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5:本屋敷
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ドーバはマフラーを巻いてコートをしっかり着こんで、本を読みながら歩いていた。
もうそろそろ冬の終わりが近いというのに、今日は随分と冷える。本を持つ手がすっかり冷たくなり、どうにも頁を捲りにくい。
もうそろそろ、おやつの時間である。本当は昼過ぎに家を出てフリッツの本屋に行く予定だったのだが、ついつい読み始めた本に熱中して、気づけばこの時間になっていた。多分、家に着く頃には日が落ち始めるだろう。これ以上寒くなる前に帰りたくて、ドーバは足を速めた。
フリッツの本屋で本を3冊買って帰路につく。残念ながら今日はハイルはいなかった。今日は土曜日である。毎週土曜日は午後からアンリが家に遊びに来るようになったらしい。
いっそフリッツの自宅に子供達の顔を見に行こうかと思い、フリッツの家を目指して歩いていると、フリッツの家の近くでスウィードとアンリの姿を見かけた。おそらくフリッツの家からの帰りなのだろう。ドーバは足早に2人に近づいて、声をかけた。
「やぁ。スウィード、アンリ。元気かい?今日は寒いね」
「ドーバ。こんにちは」
「…………」
スウィードが足を止めて振り向き、アンリは無言でドーバの足にしがみついた。アンリの頭を優しく撫でると、アンリが小さくゴロゴロと喉を鳴らした。可愛らしいアンリに嬉しくなって、ドーバは笑顔でうりうりとアンリの頭を撫で回した。
「今日はハイル達と遊んだのかい?」
「…………うん」
「よかったねぇ。楽しかった?」
「…………うん」
「それはなによりだ!うんと遊んで元気に大きくおなりよ」
「…………うん」
小さな声で返事してくれるアンリが可愛い。アンリの額のあたりを親指でくりくり撫でると、アンリが気持ち良さそうに目を細めた。
ドーバはスウィードの方に顔を向けると、スウィードの顔を見て、おや、と首を傾げた。なんだか以前見たときより痩せて毛艶が悪くなっている気がする。それになんだか引っかかれたような小さな傷がたくさんある。ストレートにどうしたのか聞いてもいいが、ドーバはなんとなくそれは止めた方がいい気がして、何も触れなかった。
「フリッツの家で子供達を遊ばせることにしたんだって?」
「えぇ。アンリが喜ぶので」
「いいことだね。友達は多い方が楽しい。特に子供の頃はね」
「はい」
ドーバはふと、あることを思いついた。それは我ながらいい考えで、ドーバは思いついたまま、それを口にした。
「ねぇ、スウィード、アンリ。よかったら僕の家に来ないかい?そろそろ本が溜まりに溜まってきたから少し処分しようと思ってたんだ。子供向けの本もあるから、よかったら貰ってくれないかな?」
「えっと……いいんですか?」
「勿論!子供向けの本はどれも古いからね。状態はよくても古本屋で売ったら本当に子供のお小遣いにもならない。それならアンリにあげた方が余程いいよ。アンリにはまだ早い本が多いけど、一応絵本もあるよ」
「……アンリ。どうする?」
「…………いく」
「ようし!決まりだね!なんなら晩ご飯も僕の家で食べなよ。いつも基本的に僕1人で食べてるからさ。付き合ってくれると嬉しいな。スウィードが明日も休みなら、なんならお泊まりも大歓迎だよ!僕の家は風呂とトイレ以外は全部本棚と本で埋まってるけどね!」
「や、そこまでお世話になるわけには……」
「…………いく」
「アンリ?」
「…………ごはん、たべる」
アンリがドーバの足にぎゅっと抱きついて、ドーバをじっと見上げた。そんなアンリを何故かスウィードが驚いたように見つめている。そんなスウィードにドーバは首を傾げた。
「いいかい?スウィード」
「……え、あ、あぁ。……その、厚かましいが、今夜は世話になってもいいですか?……アンリが、そうしたいみたいなので……」
「もっちろん!大歓迎だよ!」
「あ、家に1度寄っても?使用人夫婦に言わないと……あとアンリの着替えも」
