狐と熊の巣作り

丸井まー(旧:まー)

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狐と熊の巣作り

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 険しい山の中。クォンは、道なき道を歩いていた。木々や草が生い茂る山は傾斜が急で、旅慣れていて体力や足腰には自信があるクォンでもキツい。背負っている己の商売道具を放り捨ててやりたい程、しんどくて堪らない。

 クォンは行商人をしている。主に薬とちょっとした装飾品を扱っており、十五の頃から、ずっと終わりのない旅をしている。旅が終わる時は、クォンが死ぬ時だ。そう決めて、クォンは故郷の貧しい村を飛び出した。クォンは世界が見たかった。貧しい田舎の村で一生を過ごすなんて心底嫌だった。村を訪れた年老いた旅の行商人に、無理を言って同行させてもらい、旅の仕方や商いの仕方を習った。三年、老爺と旅をして、老爺を見送ると、一人で旅をして、商いをするようになった。行商人として旅をするようになって、もう十五年になる。

 クォンは褪せた金髪を肩まで伸ばし、いつもちょこんと一つに結っている。つり気味の糸目で、特に笑うと目が線のようになるから、幼い頃から『狐のようだ』とよく言われていた。クォンは老爺から、愛想よく笑うことと、軽やかな楽しい話し方をすることも習った。愛想よくニコニコ笑って、明るい楽し気な話し方をすると、商いが上手くいきやすい。クォンは老爺の教え通り、いつも目を線のようにしながら、ニコニコ笑っている。

 山の麓の村に、評判がいい薬師がいて、薬を多めに仕入れたばかりだ。次の大きな街に行くには、険しい山を越えなければならない。クォンは、重くなった背負い紐を着けた木箱を背負い、ひぃひぃと荒い息を吐きながら、必死で山を登っている。
 木々の葉が揺れる音に紛れて、水の音が聞こえてきた。水辺が近いようだ。まだ山の頂には程遠い。空を見れば、まだ昼を過ぎた頃合いだが、今日はもう水辺で休んだ方がいいだろう。

 クォンは水の音を頼りに、草を掻き分けて歩き、小さな川に辿り着いた。少し開けた小川の周りを見回しても、獣の気配はない。クォンは荒い息を吐きながら、のろのろと小川に近寄り、重い木箱を下ろして、小川の縁に膝をついた。小川の水に手を浸せば、冷たくて心地いい。クォンは小川の水を手で掬って飲み、ほぅと小さく息を吐いた。
 近くに大きな木があるから、仮に雨が降っても凌げるだろう。夜露に濡れることにはなるが、今は真夏だから、特に問題はない。

 クォンは商売道具が詰まった木箱を置いたまま、薪を拾いに行った。幸いにも、枯れ枝がいくつもあった。ちょっと煮炊きするには十分な量を拾うことができた。クォンは小川の側で火を起こし、携帯用の小さな鍋でお湯を沸かし始めた。沸騰したお湯に、干し肉と蒸かしてから乾燥させた芋を入れる。塩を少しだけ入れたら、昼飯兼晩飯の出来上がりだ。粗末なものだが、山を越えるのに何日かかるのか分からない。食料は少しでも節約しておくべきだ。

 クォンが、美味くもないが温かい飯で腹を満たしていると、ガサガサと遠くから何かがやって来る音が聞こえてした。人か、獣か。音が大きいから、小さな獣ではない。こんな険しい山には、まともな人間は住まない。麓の村の猟師ならばいいが、山賊の可能性もある。あるいは、熊などの大型の獣か。山賊や熊だったら、かなりマズい。クォンは護身用の短刀しか持っていない。山賊にせよ、大型の獣にせよ、襲われたら詰む。
 クォンは背中に嫌な汗をかきながら、此方に近づいてくる音がする方向をじっと見つめた。

 草薮からのそりと大きなものが現れた。クォンは思わず叫んだ。


「熊ぁ!?」

「誰が熊だ」

「冗談でさぁ」

「面白くない」


 草薮から現れたのは、薄汚れた粗末な格好をした大柄な男だった。黒い髪も髭も伸び放題で、背が高く、筋肉質な身体をしているのが服を着ていても分かる。男は手には弓を持っていた。腰には山刀を下げている。背に籠を背負っているようだから、どうやら猟師のようだ。
 クォンはニコニコ笑いながら、男に話しかけた。


