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81:進展しない関係にやきもきする父

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ジャンは憂いを帯びた表情で溜め息を吐いた。今はロヴィーノ達の夏休みで、家族と一緒に家にいる。トリッシュだけはサンガレアに不在だ。今は火の宗主国近辺を飛んでいる。フェルナンド親子は家族皆で芝居を観に行ったのでいない。家にはロヴィーノとフリオ、アルジャーノ、そしてクラウディオとフェリとジャンだけだ。いつもはフリオの夏休みには休暇を取って家に来ているエドガーは今日だけは仕事である。


「どうした?父様。溜め息なんか吐いて」

「アルジャーノ……もう4年だ……」

「なにが?」

「トリッシュが見合いしてからだよ……」

「ん?もうそんなになるのか?」

「そうだよ、クラウディオ……もう4年も経つんだよ……なんっで!4年も経ってるのにっ!まるっでトリッシュ達の関係は進展していないじゃないかっ!」

「どうどう、ジャン。まぁ、落ち着け」

「落ち着いていられないよ。フェリ!アルフはいい子だよ?いい子なんだけどさぁ!もう少し、もぉぉぉぉ少しでいいから積極的になってくれないかなぁ!?」

「といってもなー」

「トリッシュと2人で出掛けても常に飛竜の話題だけ!もっとこう……トリッシュ自身に興味持ってくれてもよくないか!?トリッシュも最近はあんまり帰ってきてないんだろ?クラウディオ」

「おー。なんか今は飛びたい気分らしいぞ」

「全っっ然!進展する気配なしっ!見合いした時はうまくいくと思ってたのにっ!」

「まぁ、落ち着け。父様。トリッシュがお嫁さんにいっちゃったら俺は泣くぞ」

「……真顔で言い切るなよ、フリオ。いや俺も結婚式じゃ泣いちゃう自信あるけど」

「案外、娘が増えたりしてな」

「ん?どういうことだ?ロヴィーノ」

「フリンちゃん。めちゃくちゃ仲良しじゃないか」

「女同士じゃん」

「男同士で結婚する者もいるんだ。女同士で結婚しても別に構わないだろ?まぁ、今の技術じゃ女同士で子供をつくるのは難しいが」

「……まぁ、フリンちゃんならいいか」

「いいのかよ。父様」

「いやだって。フリンちゃん可愛いし」

「そうだけどさー」

「もうこの際、恋人になるなり結婚するなりしてくれたら男でも女でもいい……」

「極論だなー」


同じソファーですぐ隣に座るフェリが、ジャンの頭を宥めるように撫でた。優しいフェリの手に少し落ち着く。


「あ、結婚といえば」

「ん?どうした?フリオ」

「数年以内に兄上が退位する予定だろう?兄上の退位と同時に俺も魔術師長辞めてこっちに住む予定だ。その、なんだ。エドガーと結婚して」

「お。いいなぁ。やっとか、フリオ」

「はい。母上。リカルドから誘われているので、俺は魔術研究所で働く予定です。エドガーとは魔術研究所の近くに家を建てようかと話しています」

「ん。家はマーサ様に声をかけて俺達で建てるな!任せておけ。希望通りの住みやすい家を建てるから」

「頼んだ。父上」

「あぁ。大体の場所は決めているのか?土地だけでも先に買っといた方がよくないか?あ、フリオの飛竜はどうするんだ?ロヴィーノはこの家に住むんだろう?ロヴィーノの飛竜用の竜舎は建てる予定だから、もう土地は買ってあるんだ」

「気が早くないか?父上」

「こういうのは思いついた時にやる方がいいんだよ」

「飛竜か……それは考えてなかったな。魔術師街の家に飛竜を住ませるのも何だし、ここに俺の飛竜の竜舎を建ててもらってもいいか?」

「勿論。追加で土地を買っておくな」

「頼んだ。家の土地か……どこがいいだろう?」

「明日はエドガーが休みだろう?マーサに声をかけて一緒に見に行ってみればいいんじゃないか?俺もついていこう」

「いいんですか?兄上」

「あぁ。土地の下見が終わったら、アーベルの所にも顔を出したいしな。ついでにマーサとちゃっかり散歩デートでもしたいし」

「そういうことならお願いします」

「今夜にでもマーサに話しておくよ」

「はい」


王太子であるフェルナンドの子供達もすっかり立派に大きくなったので、そろそろいいだろうとロヴィーノは現在退位の準備を始めている。どんなに遅くとも、5年以内にはロヴィーノは退位して、フェルナンドが即位する予定である。ロヴィーノが窮屈な、あまりいい思い出もない城から離れて、サンガレアの家でマーサ様の近くに住めるのはジャンとしても素直に嬉しい。フリオも一緒にサンガレアに住み着くので、子供達と顔を会わせられる機会がぐっと増える。フリオの結婚も喜ばしい。エドガーはとてもいい子だ。フリオのことを大事にしてくれている。恋人期間が長いので、もう熟年夫婦のような雰囲気の2人である。結婚をして一緒に暮らし始めても、きっとうまくいくだろう。
だから、問題はトリッシュ1人なのだ。


