうに言わないで!そんな事が悩まずにできるなら、私は死ぬ思いまでして迷宮探索なんかしていないの!」
ルーカス君は一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしましたが、すぐに怒った顔になってそっぽを向きました。
「なんだよ!話してくれないからわかるわけがないだろ!勝手にしろ!」
売り言葉に買い言葉でルーカス君は協会を飛び出して帰ってしまいました。
ルーカス君はきっと私を元気づけようとしてくれたのだと思います。
「私ってば本当に最低……」
思えば、辛い事しか無かった以前と違って、ルーカス君のお陰もあって最近は楽しいことばかりでした。
以前は当たり前だった、久しぶりの理不尽に心を乱されてルーカス君に八つ当たりで酷いことを言ってしまいました。
迷宮からここまで私が事情も話さずに無言でいたせいで何も知らないだけなのに。
なんだか悲しくなって私は久しぶりに泣いてしまい、ステラさんがカウンターから出てきて肩を抱いてくれました。
「ルーカスならわかってくれるから、事情を少し打ち明けて謝っておいでよ」
私が頷いてルーカス君を追いかけようとした時、協会の入り口に良く知った顔が現れました。
「ルーナお姉様……」
ルーナお姉様は小柄でどことなくクールな印象を受ける美女です。得意な槍術のために上げていた前髪を下ろして左目を隠していました。迷宮で視力を失ったのでしたっけ。
「クロエ、貴女を探すようにグレースお姉様に言われて来たわ」
ルーナお姉様はこちらに近づいて来てそう言いました。
「クロエちゃん、ここは目立つから奥の休憩室で話すといいわ。ルーナさんも、あちらにどうぞ」
ステラさんに促されて私とルーナお姉様は休憩室の椅子に腰掛けました。
正直なところ、ルーナお姉様と面と向かって話をしたことが無かったので、私は何を話したらいいのかわかりません。彼女も同じみたいで暫く沈黙が続きましたが、意を決したようにルーナお姉様が話を始めました。
「クロエを連れて来るまで家に戻らないように言われているの。でも正直なところ、私はこれ以上クロエに迷惑をかけたくないっ……」
ルーナお姉様は意外なことを言いました。この人にも私は散々意地悪をされたような気がしますが、よくよく考えたら直接手を出されたり何か言われたりした事は無いような。ムカデの時は、まあ仕方ないとして。
でも、よく乗っかって笑い声とかあげたりしてましたよね。あれ、結構キツイですからね?
「クロエが来るまでは私はグレースお姉様に散々意地悪されてきたの。クロエほど酷い目に遭わされていたわけじゃないけど。この目を見れば、私が家でどういう立場なのか分かってもらえるかも」
そう言ってルーナお姉様は隠していた髪を避けて、失った左目を見せてくれました。
いや、特に何もわからないし、かなり痛々しいから見せてくれなくていいし。
目を背けるのも失礼だと思ったけれど、尻込みしてしまうのは仕方ないですよね。
「あはは、クロエって思ってる事がすぐに顔に出るよね。私も鏡で見て、酷い顔だなって思うよ」
「申し訳ありません、ルーナお姉様」
ルーナお姉様は一瞬楽しそうに笑いましたが、私がそう謝ると自嘲したような、或いは寂しそうな顔をして元の塞ぎ込んだ顔に戻りました。
「グレースお姉様が貴女を探してる。行ったらまたロクでもないことを言い出すわ」
さて、どうしましょうか。グレースお姉様が鬱陶しいからといって、逃げ続けていても迷宮に行けなくて困るのは私の方なんですよね。
もうあの家に養ってもらう必要は無いし、正直私も強くなったので暴力に訴えられたら返り討ちにすれば良いことです。
迷宮に入る許可にしたって、実のところ私は最速攻略冒険者なので、いろいろと面倒ですが別の貴族に雇ってもらう手もあります。自由に探索できなかったり、グレースお姉様みたいに他人を都合良く使う相手だと危険を伴いますけど。
今まで通りに自由に探索できるかどうか、交渉次第です。リンカーンさんよりは容易い相手でしょう。
もちろん、自分を連れて行けなんて言われたらお断りですけどね。
「話だけでも聞きに行っても構いませんよ。ノーラお姉様も大変なのでしょう?」
「クロエ、貴女なんでそんなに前向きでいられるのよ……」
ルーナお姉様は呆れたようにそう言いました。別に答えを求められた訳ではなさそうなので、そのままルーナお姉様を伴ってシリウスの屋敷に向かいました。
怒りん坊なルーカス君の事が後回しになっちゃったけど、まあいいや。
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