「どうも失礼しやした。あたしは行商人のクォンでさぁ。旦那は猟師ですかい?」

「おぅ。お前、此処で夜を明かすつもりか」

「へぇ。そのつもりでさぁ」

「やめておけ。此処は熊の縄張りだ。今はいないだけで、そのうち水を飲みに来るだろう」

「げっ!?」

「俺の家に来るといい。家と言っても、単なる荒屋だがな。一晩だけ泊めてやろう」

「そいつぁ、ありがてぇ! ご厄介になりやす」


 クォンは火の始末をしてから、男の後ろをついて歩き始めた。男はタオと名乗った。熊みたいな見た目なのに、存外可愛らしい名前である。タオは女の子につけられることが多い名前だ。

 タオの後ろをひぃひぃと荒い息を吐きながら一刻ばかり山中を歩き、漸くタオの家に着いた。猟師小屋にしても粗末な家だ。荒屋と言った方が正しい気がする。家の側には小さな畑があった。本当に小さな家だが、タオは此処に住んでいるのだろう。

 クォンは家の入り口にかけてある筵を捲り、タオの家の中に入った。家の中は、剥き出しの地面に寝床と思われる所だけ筵が敷いてあった。獣の毛皮が壁にぶら下がっている。いくつかの木箱と布団らしきもの以外には、何もない。木の壁板には隙間があり、これは冬は難儀だろうとクォンは思った。

 タオが縁が欠けた水瓶から、古ぼけた茶碗に水を汲んでクォンに差し出してくれた。酷く喉が渇いていたので、有り難い。クォンは一息で水を飲み干すと、剥き出しの地面に腰を下ろしたタオに、ニコニコ笑いながら、声をかけた。


「旦那。あたしは薬を主に扱っておりやして。折角だ。入り用のものはないですかい? 一晩泊めてもらう代わりに、一つはただで差し上げますぜ」

「……では、痛み止めはあるか? 少しで構わん。金なんぞないから、それだけでいい」

「へぇへぇ。ございますよ。麓の村で仕入れたばかりの、評判がいいものがありまさぁ。ささっ。どうぞ」

「ありがたく貰う」

「旦那は歳はいくつで? あたしは今年で三十でね。生きている半分は旅をしてるんでさぁ」

「三十と二つだ。……もうすぐ雨が降る。早めに晩飯を食うぞ。昨日、獲ったばかりの兎があるから汁物にする」

「おや。有り難くご馳走になりやす。いやぁ、山は天気が変わりやすくていけねぇや。あたしも準備を手伝いまさぁ」

「ん」


 クォンは、畑から葉物の野菜を採ってきたタオを手伝って、早めの晩飯を作った。兎の肉は久方ぶりに食べる。タオが煮込む時に入れていた初めて見る草が、とてもよい仕事をしていて、肉の臭みもなく、素直に美味かった。クォンはべた褒めしながら、ペラペラと一人でお喋りをし、早めの晩飯を食べきった。

 昼飯を食べて間がないのに、晩飯をがっつり食べたせいで、腹が重い。眠気が襲ってくるが、寝るには少し早い。
 クォンは眠気覚ましに、タオに話しかけた。


「旦那。旦那はずっと此処に住んでらっしゃるんで?」

「おぅ」

「麓に村があるでしょう。村に住んだ方がなにかと楽なんじゃないですかい?」

「……ガキの頃は村に住んでいた。十五の頃から、此処に住み始めた」

「へぇ。そうなんですかい」

「……雨だ」

「あ、ほんとだ。降り始めやしたね」


 ざぁーっと雨音がし始めた。存外雨音が大きいので、結構降っているようである。タオが鍋や茶碗を何ヶ所かに置いた。きっと雨漏りをするからだろう。然程時間も経たずに、ぴちょんっと鍋に水が落ちる音がし始めた。この家で暮らすのは、本当に難儀だろうに、何故、タオは此処で暮らしているのだろうか。クォンは少々気になったので、踏み込み過ぎかとも思ったが、思い切って単刀直入に聞いてみた。


「旦那。旦那は何で此処で暮らし始めたんで?」

「……村にいられなくなったからだ」

「理由を聞いても?」

「……見れば分かる」


 タオが立ち上がり、唐突に下衣を脱ぎ始めた。クォンがきょとんとしている前で、タオが下半身だけ露出した状態になった。反射的にタオの股間を見れば、あるべきものが無かった。もじゃもじゃの黒い陰毛の下には、魔羅も陰嚢も無かった。クォンは、間抜けにぽかんと口を開けて、タオの股間を凝視した。


「俺は女として育てられた。俺も女だと思っていた。だが、大きくなるにつれ、ここ以外は男のようになっていった。村の者からは気持ち悪がられ、石を投げられるようになった。親兄弟も俺を疎むようになった。だから此処で暮らし始めた」