「恋愛達人のクラウディオ」

「そんな愉快なものになった覚えはないんだが……」

「何かこう……知恵を授けてくれ。愛とエロスの伝道師はこういう時は、まるでなんの役にも立たないことは過去で既に実証済みだ」

「まぁ、マーサはド直球だしな。常に」

「ロヴィ兄上さ、よくあんなとんでもないのの嫁を続けてられるよね」

「まぁ、マーサは可愛いし。面白いから退屈しない」

「可愛いかどうかは疑問だけど、退屈しないという点にだけは同意するよ」

「マーサは超絶可愛いんだぞ?アルジャーノ」

「あー、うん。ロヴィ兄上にとってはね」

「なんか兄上が昔の父上みたいなことを言ってる……」

「ん?いやだって。フェリが可愛いのは単なる事実だろ。なぁ、ジャン」

「そうだな」

「……2人とも真顔で頷くなよ。恥ずかしい」


照れて頬を赤く染めるフェリが素晴らしく可愛い。しかし話が微妙にずれている。今日の目的は、誰かトリッシュとアルフの仲を進展させるような妙案を思いつかないか、だ。


「で。話を戻すが。本当に何かないか?恋愛達人クラウディオ」

「えー?そうだなぁ……。トリッシュが帰ってる時は毎回うちに遊びに来てるし、2人でベイヤードに乗って出掛けたりもしてるしなー。端から見れば、まぁ順調っぽいんだが」

「でも、こう……なんというか、互いに恋してるような雰囲気はまるでないんだろ?」

「ないな」

「即答しないでくれ。恋愛達人クラウディオ」

「んー。もういっそアルフは諦めてフリンちゃんと結婚したらいいんじゃないか?」

「なんてこと言うんだ。恋愛達人クラウディオ」

「や。ほら。所謂友達夫婦ってやつ?」

「それなら別にアルフ相手でもいいだろう?まぁ、フリンちゃんでもいいけど。でもできたら孫を抱っこしたいんだよ、俺」

「まぁ、それは俺もだけどさ。そうだなぁ……いっそアルフかトリッシュのどっちかが相手を押し倒したりしてくれたら話が早いんだが」

「なんてこと言うんだ。恋愛達人クラウディオ」

「まぁ、極論だがな。子供ができたら流石に結婚するだろ」

「順番が逆じゃないか」

「まぁ、細かいことは気にするな」

「気になるわ。全然細かいことじゃないぞ」

「えー……んー……んー……」

「何かないか。何か」

「はーい」

「ん?どうした?アルジャーノ」

「トリッシュとアルフってさ、ここの家で会うか、飛竜で遠乗りしてるんだろ?いつも」

「あぁ」

「ならいっそ街デートでもしてみればいいんじゃないか?飛竜から少し離れてさ」

「「それだ」」

「飛竜が近くにいなかったら、流石に多少なりとも飛竜以外の話をするだろ」

「……芝居のチケットを用意するかな?」

「それだよ、クラウディオ。それでいこう。街で芝居デートさせよう」

「んー。じゃあ、次にトリッシュが帰って来た時に芝居のチケット買って用意するわ」

「頼んだよ!クラウディオ!」

「おー」


トリッシュ達の関係の進展への希望が少し見えてきた。ジャンはウキウキと自分の紅茶に大量の木苺のジャムを入れて、カップに口をつけた。甘い木苺の香りのする紅茶を飲みながら、ふふふっと笑う。トリッシュがサンガレアの男と結婚をしてくれたら、ジャンとしては安心できる。それがアルフなら尚更だ。アルフは飛竜乗りにとても理解があり、飛竜をとても愛している。まさに飛竜乗りの伴侶としては理想的である。留守にしがちな飛竜乗りの伴侶が、留守中に浮気して結果離婚なんて実はよく聞く話なのだ。アルフならばその心配は少ない気がする。なんとなくの勘だが。
早くトリッシュがサンガレアに帰ってくるといい。おそらくジャンはフェリと一緒に飛んでいるので不在だろうが、頼りになる恋愛達人クラウディオがいる。きっとうまく芝居デートに2人を誘導してくれる筈だ。
ジャンは少し憂いが晴れた顔で、茶菓子のクラウディオ手作りのクッキーを頬張った。
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