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18:家族とご対面
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仕事始めから2週間後の休日。
セオドールは手土産のマドレーヌが入った紙袋を片手に領館方面にある街の入り口を目指して歩いていた。
突然やって来たウーゴと年末年始の休み後半を過ごし、帰ったその夜に早速携帯通信具にウーゴから連絡が来たのだ。『親が掃除のお礼言いたいし、折角だから一緒にご飯食べたいって言ってるんだけど』と。まさかの親御さんとのご対面である。ウーゴの童貞を食っちゃった上に、ずるずると何度もセックスをして、でも恋人という訳でもないのに、一体どんな顔をして会えばいいのか。ウーゴはセオドールのことを親に何と伝えたのだろうか。知り合い?友達?多分恋人ではないと思う。
ウーゴと過ごした休みの間は確かに楽しかった。幸せそうな顔でセオドールが作った料理を食べる姿も、まるで小さな子供や犬みたいに家事をするセオドールの後ろをついて回ってお手伝いしていた姿も、セオドールが頭を撫でる度に嬉しそうに顔を緩ませていた姿も、本当に可愛かった。ウーゴはセオドールより背が高くて男前な美形なのに、ウーゴは本当に可愛いと思う。
セオドールは自分の家に誰かがいて、一緒に過ごすという感覚が久しぶりすぎて、正直かなり浮かれてしまった。
まずいなぁ、とじんわり思っている。我ながら単純な気がするが、ウーゴのことを好きになってしまいそうだ。ウーゴのような美形で優しくて可愛い男とセオドールのようなド普通な男が釣り合う訳がない。ウーゴに懐かれているとは思うが、セオドールと同じ方向性の『好き』かは分からない。ただ単にウーゴがセックスにハマっているだけという可能性だって、ないではないのだ。悲しいかな、フラれるのには慣れている。しかし、慣れてはいてもツラいものはツラい。
これ以上深入りすべきではないと分かっているのに、ウーゴからの誘いにほいほい乗ってしまった自分は馬鹿だと思う。でもウーゴに会いたいと思ってしまった。……なんだかもう、手遅れな気がする。
セオドールは小さく溜め息を吐いて、ウーゴに会えるとウキウキしてしまう自分の胸を押さえた。
中央の街の入り口に着くと、もうウーゴが来ていた。ウーゴの側には茶毛の馬がいる。鼻筋だけ白いので、多分シルヴィだろう。ウーゴがセオドールの姿を見つけると、パァッと顔を輝かせた。うっ。可愛い。
「セオッ!おはよー」
「おはよ。待たせちゃった?」
「ううん。俺もほんのちょっと前に来たとこ」
「そ。この子がシルヴィ?」
「そうだよ。シルヴィ。セオだよ」
そう言ってウーゴがシルヴィの首筋を撫でた。初めて間近で見る馬はとても大きくて、でも目が優しくてなんだか可愛い。
「シルヴィ。よろしくね」
セオドールがシルヴィに声をかけると、シルヴィは穏やかな目でセオドールを見た。
ウーゴにシルヴィに乗せてもらって、ウーゴの家へと向かう。セオドールはウーゴに抱き抱えられているかのようにしてシルヴィに乗っていた。背中にウーゴの温もりを感じる。鞍のところを握っているセオドールの身体を両腕で囲むようにしてウーゴが手綱を握っている。近い。正直『好きになりそう』と自覚している状態でこの距離感は若干ツラいものがある。なんというか、どうしてもドキドキしてしまう。散々セックスをした間柄なのに今更なのだが。
「……実はセオに謝らなきゃいけないことがありまして……」
「ん?なに?」
「……折角掃除してもらったんだけど、もう既に荒れ始めちゃってる……特に台所」
「おや」
「キープしようとしてるんだけど、何故か散らかり続ける一方でねー」