「いいよー。スウィード達の家に寄ってから行こうか。ふふふ……僕の家ね、知り合い達からは『本屋敷』って呼ばれているんだ。本が沢山ありすぎて、きっと2人とも驚くよ!あ、スウィードも気に入った本があったら貰ってよ。本当に何冊でも何十冊でもいいから。いい加減置く場所がないって、執事や使用人達に怒られるんだもん。少しでも減らしたいんだよね」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、行こうか!」
ドーバは足にしがみついているアンリの手を握った。スウィードがアンリの反対側の手を握り、3人並んでスウィード達の家を目指して歩く。
スウィード達の家は、庭はほぼないが、そこそこ大きな2階建てで、猫獣人の老夫婦がいた。2人ともドーバの家にスウィード達が今夜泊まると聞いて、とても驚いていた。それでも急いでアンリの着替えを用意してくれて、スウィードも自分の着替えを鞄に入れて持ってきた。2人分の着替えを持ったスウィードとアンリを連れて、ドーバは今度は自分の家を目指して、3人で並んで歩いた。
アンリにドーバが子供の頃に何度も読んだ物語を語ってやりながら、ドーバはとてもご機嫌だった。誰かを家に招くのは久しぶりである。アンリはとてもとても可愛いし、スウィードも中々好みだ。人のものには手を出さない主義だから、別に何もしないけど。……そういえば、スウィードの伴侶を家では見なかった。スウィード達と会ったのはまだほんの数回だが、いつも2人だけだ。ドーバは内心首を傾げた。もしかして何らかの事情でスウィードの伴侶はいないのだろうか。ドーバはとても気になったが、極めてプライベートでデリケートな話題の可能性が高いので、今聞くのはやめておくことにした。
物語を1つ語り終える頃に、ドーバの家に着いた。ドーバの家に庭はない。2階建てで家自体はそこそこ大きい。そこにドーバ1人で住んでいる。執事や使用人達は通いである。朝早くに来て、夕方に仕事から帰ったドーバの世話をしてから帰っていく。
ドーバは家の玄関のドアノブに手をかけた。
「ようこそ『本屋敷』へ!」
ーーーーーー
ドーバは出迎えた執事にスウィードとアンリを紹介し、今夜泊まることまで伝えると、早速スウィードとアンリを家の中を案内して回った。
ドーバの家は、本当に風呂とトイレ以外の部屋には本棚と本でいっぱいである。使うことのない客室もベッド以外は本棚しか置いていない。部屋どころか廊下にまで小さめの本棚を置いて本を並べてある。
スウィードはそんな『本屋敷』にポカンとした。多分圧倒されているのだろう。あまりの本の数の多さに。持ち主であるドーバはなんだか気分がいい。どうだ!すごいだろう!長年かけて集めたんだぞ!と自慢したい。すごくしたい。
「これだけ本があるからね、自分でも何を持っているのか全部は把握していないんだよね。はははっ。あ、でも安心してよ。アンリ用の本はね、全部書斎の本棚にあるから。ここに引っ越した時に書斎の本棚にまとめて並べて、それから1度も動かしていないんだ」
「は、はぁ……その、何冊くらいお持ちなんですか?」
「わからないねー。いちいち数えないもの」
「はぁ……」
「さ、アンリ。書斎に行こうか。素敵な本との出会いが君を待っているよ!」
「…………うん」
ドーバはアンリと手を繋いで、本棚で狭くなっている廊下を歩いて書斎に移動した。スウィードはキョロキョロしながら2人の後をついてくる。
ドーバは書斎のドアを開けた。ここには子供の頃に読んでいた古い本が沢山ある。だからだろう。書斎の中はまるで古い本を所蔵している図書館の書庫や古書店のような匂いがする。実に落ち着き、同時に胸を高鳴らせる匂いだ。ドーバは書斎の匂いが1番好きである。
アンリを連れて、子供用の本を置いてある一角に向かった。ドーバは本当に小さな頃から本を読むのが好きで、末っ子のドーバに甘かった両親はドーバが望むままに本を買い与えてくれた。お陰で子供用の本も沢山ある。ぶっちゃけ大きな本棚1つ分だ。どれも大事にしていたから、状態は悪くない。実家から引っ越す時に大事に持ってきたドーバの思い出であり、宝物だ。しかし、本は読まれることに意味がある。ドーバが子供の頃に夢中で何度も読み返した本も、今となっては読むことがない。このまま残していても、ドーバが死んだ後に適当に処分されるだけである。それだったら、未来ある幼子にドーバの思い出と宝物を貰ってもらいたい。
