身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

文字の大きさ
19 / 172
第一章 辺境の地

19.部屋で

しおりを挟む
 私はからのお皿を満載にした配膳車をガラガラと押して厨房に行き、厨房のスタッフにお礼を言われて恐縮しながら部屋へ戻った。

 暗い部屋のランプに火を灯すと、ベッドの上に何か置いてあるのが目に入った。
 手燭の光をベッドサイドの燭台に移してからベッドの上を改めて見て、驚いた。

 3着もの新しいドレスがベッドの上に広げてあった。
 私は思わず手に取って、姿見の方へ向いて身体へあててみた。
 わ…素敵。
 豪華ではないけれど、普段着としては上等の細かい刺繍やレースが施してあるものだった。
 
 こんなにたくさんのドレスを一度にもらったことがない。
 しかも新調してもらうなんて、初めて。
 嬉しい…けど、なんかこれを盾に家に帰してもらえないような気もする。

 高揚していた気分が下がり、私はドレスをベッドの上に置いた。
 ドレスの横に何かある。
 何だろうと思って見ると、それは真新しい下着だった。
 
 恥ずかしく思いながらも、正直なところとても有り難かった。
 コルセットまで新しいのが置いてある。
 仕立て屋のウルビーニか、エルダさんが揃えてくれたのだろうか。

 ご主人様にお礼を言いたい。
 だけど今日は無理かな…
 そろそろ晩餐会も終わるだろうけど、お疲れだろうし…

 エルダさんが「ご主人様」と呼んでいたので、私も便宜上そう言っているが、別に私のご主人様ではない。
 かと言ってバルトロやシプリアノみたいに「隊長」というのもおかしいよね…私は討伐隊の隊員ではないし。
 アドルナートが「ヴァラリオーティ様のお越しです」と呼ばわっていたっけ。
 
 ヴァラリオーティ…聞いたことあるような気がする。
 バルトロが「都じゃ偉い人なんだよ」と言ってた。
 でも私が都の偉い人の名前を知っているわけもないし。
 うーん。

 私はクロゼットにドレスをしまい、下着を取り換えてベッドに横になった。
 部屋の燭台の火は消し、手燭の灯りだけの灯る狭い部屋の天井をぼんやりと眺める。

 今日は午後からは本当にいろんなことがあって、疲れた…
 身体や傷の痛みもさほど気にならないくらいだった。
 ご主人様という人は、なんだか不思議な人だ。
 私を「気に入った」と言っていたけど、どういう意味なのか。

 ドレスを誂えさせたり、南部訛りの発音を直させようとしたり、晩餐会に列席させるつもりだったようだし、私の想像を超えている。
 これではまるで、夫人のようではないかしら…
 都の偉い人ならば、都に奥方がいらっしゃるだろうから、妾とか現地妻のような感じ?

 考えてぞっとする。
 嫌だ、これでは都へご愛妾候補として行くのと変わらないじゃないの。
 「逃げ出したりしないでくれ」と言っていたバルトロには悪いけど、また逃げたほうがいいのかな。

 でも、まったく正体の知れない、山中で拾った(しかも姓も出自も言わない怪しさ満載の)女を、いくら少し気に入ったからって妾にしようと思うのかなあ?
 だとしたら相当変わった人だよね。
 拾った正体不明の女なら、都へ帰るとき、ぽいと棄てればいいってことなのか…?

 私は手燭の灯りも吹き消して、ベッドにもぐりこんだ。
 暖かい。有難い。

 にぃ兄様…
 どうしているだろう。
 寒い山中で一人、私を探していたりしないだろうか。
 いやそれとも、恋人の許へ帰ろうとしているのかしら…

 にぃ兄様。どうかご無事で。
 私は、クレメンティナは、今のところ元気でいます。

 私は神に祈りを捧げ、眠りについた。
 
 

 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

処理中です...