「はははっ。いいよいいよ。なんなら、また掃除するから」
「……うぅ。ごめんねぇ」
「馬にも乗せてもらってるしね」
少し項垂れているような気がするウーゴの頭を後ろ手に撫でると、すりっとウーゴに後ろから頬擦りされた。
「お昼ご飯はちょっと歩いた所に割と美味しいお店があるからさ。そこで食べようって」
「うん。楽しみにしてる」
「最近どう?仕事忙しい?」
「例年通りかな。ウーゴは?」
「んー……新しい研究開発が始まったけど、まだそんなに忙しくはないかな。始めたばっかだし、毎日どんな魔術陣を使うかとか、どんな設計にするかとか話し合いばっかり」
「そ。楽しい?」
「うん。新しいものを作るって大変だけど凄い楽しいよ。なんかワクワクする」
「ふふっ。そうなんだ」
ウーゴが楽しそうに話しながら、手綱を持っていた片手を離して、セオドールの腹に片腕を回した。きゅっと緩めに抱き締められて、思わずドキッとする。
ドキドキしているのがウーゴにバレないといいけど……。そう思いながら、ウーゴの家までの道をシルヴィに揺られて進んだ。
ーーーーーー
ウーゴの家に着くと、馬小屋にシルヴィを連れていき、シルヴィにお礼を言って少し撫でさせてもらった後、玄関へと向かった。ウーゴの家は大きな2階建ての家で、庭もそこそこ広い。庭にはいくつか木が生えていて、ウーゴによると全て果樹らしい。ちょっとした家庭菜園もあり、料理に使う香草を植えているのだとか。家庭菜園の世話は基本的に軍人の方の父エドガーがしているのだそうだ。
緊張しながら玄関を通り、居間へと行くと、セオドールは驚いて思わず目を見開いた。
妖精がいる。それも2人も。中々にきったない部屋に妖精みたいに人外じみた超美形の男女がいた。
「お。いらっしゃい」
「いらっしゃーい」
「ただいまー」
男女の妖精がソファーから立ち上がり、固まっているセオドールに近寄ってきた。2人ともウーゴと同じ色合いの金髪に、まるで絵本に出てくる妖精のように並外れて整った顔立ちをしている。自分と同じ生き物とは思えないレベルで美しい。
「はじめまして。ウーゴの父親のフリオ・スルトだ」
「はじめまして。妹のアイーダよ」
「はっ、はじめまして!セオドール・グランディアと申します……」
「ウーゴが何日も世話になった上に掃除までしてくれたのだろう。正直かなり助かった。ありがとう」
「い、いえ……」
「父上。とりあえずお茶飲みましょうよ」
「ん?そうだな。セオドール君は紅茶は大丈夫か?」
「あ、はい。好きです」
「そうか。ならよかった。俺は紅茶しか淹れられないんだ」
「は、はぁ……」
座っててくれ、と言われて、ウーゴと共に大きなソファーに移動して並んで座る。居間には皺くちゃの洗濯物は流石になかったが、あちこちによく分からない部品や紙屑などが転がっており、掃除して2週間程なのに、若干埃っぽい。居間の片隅には初めて見る魔導製品があって、道具と思わしきものがごちゃっと散乱していた。
「ねぇねぇ。セオドールさんはどこで働いているの?」
向かいのソファーに座ったアイーダが興味津々と言った表情で身を乗り出してきた。
「総合庁に勤めています」
「あら。エリートさんじゃない」
「いえ。僕は普通です」
「お掃除好きなの?」
「どちらかと言えば好きな方ですね。キレイになると気分がいいので」
「あらぁ!いいわねぇ!お料理はできるの?」
「人並みに」
「人並みどころか、すっごい美味しいじゃない」
「そうかな?普通だと思うけど」
「ちなみにちなみに!貴方、男専門の人?」
「そうですね」
「あー……そっかぁ……」
何故か途端にアイーダが残念そうな顔をした。
「兄上のお友達なら結婚相手にいいかもって思ってたのに……男専門じゃダメねぇ」
「何考えてたんだよ。アイーダ」