アンリを絵本をまとめて置いているスペースに連れていった。ドーバが何冊か適当に本棚から取り出して、アンリに見せるとアンリの大きなサファイアのような瞳が輝いた。
「アンリはどんな本が好きなんだい?」
「…………きれいの」
「きれいの?あ、もしかして絵が?」
「…………うん」
「アンリは文字の読み書きはできるのかな?」
アンリは無言で首を横に振った。
ドーバはそんなアンリの頭を優しく撫で、1つ提案することにした。
「じゃあ、とりあえず、この中から好きな絵の絵本を選んでごらん?そうしたら、僕が絵本を読んであげるよ」
「…………うん」
アンリがキラキラした目でドーバを見上げ、ドーバが今持っている絵本をじっと見つめた。
「スウィード。絵本を全部出すのを手伝ってもらえるかな?本棚から出して、表紙を全て見せた方が早いからさ」
「あ、はい」
スウィードと2人で合わせて40冊程の絵本を本棚から取り出した。書斎には並べられるスペースがないので、書斎の隣にあるドーバの寝室に絵本を全て抱えて移動した。ベッドの上に表紙を表にして、絵本を並べていく。ギリギリ全て並べられた。
アンリは絵本を並べる大人2人から離れて、ドーバの寝室のあちこちを、匂いを嗅いで回っていた。一通り部屋中の匂いを嗅ぐと、適当にどけていたドーバの枕を抱き締め、顔を埋めて匂いを嗅いでいる。……加齢臭はまだないと思いたいドーバである。臭そうな表情をしていないので、大丈夫だ。……多分。
「さ!アンリ!好きなのを選んでごらん」
「…………うん」
アンリがドーバの枕を両手で抱き抱えたまま、じっとベッドの上を見ている。手前は兎も角奥の方は見にくいだろうと、ドーバはアンリを抱っこした。
「この方が全部見やすいかな?」
「…………うん」
そのまま30分程かけて、アンリは5冊の絵本を選んだ。どれも古く、少し色が褪せてしまっている。本当に小さな頃に、ドーバが毎日のように読んでいたものだ。ドーバが持つ絵本の中でも特にお気に入りだった絵本をアンリが選んでくれて、すごく嬉しい。
ドーバはご機嫌で残りの絵本を重ねてベッドの端に起き、ベッドに腰かけて膝にアンリを座らせた。スウィードにも声をかけて、ドーバのすぐ隣に座らせる。
ドーバは夕食の時間まで、ずっとアンリに絵本を読み聞かせてやった。
もうそろそろ冬の終わりが近いというのに、今日は随分と冷える。本を持つ手がすっかり冷たくなり、どうにも頁を捲りにくい。
もうそろそろ、おやつの時間である。本当は昼過ぎに家を出てフリッツの本屋に行く予定だったのだが、ついつい読み始めた本に熱中して、気づけばこの時間になっていた。多分、家に着く頃には日が落ち始めるだろう。これ以上寒くなる前に帰りたくて、ドーバは足を速めた。
フリッツの本屋で本を3冊買って帰路につく。残念ながら今日はハイルはいなかった。今日は土曜日である。毎週土曜日は午後からアンリが家に遊びに来るようになったらしい。
いっそフリッツの自宅に子供達の顔を見に行こうかと思い、フリッツの家を目指して歩いていると、フリッツの家の近くでスウィードとアンリの姿を見かけた。おそらくフリッツの家からの帰りなのだろう。ドーバは足早に2人に近づいて、声をかけた。
「やぁ。スウィード、アンリ。元気かい?今日は寒いね」
「ドーバ。こんにちは」
「…………」
スウィードが足を止めて振り向き、アンリは無言でドーバの足にしがみついた。アンリの頭を優しく撫でると、アンリが小さくゴロゴロと喉を鳴らした。可愛らしいアンリに嬉しくなって、ドーバは笑顔でうりうりとアンリの頭を撫で回した。
「今日はハイル達と遊んだのかい?」
「…………うん」
「よかったねぇ。楽しかった?」
「…………うん」
「それはなによりだ!うんと遊んで元気に大きくおなりよ」
「…………うん」
小さな声で返事してくれるアンリが可愛い。アンリの額のあたりを親指でくりくり撫でると、アンリが気持ち良さそうに目を細めた。
ドーバはスウィードの方に顔を向けると、スウィードの顔を見て、おや、と首を傾げた。なんだか以前見たときより痩せて毛艶が悪くなっている気がする。それになんだか引っかかれたような小さな傷がたくさんある。ストレートにどうしたのか聞いてもいいが、ドーバはなんとなくそれは止めた方がいい気がして、何も触れなかった。
「フリッツの家で子供達を遊ばせることにしたんだって?」
「えぇ。アンリが喜ぶので」
