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31:告白

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フェリはやる気だった。ジャン将軍との逢瀬も10回をとうに越えている。今日こそ唇にキスをして、伴侶になってほしいと言うと。
城にある自室で、普段は使わない香油まで使って念入りに髪をとかして少しでもキレイになるようにした。顔が平凡なのはどうしようもない。風の宗主国には私服は置いていないので今日も神子の衣装だ。完璧とはとてもじゃないが言えない。それでもできるだけのことはした。
フェリは決戦にでも行くような気持ちで、城から風竜に乗って飛び立った。

モルガの姿を探しながら上空を飛び回っていると、フェリとよく過ごす湖のある森の上空をモルガが飛んでいた。すぐに近づいて、ハンドサインで降りようと誘う。ジャン将軍から了承のハンドサインをもらうと、すぐに湖の畔に降り立った。現在、風の宗主国は冬真っ只中である。フェリの風竜とジャン将軍のモルガは足跡1つない雪の上に降り立った。空を見上げれば暗く重い雪が降りだしそうな雲がある。今日はあんまり長話はできないかもしれない。
フェリは単刀直入に本題を話すと決めた。ムード?そんなもの知るか。

モルガから降りてきたジャン将軍を手招きして、湖の近くにあるフェリのとっておきの場所へと案内した。そこはちょっとした洞窟になっており、フェリがちまちま必要なものを揃えて整えたので、単なる洞窟だがそこそこ居心地がいい空間になっている。狩りが趣味であるマーサの長女・ミーシャから貰った熊や鹿などの獣の毛皮を地面に敷き詰め、洞窟の中央には火を起こせるようにしてある。壁にも毛皮を張りつけてあり、隅にはお湯を沸かしてお茶を淹れるセットといくつかの保存食が置いてある。マーサの隠れ家のようなものが欲しくて、フェリが自分で作った秘密基地だ。洞窟の前にはカモフラージュとして、背の高い草や低めの木を植えている。パッと見では、そこに洞窟があるなんて分からないようにした。子供達も連れてきたことがない、正真正銘のフェリだけの自慢の秘密基地である。
長い草をかき分けて洞窟の入り口を見せると、ジャン将軍が少し驚いた顔をした。フェリはドヤ顔でジャン将軍を手招きして、2人で中に入る。洞窟の中は外ほど寒くないが、それでもそこそこ冷えるのでフェリは洞窟の奥の方に積んである薪を手に取り、火を起こし始めた。が、上手くいかない。ぶっちゃけ火起こしなんてやったことがないのだ。首を傾げながら、薪に着火具で火を着けようとするが、全然つかない。


「フェリ様。私がやります」

「あ、うん。頼むわ」


ジャン将軍が実に手早く火を起こしてくれた。フェリは予め用意していた水瓶の水を鍋に入れて、五徳を火の上に置いてから水の入った鍋を置いた。


「ここさー、俺の秘密基地なんだわ」

「秘密基地、ですか」

「そう。秘密基地。この辺りはあんま人来ないし、静かでいいんだよな」

「この毛皮はフェリ様が?」

「ん?あぁ。全部貰い物。ミーシャって覚えてるか?マーサの長女で薬師やってる」

「はい。狩りが趣味だという話をした覚えがあります」

「そうそう。そのミーシャから貰ったんだ。マーサにも内緒でこっそり。マーサにも秘密基地のことは内緒なんだ」


フェリが悪戯っぽく笑うと、つられてかジャン将軍も楽しそうに笑った。フェリはじりじりと少し離れて座るジャン将軍に近づき、すぐ真横に座った。腕が少しあたる距離である。ジャン将軍が少し驚いたような顔をした。