「だって兄上!私は家事全般得意な人と結婚したいんだもん!あとできれば優しくて癒し系な感じの!」
「はいはい」
「なぁによぉ!兄上だって結婚したいって言ってたじゃなぁい」
「あー……まぁ、ねぇ?」
ウーゴは結婚したいのか。チラッと隣のウーゴを見ると、少し気まずそうな顔で頬を掻いていた。そう言えばウーゴの童貞を食った時にもそんなことを言っていた気がする。なんだか少しもやっとする。
お盆を持ったフリオがやって来た。紅茶のいい香りがする。
お礼を言ってカップを受け取って、一口飲むと、渋みの全然ない紅茶の華やかな香りが口中に広がった。
「美味しい……」
思わず顔を緩めると、ウーゴが自身も紅茶を飲みながら、のほほんとした雰囲気で口を開いた。
「父上は紅茶を淹れるのだけは上手なんだよ」
「口に合うか?」
「はい。凄く美味しいです」
「ジャムは使うか?」
「ジャム?」
「風の宗主国では紅茶にジャムを入れるんだ。甘いものは平気か?」
「あー……すいません。あまり得意ではなくて」
「ん。そうか」
「あ、あの。これをよろしかったら召し上がってください。マドレーヌなんですけど」
「あぁ。悪いな。ありがたくいただこう」
「あ!『ナタリージェ』のマドレーヌだ!これすっごい美味しいのよ!ありがとう!セオドールさん!」
「いえ。少しですが召し上がってください」
「セオ。早速貰っていい?俺ここのマドレーヌ好きなの」
「ははっ。どうぞ」
親子3人が早速セオドールが買ってきたマドレーヌを食べ始めた。フリオはそんなに表情が変わらないが、ウーゴとアイーダはなんとも幸せそうな顔をしてマドレーヌを食べている。昼食の時間まで美味しい紅茶片手に4人で話をして、昼前に1度ウーゴ達の家を出て歩いて飲食店に行った。ウーゴが言っていた通り、フリオもアイーダもウーゴと同じくらい沢山食べる。見ていてなんだか面白いくらいだ。フリオ達に案内された店は家庭料理みたいなメニューが殆んどの店で、量がかなり多かったので、セオドールはウーゴに3分の1程食べてもらった。素朴な感じで中々美味しかったし、フリオもアイーダも目に眩しい程の美形だが、気さくな人達で楽しい昼食となった。
話の流れで午後からウーゴ達の家の掃除をすることになった。特に台所がいっそ面白いくらい汚れていたので、ウーゴにも手伝ってもらってピッカピカに磨き上げた。アイーダは掃除をするセオドールの後ろをついて回り、何故だか楽しそうに目を輝かせていた。
実は前回来た時から初めて見る大量の調理用の魔導製品を使ってみたかったので、夕食を作ろうかと提案してみると、3人とも大喜びした。自分達で作る残念な食生活にうんざりしていたらしい。
材料は大量にストックがあったので、ウーゴやアイーダに面白い魔導製品の使い方を聞きながら、セオドールは生き生きと料理を作った。汚れていたがウーゴの家の台所は広く、機能的で、見たこともない面白い魔導製品が沢山ある。調味料も肉も野菜も種類が豊富で、ぶっちゃけかなり楽しい。3人とも大量に食べるので、かなりの量を作った。ここまで大量に料理を作ることがないので、なんだかそれも楽しい。ウーゴもまたお手伝いしてくれた。アイーダはセオドール達の後ろをまたついて回って、隙あらばつまみ食いしようとしていた。
料理を食卓に運び、食べ始めると、凄い勢いで皿のものが3人の胃袋に消えていく。あまりの勢いに、セオドールは面白すぎて自分が食べるのを忘れて美味しそうに食べる3人を眺めていた。
「あっ!兄上、それ私が狙ってたお肉!」
「妹よ。食卓は戦場だ。油断する方が悪い」
「なによそれっ!妹に譲りなさいよ!」
「あっ!父上、それ俺の芋っ!」
「食卓は戦場なんだろ?とられたくなかったら名前でも書いとけ」
「芋に名前なんて書けるわけないだろっ」
「この甘酢あんかけの唐揚げ最っ高!おーいしーい」