「いいことだね。友達は多い方が楽しい。特に子供の頃はね」
「はい」
ドーバはふと、あることを思いついた。それは我ながらいい考えで、ドーバは思いついたまま、それを口にした。
「ねぇ、スウィード、アンリ。よかったら僕の家に来ないかい?そろそろ本が溜まりに溜まってきたから少し処分しようと思ってたんだ。子供向けの本もあるから、よかったら貰ってくれないかな?」
「えっと……いいんですか?」
「勿論!子供向けの本はどれも古いからね。状態はよくても古本屋で売ったら本当に子供のお小遣いにもならない。それならアンリにあげた方が余程いいよ。アンリにはまだ早い本が多いけど、一応絵本もあるよ」
「……アンリ。どうする?」
「…………いく」
「ようし!決まりだね!なんなら晩ご飯も僕の家で食べなよ。いつも基本的に僕1人で食べてるからさ。付き合ってくれると嬉しいな。スウィードが明日も休みなら、なんならお泊まりも大歓迎だよ!僕の家は風呂とトイレ以外は全部本棚と本で埋まってるけどね!」
「や、そこまでお世話になるわけには……」
「…………いく」
「アンリ?」
「…………ごはん、たべる」
アンリがドーバの足にぎゅっと抱きついて、ドーバをじっと見上げた。そんなアンリを何故かスウィードが驚いたように見つめている。そんなスウィードにドーバは首を傾げた。
「いいかい?スウィード」
「……え、あ、あぁ。……その、厚かましいが、今夜は世話になってもいいですか?……アンリが、そうしたいみたいなので……」
「もっちろん!大歓迎だよ!」
「あ、家に1度寄っても?使用人夫婦に言わないと……あとアンリの着替えも」
「いいよー。スウィード達の家に寄ってから行こうか。ふふふ……僕の家ね、知り合い達からは『本屋敷』って呼ばれているんだ。本が沢山ありすぎて、きっと2人とも驚くよ!あ、スウィードも気に入った本があったら貰ってよ。本当に何冊でも何十冊でもいいから。いい加減置く場所がないって、執事や使用人達に怒られるんだもん。少しでも減らしたいんだよね」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、行こうか!」
ドーバは足にしがみついているアンリの手を握った。スウィードがアンリの反対側の手を握り、3人並んでスウィード達の家を目指して歩く。
スウィード達の家は、庭はほぼないが、そこそこ大きな2階建てで、猫獣人の老夫婦がいた。2人ともドーバの家にスウィード達が今夜泊まると聞いて、とても驚いていた。それでも急いでアンリの着替えを用意してくれて、スウィードも自分の着替えを鞄に入れて持ってきた。2人分の着替えを持ったスウィードとアンリを連れて、ドーバは今度は自分の家を目指して、3人で並んで歩いた。
アンリにドーバが子供の頃に何度も読んだ物語を語ってやりながら、ドーバはとてもご機嫌だった。誰かを家に招くのは久しぶりである。アンリはとてもとても可愛いし、スウィードも中々好みだ。人のものには手を出さない主義だから、別に何もしないけど。……そういえば、スウィードの伴侶を家では見なかった。スウィード達と会ったのはまだほんの数回だが、いつも2人だけだ。ドーバは内心首を傾げた。もしかして何らかの事情でスウィードの伴侶はいないのだろうか。ドーバはとても気になったが、極めてプライベートでデリケートな話題の可能性が高いので、今聞くのはやめておくことにした。
物語を1つ語り終える頃に、ドーバの家に着いた。ドーバの家に庭はない。2階建てで家自体はそこそこ大きい。そこにドーバ1人で住んでいる。執事や使用人達は通いである。朝早くに来て、夕方に仕事から帰ったドーバの世話をしてから帰っていく。
ドーバは家の玄関のドアノブに手をかけた。
「ようこそ『本屋敷』へ!」
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ドーバは出迎えた執事にスウィードとアンリを紹介し、今夜泊まることまで伝えると、早速スウィードとアンリを家の中を案内して回った。
ドーバの家は、本当に風呂とトイレ以外の部屋には本棚と本でいっぱいである。使うことのない客室もベッド以外は本棚しか置いていない。部屋どころか廊下にまで小さめの本棚を置いて本を並べてある。