「俺さー、風の宗主国の人達には内緒にしてるんだけど、土の宗主国に伴侶が1人いるんだよ」

「そう……なのですか……」

「うん。でさ、その上でジャン将軍に頼み、というかお願いみたいなのがあって」

「私に……?」

「俺の伴侶になってくれないかな」

「え……」

「風の神子の務めの時に一緒に旅をしてくれる伴侶を探してて。あぁ、勿論嫌なら素直に断ってくれよ。嫌々一緒に旅されても俺が嫌だし」

「…………」

「俺とジャン将軍の立場じゃ、ちょっと断りにくいかもだけど、断っても全然気にしないし。また別の奴探してみるだけだから」

「……私が断ったら、他の者のところに行くのですか?」

「ん?まぁ、飛竜乗り限定だけど」

「お受けします」

「あー……だよなぁ。やっぱダメかぁって、ん!?受けるの!?」

「はい。フェリ様の伴侶にしてください」

「えーと……さっきも言ったけど、俺サンガレアに伴侶がもう1人いるよ?ついでに子供も孫も曾孫もいるし」

「構いません」

「一緒に旅するようになったら、本当に年中空飛んでなきゃいけないんだけど」

「モルガと一緒なら平気です。むしろ望むところです」

「……俺が相手で、そのー、あのー、セックスとかできる?」

「余裕です」

「マジか」

「はい」

「俺から誘うというか、求婚?しといてなんだけど、仕事はどうするんだ?」

「将軍は辞させていただきます。優秀な部下も大勢おりますし、後を任せられる者もおります。それなりに蓄えもございますから、何とでもなります」

「確かジャン将軍は上級貴族の出だろ?そっちは大丈夫なのか?」

「家は兄が継いでおりますから、何の問題もありません」

「……他の貴族とかにやっかまれて嫌な思いするかもだぞ」

「気にしません。それに元々変わり者扱いされておりますから」

「あー……飛竜好きってやつ?」

「飛竜馬鹿と仰っていただいてよろしいですよ。フェリ様」

「あ、はい」

「その……手に触れてもよろしいですか?」

「ん?いいけど」


ジャン将軍がそっとフェリの手に触れた。壊れ物にでも触れるかのように優しく両手で左手を包まれる。そっと静かに手の甲にキスされた。


「不束ものですが、末永くよろしくお願いいたします」

「あ、うん。ありがとう」

「……お髪に触れても?」

「いいよ」


ジャン将軍が片手はフェリの手を優しく握ったまま、フェリの長い髪に触れ、優しくすいてフェリの髪にキスをした。髪にキスをするのは、風の宗主国の民にとっては最大の愛情表現だ。例えば、遊び人の者でもセックスはしても髪には触れさせない、という者が実際にいるくらい、風の宗主国の民にとっては、髪はとても大事なものだ。基本的に恋人か伴侶、家族にしか触れさせない。フェリは驚いて、目をパチパチさせた。ジャン将軍の顔を見れば、目元が赤く染まっている。つられてフェリも頬が赤くなった。なんだかむず痒くなるような雰囲気になってしまった。
フェリは無性に恥ずかしくなり、いっそそれを振り払おうと、ジャン将軍の首に腕を絡めて引き寄せ、初めて唇に触れるだけのキスをした。
ジャン将軍の唇を何度も優しく吸いながら、身体を擦りつけるようにピッタリとジャン将軍にくっつく。ジャン将軍の手がおずおずとフェリの腰に触れた。ぎこちなくジャン将軍もフェリの唇を吸う。そっと唇を離して至近距離からジャン将軍の顔を見ると、真っ赤になっていた。ジャン将軍は肌が白いので、赤く染まったらなんだか少し色っぽい。あとちょっと可愛い。フェリは何度もジャン将軍の顔にキスをした。


「……あ、の。フェリ様」

「ん?あ、様はいらないぞ。呼び捨てでいい。あと敬語もやだ」

「あ、はい」

「ジャンって呼んでいい?」

「あ、うん。その……フェリ」

「ん?」

「実は……その、俺は経験がなくて……」

「もしかして、キスもしたことない?」

「……あぁ」


意外である。めちゃくちゃモテそうなのに。恥ずかしそうに目を伏せるジャンがなんだか可愛い。フェリは少しムラッとした。マーサにしろクラウディオにしろ、経験豊富って雰囲気で、いつもフェリがリードされている。それはそれでいいのだが、慣れてない相手をフェリがリードするというのもいいかもしれない。年下男を可愛がる年増女の気持ちが今ならなんとなく分かるような気がする。初な男可愛い。
フェリは今すぐジャンの童貞を美味しくいただいちゃうことにした。


「ジャン。舌出して」

「え、あぁ」


ジャンが不思議そうな顔で舌を出した。フェリはすかさずジャンの舌を咥えて、舌を絡ませた。ジャンがビクッと小さく震える。お構い無しにフェリはジャンの口の中に舌を差し込んだ。ジャンの両頬を掌で包んで、口の中を好きに舐め回す。何度も角度を変えながら、驚いて引っ込んだジャンの舌も舐め、上顎を舐めて、歯列を舌でなぞり、小さく音を立てて何度も唇に吸いついた。キスをしながら、ジャンの膝に乗り上げ、真正面から熱くなり始めた自分の身体をジャンに擦りつける。フェリはある程度満足して、そっと唇を離した。ジャンが途端に大きく息を吸いこんで吐き出す。どうやら息をしていなかったみたいである。フェリはクスクス笑いながら、ジャンの鼻にキスをした。


「キスの時は鼻で息をするんだよ、ジャン」

「はぁ……あ、はい」


胡座をかいて座るジャンに真正面から抱きついて膝の上に座っている。脚をジャンの腰に巻きつけてより身体を密着させると、ジャンの股関が固くなっているのが分かる。フェリはなんだか楽しくなって、クスクス笑いながら、再び真っ赤な顔のジャンにキスをした。
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