とても賑やかな食卓が楽しくて、セオドールはずっとクスクス笑っていた。
セオドールは手土産のマドレーヌが入った紙袋を片手に領館方面にある街の入り口を目指して歩いていた。
突然やって来たウーゴと年末年始の休み後半を過ごし、帰ったその夜に早速携帯通信具にウーゴから連絡が来たのだ。『親が掃除のお礼言いたいし、折角だから一緒にご飯食べたいって言ってるんだけど』と。まさかの親御さんとのご対面である。ウーゴの童貞を食っちゃった上に、ずるずると何度もセックスをして、でも恋人という訳でもないのに、一体どんな顔をして会えばいいのか。ウーゴはセオドールのことを親に何と伝えたのだろうか。知り合い?友達?多分恋人ではないと思う。
ウーゴと過ごした休みの間は確かに楽しかった。幸せそうな顔でセオドールが作った料理を食べる姿も、まるで小さな子供や犬みたいに家事をするセオドールの後ろをついて回ってお手伝いしていた姿も、セオドールが頭を撫でる度に嬉しそうに顔を緩ませていた姿も、本当に可愛かった。ウーゴはセオドールより背が高くて男前な美形なのに、ウーゴは本当に可愛いと思う。
セオドールは自分の家に誰かがいて、一緒に過ごすという感覚が久しぶりすぎて、正直かなり浮かれてしまった。
まずいなぁ、とじんわり思っている。我ながら単純な気がするが、ウーゴのことを好きになってしまいそうだ。ウーゴのような美形で優しくて可愛い男とセオドールのようなド普通な男が釣り合う訳がない。ウーゴに懐かれているとは思うが、セオドールと同じ方向性の『好き』かは分からない。ただ単にウーゴがセックスにハマっているだけという可能性だって、ないではないのだ。悲しいかな、フラれるのには慣れている。しかし、慣れてはいてもツラいものはツラい。
これ以上深入りすべきではないと分かっているのに、ウーゴからの誘いにほいほい乗ってしまった自分は馬鹿だと思う。でもウーゴに会いたいと思ってしまった。……なんだかもう、手遅れな気がする。
セオドールは小さく溜め息を吐いて、ウーゴに会えるとウキウキしてしまう自分の胸を押さえた。
中央の街の入り口に着くと、もうウーゴが来ていた。ウーゴの側には茶毛の馬がいる。鼻筋だけ白いので、多分シルヴィだろう。ウーゴがセオドールの姿を見つけると、パァッと顔を輝かせた。うっ。可愛い。
「セオッ!おはよー」
「おはよ。待たせちゃった?」
「ううん。俺もほんのちょっと前に来たとこ」
「そ。この子がシルヴィ?」
「そうだよ。シルヴィ。セオだよ」
そう言ってウーゴがシルヴィの首筋を撫でた。初めて間近で見る馬はとても大きくて、でも目が優しくてなんだか可愛い。
「シルヴィ。よろしくね」
セオドールがシルヴィに声をかけると、シルヴィは穏やかな目でセオドールを見た。
ウーゴにシルヴィに乗せてもらって、ウーゴの家へと向かう。セオドールはウーゴに抱き抱えられているかのようにしてシルヴィに乗っていた。背中にウーゴの温もりを感じる。鞍のところを握っているセオドールの身体を両腕で囲むようにしてウーゴが手綱を握っている。近い。正直『好きになりそう』と自覚している状態でこの距離感は若干ツラいものがある。なんというか、どうしてもドキドキしてしまう。散々セックスをした間柄なのに今更なのだが。
「……実はセオに謝らなきゃいけないことがありまして……」
「ん?なに?」
「……折角掃除してもらったんだけど、もう既に荒れ始めちゃってる……特に台所」
「おや」
「キープしようとしてるんだけど、何故か散らかり続ける一方でねー」
「はははっ。いいよいいよ。なんなら、また掃除するから」
「……うぅ。ごめんねぇ」
「馬にも乗せてもらってるしね」
少し項垂れているような気がするウーゴの頭を後ろ手に撫でると、すりっとウーゴに後ろから頬擦りされた。