スウィードはそんな『本屋敷』にポカンとした。多分圧倒されているのだろう。あまりの本の数の多さに。持ち主であるドーバはなんだか気分がいい。どうだ!すごいだろう!長年かけて集めたんだぞ!と自慢したい。すごくしたい。
「これだけ本があるからね、自分でも何を持っているのか全部は把握していないんだよね。はははっ。あ、でも安心してよ。アンリ用の本はね、全部書斎の本棚にあるから。ここに引っ越した時に書斎の本棚にまとめて並べて、それから1度も動かしていないんだ」
「は、はぁ……その、何冊くらいお持ちなんですか?」
「わからないねー。いちいち数えないもの」
「はぁ……」
「さ、アンリ。書斎に行こうか。素敵な本との出会いが君を待っているよ!」
「…………うん」
ドーバはアンリと手を繋いで、本棚で狭くなっている廊下を歩いて書斎に移動した。スウィードはキョロキョロしながら2人の後をついてくる。
ドーバは書斎のドアを開けた。ここには子供の頃に読んでいた古い本が沢山ある。だからだろう。書斎の中はまるで古い本を所蔵している図書館の書庫や古書店のような匂いがする。実に落ち着き、同時に胸を高鳴らせる匂いだ。ドーバは書斎の匂いが1番好きである。
アンリを連れて、子供用の本を置いてある一角に向かった。ドーバは本当に小さな頃から本を読むのが好きで、末っ子のドーバに甘かった両親はドーバが望むままに本を買い与えてくれた。お陰で子供用の本も沢山ある。ぶっちゃけ大きな本棚1つ分だ。どれも大事にしていたから、状態は悪くない。実家から引っ越す時に大事に持ってきたドーバの思い出であり、宝物だ。しかし、本は読まれることに意味がある。ドーバが子供の頃に夢中で何度も読み返した本も、今となっては読むことがない。このまま残していても、ドーバが死んだ後に適当に処分されるだけである。それだったら、未来ある幼子にドーバの思い出と宝物を貰ってもらいたい。
アンリを絵本をまとめて置いているスペースに連れていった。ドーバが何冊か適当に本棚から取り出して、アンリに見せるとアンリの大きなサファイアのような瞳が輝いた。
「アンリはどんな本が好きなんだい?」
「…………きれいの」
「きれいの?あ、もしかして絵が?」
「…………うん」
「アンリは文字の読み書きはできるのかな?」
アンリは無言で首を横に振った。
ドーバはそんなアンリの頭を優しく撫で、1つ提案することにした。
「じゃあ、とりあえず、この中から好きな絵の絵本を選んでごらん?そうしたら、僕が絵本を読んであげるよ」
「…………うん」
アンリがキラキラした目でドーバを見上げ、ドーバが今持っている絵本をじっと見つめた。
「スウィード。絵本を全部出すのを手伝ってもらえるかな?本棚から出して、表紙を全て見せた方が早いからさ」
「あ、はい」
スウィードと2人で合わせて40冊程の絵本を本棚から取り出した。書斎には並べられるスペースがないので、書斎の隣にあるドーバの寝室に絵本を全て抱えて移動した。ベッドの上に表紙を表にして、絵本を並べていく。ギリギリ全て並べられた。
アンリは絵本を並べる大人2人から離れて、ドーバの寝室のあちこちを、匂いを嗅いで回っていた。一通り部屋中の匂いを嗅ぐと、適当にどけていたドーバの枕を抱き締め、顔を埋めて匂いを嗅いでいる。……加齢臭はまだないと思いたいドーバである。臭そうな表情をしていないので、大丈夫だ。……多分。
「さ!アンリ!好きなのを選んでごらん」
「…………うん」
アンリがドーバの枕を両手で抱き抱えたまま、じっとベッドの上を見ている。手前は兎も角奥の方は見にくいだろうと、ドーバはアンリを抱っこした。
「この方が全部見やすいかな?」
「…………うん」
そのまま30分程かけて、アンリは5冊の絵本を選んだ。どれも古く、少し色が褪せてしまっている。本当に小さな頃に、ドーバが毎日のように読んでいたものだ。ドーバが持つ絵本の中でも特にお気に入りだった絵本をアンリが選んでくれて、すごく嬉しい。
ドーバはご機嫌で残りの絵本を重ねてベッドの端に起き、ベッドに腰かけて膝にアンリを座らせた。スウィードにも声をかけて、ドーバのすぐ隣に座らせる。
ドーバは夕食の時間まで、ずっとアンリに絵本を読み聞かせてやった。
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