「その……何もないんで?」

「女のそれはある」

「……見せてもらっても?」

「構わん。……お前は旅をしているのだろう。俺のような者に会ったことはあるか」

「いやぁ、ないでさぁ。初めて聞きやす」

「そうか……」


 タオが心なしか気落ちした様な顔をした。
 タオが筵の上に腰を下ろし、膝を立てて両足を大きく広げた。タオに近寄って間近でタオの股間を見れば、肉の筋があった。タオに一声かけて、両手の親指で周りに毛が生えた分厚い肉襞をくぱぁと開けば、確かに女陰だった。陰核もあるし、孔もある。
 クォンはなんとなく、ごくっと生唾を飲み込んだ。タオは見た目は粗野な風貌の厳つい男にしか見えないが、ここはまるで初な生娘のようだ。淡い桃色をした細かい襞に囲まれた孔は、微かに口を開け、ひくっとひくついている。

 娼婦を抱いたのは、もう二ヶ月も前の事だ。クォンは、じっとタオの股間を見つめながら、タオの股間に顔を寄せ、すんっと匂いを嗅いだ。蒸れた汗の匂いや微かな小便と共に、発情した女の匂いがする。よくよく見れば、孔からとろりと愛液が溢れていた。
 クォンは何故か酷く興奮して、下腹部に熱が溜まるのを感じた。じっと濡れ始めた女陰を見つめながら、クォンはタオに話しかけた。


「ご経験は?」

「ある筈がない」

「ご自分では?」

「……たまに、弄る」

「舐めてみても?」

「……構わん」


 タオのお許しが出たので、クォンはタオの股間に顔を埋めた。べろーっと熱い孔から陰核まで舐め上げれば、もったりとした女の味がした。何度も舌を往復させ、女陰全体を舐め回すと、タオが唸るような低い声を上げながら、内腿を震わせた。

 半分皮に包まれている陰核の皮を指で優しく剥き、ぴょこんと勃っている淡い桃色の陰核だけをぴこぴこと舌で弾くように舐め回す。


「お゛っ、あ゛っ、あ゛っ、いいっ!」


 チロチロと陰核を舐めまくりながらタオの顔を見上げれば、タオの髭もじゃの厳つい顔がとろんと蕩けていた。どこからどう見ても、粗野なおっさんにしか見えない風貌なのに、タオの蕩けた表情が妙に興奮を煽ってくる。

 クォンは、じっとタオの顔を見つめながら、陰核を舐めたり吸ったりしつつ、ぬるぬるに濡れている孔にゆっくりと中指を挿れた。タオの中は熱くぬるついていて、柔らかい膣肉がキツく指に絡みついてくる。本当に処女なのだろう。娼婦にはない硬さが僅かにある。

 クォンは陰核を舐めながら、探るように膣内に挿れた指を動かし始めた。微かにざらついているところを指の腹で擦ると、タオが裏返った声を上げ、腰をくねらせた。どうやら、膣内のいいところを見つけたようである。

 クォンは集中的にそこを擦りながら、ちゅーっと強めに陰核を吸った。次の瞬間、びしゃびしゃと熱い液体が顎のあたりにかかった。小便の匂いはしないから、恐らく潮を吹いたのだろう。一度だけ、潮を吹く娼婦を抱いたことがある。

 心なしかぷっくりと大きくなった陰核から口を離し、陰核と孔の真ん中くらいにある潮を吹き出している小さな孔のあたりに吸いつく。ぴゅっ、ぴゅっ、と吹き出す潮を吸い取れば、タオがガクガクと身体を大きく震わせた。膣内に挿れている指に、熱い膣肉がキツく絡みついて締めつけてくる。

 クォンはゆっくりと中指を引き抜き、今度は二本の指をゆっくりと濡れそぼっている女陰の孔に挿れ、孔を拡げるように、ぐるりと指を回した。
 タオが再び潮を吹いて気をやるまで、クォンは熱心に舌と指を動かした。硬く張り詰めている魔羅が、若干痛い程興奮している。

 ずるりと女陰の孔から指を引き抜くと、クォンは手早く下衣を脱ぎ捨てた。ガチガチに勃起して先走りが滲んでいる魔羅の先っぽを、熱く蕩けた女陰の孔に押しつける。クォンは、だらしなく仰向けになり膝を立てて足を大きく広げているタオの蕩けた顔をじっと見つめながら、ゆっくりと腰を動かし、タオの女陰の孔に魔羅を押し込んでいった。熱くぬるついた柔らかい膣肉が、魔羅にキツくまとわりついて締めつけてくる。娼婦のゆるい孔とは全然違うキツい締めつけに、クォンは思わず熱い溜め息を吐いた。