「お昼ご飯はちょっと歩いた所に割と美味しいお店があるからさ。そこで食べようって」
「うん。楽しみにしてる」
「最近どう?仕事忙しい?」
「例年通りかな。ウーゴは?」
「んー……新しい研究開発が始まったけど、まだそんなに忙しくはないかな。始めたばっかだし、毎日どんな魔術陣を使うかとか、どんな設計にするかとか話し合いばっかり」
「そ。楽しい?」
「うん。新しいものを作るって大変だけど凄い楽しいよ。なんかワクワクする」
「ふふっ。そうなんだ」
ウーゴが楽しそうに話しながら、手綱を持っていた片手を離して、セオドールの腹に片腕を回した。きゅっと緩めに抱き締められて、思わずドキッとする。
ドキドキしているのがウーゴにバレないといいけど……。そう思いながら、ウーゴの家までの道をシルヴィに揺られて進んだ。
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ウーゴの家に着くと、馬小屋にシルヴィを連れていき、シルヴィにお礼を言って少し撫でさせてもらった後、玄関へと向かった。ウーゴの家は大きな2階建ての家で、庭もそこそこ広い。庭にはいくつか木が生えていて、ウーゴによると全て果樹らしい。ちょっとした家庭菜園もあり、料理に使う香草を植えているのだとか。家庭菜園の世話は基本的に軍人の方の父エドガーがしているのだそうだ。
緊張しながら玄関を通り、居間へと行くと、セオドールは驚いて思わず目を見開いた。
妖精がいる。それも2人も。中々にきったない部屋に妖精みたいに人外じみた超美形の男女がいた。
「お。いらっしゃい」
「いらっしゃーい」
「ただいまー」
男女の妖精がソファーから立ち上がり、固まっているセオドールに近寄ってきた。2人ともウーゴと同じ色合いの金髪に、まるで絵本に出てくる妖精のように並外れて整った顔立ちをしている。自分と同じ生き物とは思えないレベルで美しい。
「はじめまして。ウーゴの父親のフリオ・スルトだ」
「はじめまして。妹のアイーダよ」
「はっ、はじめまして!セオドール・グランディアと申します……」
「ウーゴが何日も世話になった上に掃除までしてくれたのだろう。正直かなり助かった。ありがとう」
「い、いえ……」
「父上。とりあえずお茶飲みましょうよ」
「ん?そうだな。セオドール君は紅茶は大丈夫か?」
「あ、はい。好きです」
「そうか。ならよかった。俺は紅茶しか淹れられないんだ」
「は、はぁ……」
座っててくれ、と言われて、ウーゴと共に大きなソファーに移動して並んで座る。居間には皺くちゃの洗濯物は流石になかったが、あちこちによく分からない部品や紙屑などが転がっており、掃除して2週間程なのに、若干埃っぽい。居間の片隅には初めて見る魔導製品があって、道具と思わしきものがごちゃっと散乱していた。
「ねぇねぇ。セオドールさんはどこで働いているの?」
向かいのソファーに座ったアイーダが興味津々と言った表情で身を乗り出してきた。
「総合庁に勤めています」
「あら。エリートさんじゃない」
「いえ。僕は普通です」
「お掃除好きなの?」
「どちらかと言えば好きな方ですね。キレイになると気分がいいので」
「あらぁ!いいわねぇ!お料理はできるの?」
「人並みに」
「人並みどころか、すっごい美味しいじゃない」
「そうかな?普通だと思うけど」
「ちなみにちなみに!貴方、男専門の人?」
「そうですね」
「あー……そっかぁ……」
何故か途端にアイーダが残念そうな顔をした。
「兄上のお友達なら結婚相手にいいかもって思ってたのに……男専門じゃダメねぇ」
「何考えてたんだよ。アイーダ」
「だって兄上!私は家事全般得意な人と結婚したいんだもん!あとできれば優しくて癒し系な感じの!」
「はいはい」
「なぁによぉ!兄上だって結婚したいって言ってたじゃなぁい」
「あー……まぁ、ねぇ?」
ウーゴは結婚したいのか。チラッと隣のウーゴを見ると、少し気まずそうな顔で頬を掻いていた。そう言えばウーゴの童貞を食った時にもそんなことを言っていた気がする。なんだか少しもやっとする。
お盆を持ったフリオがやって来た。紅茶のいい香りがする。
お礼を言ってカップを受け取って、一口飲むと、渋みの全然ない紅茶の華やかな香りが口中に広がった。
「美味しい……」
思わず顔を緩めると、ウーゴが自身も紅茶を飲みながら、のほほんとした雰囲気で口を開いた。
「父上は紅茶を淹れるのだけは上手なんだよ」
「口に合うか?」
「はい。凄く美味しいです」
「ジャムは使うか?」
「ジャム?」
「風の宗主国では紅茶にジャムを入れるんだ。甘いものは平気か?」
「あー……すいません。あまり得意ではなくて」
「ん。そうか」
「あ、あの。これをよろしかったら召し上がってください。マドレーヌなんですけど」
「あぁ。悪いな。ありがたくいただこう」
「あ!『ナタリージェ』のマドレーヌだ!これすっごい美味しいのよ!ありがとう!セオドールさん!」
「いえ。少しですが召し上がってください」
「セオ。早速貰っていい?俺ここのマドレーヌ好きなの」
「ははっ。どうぞ」
親子3人が早速セオドールが買ってきたマドレーヌを食べ始めた。フリオはそんなに表情が変わらないが、ウーゴとアイーダはなんとも幸せそうな顔をしてマドレーヌを食べている。昼食の時間まで美味しい紅茶片手に4人で話をして、昼前に1度ウーゴ達の家を出て歩いて飲食店に行った。ウーゴが言っていた通り、フリオもアイーダもウーゴと同じくらい沢山食べる。見ていてなんだか面白いくらいだ。フリオ達に案内された店は家庭料理みたいなメニューが殆んどの店で、量がかなり多かったので、セオドールはウーゴに3分の1程食べてもらった。素朴な感じで中々美味しかったし、フリオもアイーダも目に眩しい程の美形だが、気さくな人達で楽しい昼食となった。
話の流れで午後からウーゴ達の家の掃除をすることになった。特に台所がいっそ面白いくらい汚れていたので、ウーゴにも手伝ってもらってピッカピカに磨き上げた。アイーダは掃除をするセオドールの後ろをついて回り、何故だか楽しそうに目を輝かせていた。
実は前回来た時から初めて見る大量の調理用の魔導製品を使ってみたかったので、夕食を作ろうかと提案してみると、3人とも大喜びした。自分達で作る残念な食生活にうんざりしていたらしい。
材料は大量にストックがあったので、ウーゴやアイーダに面白い魔導製品の使い方を聞きながら、セオドールは生き生きと料理を作った。汚れていたがウーゴの家の台所は広く、機能的で、見たこともない面白い魔導製品が沢山ある。調味料も肉も野菜も種類が豊富で、ぶっちゃけかなり楽しい。3人とも大量に食べるので、かなりの量を作った。ここまで大量に料理を作ることがないので、なんだかそれも楽しい。ウーゴもまたお手伝いしてくれた。アイーダはセオドール達の後ろをまたついて回って、隙あらばつまみ食いしようとしていた。
料理を食卓に運び、食べ始めると、凄い勢いで皿のものが3人の胃袋に消えていく。あまりの勢いに、セオドールは面白すぎて自分が食べるのを忘れて美味しそうに食べる3人を眺めていた。
「あっ!兄上、それ私が狙ってたお肉!」
「妹よ。食卓は戦場だ。油断する方が悪い」
「なによそれっ!妹に譲りなさいよ!」
「あっ!父上、それ俺の芋っ!」
「食卓は戦場なんだろ?とられたくなかったら名前でも書いとけ」
「芋に名前なんて書けるわけないだろっ」
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