 魔羅の先っぽが、微かに何かに触れた。多分、処女膜だろう。じわじわ挿れるより、いっそのこと一気に挿れてしまった方がいいのではないだろうか。クォンはそう思って、タオの太い腰を両手で掴み、一気に腰を突き出した。


「あ゛ぁ!? いでぇ!?」

「はっ、あーー、これは、すごい……」

「あ゛っ、あ゛っ、うごくなっ! いでぇ、いでぇ」

「すいやせん。もうちっと堪えてくだせぇ。ほれ。ここを弄ると気持ちいいでしょう?」

「あ゛ぁ!? ひぃっ! あ゛っ、あ゛っ、ん゛ーーっ!!」


 一気に魔羅を押し込めば、今度は肉の壁にぶつかった。『いてぇ、いてぇ』と泣くタオが少し気の毒で、クォンはゆっくり膣肉の感触を味わうように腰を振りながら、陰核を親指の腹で擦り始めた。膣肉が蠢き、更にクォンの魔羅に絡みついて締めつけてくる。

 腹の奥の肉の壁を突く度に痛そうに顔を歪めていたタオが、そのうち、とろんとした蕩けた顔になっていった。どうやら腹の奥もよくなってきたようだ。クォンはタオの腹の奥の肉の壁を魔羅の先っぽでぐりぐりしながら、タオの粗末な服を捲り上げ、胸毛がもっさり生えている逞しい胸筋に顔を埋めた。毛に埋もれている小さな乳首を唇と舌で探し出し、タオの乳首をちゅくちゅくと緩急をつけて吸う。タオが仰け反るように身体をくねらせ、吠えるような声を上げた。


「あ゛ぁーーーー!! いいっ! いいっ! またっ! くるっ!!」

「んー」

「ひぃぃぃぃっ! くるくるくるくるぅ!! あ゛、あ゛、あ゛ーーーーっ!」

「ぷはっ。あたしもっ、そろそろっ、限界!」

「あ゛ぁぁぁぁぁっ!!」


 クォンはタオの胸元に伏せていた身体を起こし、右手で陰核を、左手で乳首を弄りながら、めちゃくちゃに腰を振って、タオの腹の奥の肉の壁を突きまくった。下腹部に熱いタオの潮がかかっている。
 処女なのに、潮を吹いて気をやるとは、なんともいやらしい身体だ。クォンは思いっきり肉の壁を突き上げ、そのまま精液をぶち撒けた。

 はぁー、はぁー、と荒い二人分の吐息が、雨音に混じって響いている。クォンはゆっくりと魔羅をタオの女陰の孔から引き抜いた。タオの女陰の分厚い肉襞を両手の親指でくぱぁと広げれば、ぽっかり口を開けた孔から、こぽぉっと赤い血が混ざった白い精液が溢れ出てきた。酷く興奮する光景に、クォンの魔羅がまた勃起し始める。

 クォンはぐったりしているタオに声をかけた。


「気持ちよかったですかい?」

「……おぅ」

「もう一発しても?」

「……構わん」


 タオが日焼けした目元を赤く染め、ぶっきらぼうに許可をくれた。クォンはタオにお願いして四つん這いになってもらうと、ゆるく勃起した魔羅を軽く手で擦って完全に勃たせ、むっきりとしたタオの尻肉を両手で掴んだ。筋肉質なデカい尻を揉みしだき、両手で尻肉を広げる。周りに短い縮れた毛が生えた赤黒い肛門とひくつくいらやしい女陰の孔が丸見えになる。

 クォンは、魔羅の先っぽを蕩けたタオの女陰の孔に押しつけ、ゆっくりと魔羅を膣内に押し込んでいった。思わず溜め息が出る程気持ちがいい。
 クォンは力尽きて眠くなるまで、何度も何度もタオの腹の中に精液を吐き出した。





 ーーーーーー
 タオは少しだけ膨らんできた腹を撫でながら、小さく溜め息を吐いた。
 数ヶ月前に、まるで賢しい狐のような愛想のいい旅の行商人を泊め、その男に抱かれた。その男・クォンにタオの秘密を教えて、大人しく抱かれたのは、単純に興味があったからだ。タオは女として育てられたが、男女のまぐわいくらいは知っていた。正直、興味もあった。自分には一生縁がないものだろうと思っていたし、旅の行商人ならば後腐れも無かろうと、気紛れを起こした。その結果、孕んでしまった。

 クォンは朝になると、身支度を整えて、痛み止めの薬と、おまけだと言って傷薬の軟膏をタオに手渡して去っていった。誰かとまともに話すのは、山を越えた大きな街に毛皮等を売りに行く時だけだし、まぐわいをするのは初めてだった。あっさりと笑顔で去っていったクォンに、少しだけ寂しいような気もしたが、タオのような気持ちが悪い者を好いてくれる者などいないので、あまり気にしなかった。まさか、たったの一夜で孕むとは思っていなかった。

 タオには出産の知識が無い。どうやって子を取り上げたらいいのかも分からないが、折角できた生命だ。なんとしてでも産んでやりたい。最近は特に、タオは具合が悪くなり、狩りに出られない日が増えてきた。食い物が乏しい。タオはこの数ヶ月、ずっと不安を抱いて過ごしている。

 今日も朝から具合が悪い。筵の上に敷いた粗末な布団に横になっていると、唐突に家の入り口の筵が捲られ、愛想のいい狐のような顔をした男が家の中に入ってきた。クォンである。タオは驚いて、がばっと起き上がった。
 無精髭を生やしたクォンがつかつかとタオの元に近寄ってきて、仁王立ちのまま、口を開いた。


「寝覚めが! 悪い! もうね、うっかり中に出しちまったもんだから、孕んでやしないかと、ずぅーーっと気になって仕方がないんでさぁ! ヤリっぱなしは男としてどうかと思うんでさぁ!」

「……おぅ」

「寝ていたところを見ると、具合が悪いんで?」

「……その……孕んでいる」

「やっぱりか! あーもう! 産婆に色々聞いてきて正解でやした。とりあえず旦那は寝といてくだせぇ。あたしが色々やりやすんで。畑も荒れてたし、なんとかしやす。駄目って言っても、居座ってやりやすからね! 子育てもしまさぁ!」

「お前は旅の行商人だろう」

「此処を拠点に、麓の村で薬を仕入れて、山越えた街で売るようにしやす。子が生まれたら必要になるものも多いんでさぁ。子に不自由な思いは、できるだけさせたくねぇ。旦那!」

「お、おう?」

「あたしと夫婦になりやすよ!」

「……は? ……お前、俺はこんなんだぞ。気持ち悪くないのか」

「別に。男として、責任はとりやす。なぁに。一緒に暮らして、一緒に苦労してりゃあ、そのうち情も湧きまさぁ」

「それでいいのか」

「いいんでさぁ」


 にっとクォンが目を線のようにして笑った。
 タオは上手く言葉にできない思いが胸の奥から溢れ出てきて、ぼたぼたと大粒の涙を零した。クォンがタオの側に来て、膝をついて、涙が零れるタオの目元を親指の腹で優しく拭った。


「決心つくまで時間がかかって、すいやせん。色々不安もあったでしょう。あたしがなんとかできることは、なんとかしてやりやす。子だって、あたしが取り上げてやりやすよ」

「……おぅ」


 タオには幼い頃、夢があった。優しい男の元に嫁いで、子宝に恵まれて、沢山の子供と優しい夫と共に、笑顔で毎日暮らすことだ。とうの昔に諦めた夢だった。信じられないことに、その夢が叶いそうな気がしてきた。
 タオが泣き止むまで、クォンはずっとタオに寄り添ってくれていた。

 十月十日が経ち、なんとか無事に子が生まれた。クォンが雌雄の山羊を二頭、街で買って連れてきてくれていたので、乳の心配はない。タオも一応乳が出るが、どうやら少ないようで、ミンと名付けた息子は、山羊乳もよく飲んでいる。

 クォンはタオの産後一年は家にいたが、貯えが乏しくなってきたこともあって、行商人の仕事を再開した。タオも、身体がすっかり元に戻ると、幼いミンを背負って、クォンに教えてもらった売れる薬草を採ったり、罠を使った狩りを始めた。

 ミンがよちよち歩きを始めた頃。行商に出ていたクォンが帰ってきた。クォンは目を線のように細めて楽しそうに笑いながら、ミンを抱き上げ、ミンのぷくぷくの頬に唇をつけた。


「ただいま帰りやした。ミンは随分と大きくなりやしたね。旦那」

「おかえり」

「旦那、旦那」

「なんだ」


 クォンがミンを抱っこしたまま、つつっとタオに近寄ってきて、少し背伸びをして、タオの唇を優しく吸った。口吸いをするようになったのは、比較的最近のことだ。久方ぶりなこともあって、どうにも照れ臭い。
 タオは顔が熱くなるのを感じながら、クォンのほっそりとした腰に腕を回し、クォンの唇に自分の唇をそっと押しつけた。




(おしまい)

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