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第二章 都へ
12.アレク様の話
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アレク様はからかうような表情のまま、ふうっと息を吐いて腕を組む。
「そうかねえ…?じゃ何で…」
と言いかけて私を見て、目を眇めた。
「ほう、こっちもか。
何だなんだ、面白くないな」
呟いて腕を解き、焦茶の髪をかき上げる。
「俺が今回、自ら軍を率いてこんなところまで来たのは、山賊討伐隊がなかなか山賊どもを殲滅できなかったからだ。
大公の愛妾候補が何人も、この山脈を越えられず山賊どもの餌食になっている。
隊長であるエルヴィーノはもとより、こいつの家までも都では評判を落としていた。
エルヴィーノの幼馴染であり親友の俺が、救済を一役買って出たというわけさ」
え…愛妾候補が何人も…って、私だけじゃなかったんだ。
私は密かに息を呑む。
「ところが着いてみたら、ちょうど山賊は全滅させました、ときた。
牢には山賊が満杯で、兵を山中に放ってみたが本当に何もいなかった。
ま、不穏な場所はここだけじゃないんで、兵は他の場所に移動させればいいけど…
義勇に駆られてわざわざ来てやった俺の面目は丸つぶれじゃねぇか?」
本当につまらなそうに、アレク様は肩をすくめる。
どんな地位の人だか判らないけど…ずいぶん、戦好きの人だな。
都の人って、こんな人が多いのかな。
田舎は生活が手いっぱいで、皆が協力しないと生きていけないから、あまりそういう人はいないのよね。
好戦的な人がまったくいないわけじゃないけどね。
エルヴィーノ様は項垂れている。
何か言葉をかけてあげたいけど…
「しかもあのエルヴィーノが、女嫌いで暴れん坊の輩の代表と悪評高かったエルヴィーノが。
垢抜けない謎の田舎娘をそりゃあ大切にしてるなんて、誰が聞いたって笑い話だ」
「誰に笑われたって良いんだ。
どうせ俺は貴族社会からのはみ出しもんだから」
暗い声でエルヴィーノ様は呟く。
アレク様は意外そうにエルヴィーノ様を見遣った。
「トゲトゲのお前からそんな言葉が出るなんてなぁ。
面白い。よし判った。
この骨折り損の旅の代償に、女を俺がもらおうと思っていたんだが…
エルヴィーノ、お前がこれから行く場所で戦功を上げたらクラリッサは返してやる」
抗議の声をあげようとするエルヴィーノ様を片手で制してアレク様は続けた。
「いずれにせよ、命令で今はお前は都へ帰れない。
俺がクラリッサを連れて行ってやるよ。
大丈夫だ、俺の隠れ家に匿うから。
お前の家族には見つからないようにする」
ぐっと押し黙るエルヴィーノ様を満足げに見て、アレク様は私に視線を移す。
「クラリッサ、お前は俺と都へ行くんだ。
お前の兄のことはエルヴィーノから聞いた。
俺が探してやるよ」
「えっでも…」
私は突然の話に驚き、何と返事して良いか判らず口ごもる。
「わたくしは、エルヴィーノ様と都へご一緒させていただけるものとばかり思っておりましたし…
そういうことなら一度、故郷へ帰って改めて長兄と都へ上がります」
先ほどの『大公の愛妾候補が何人も、この山脈を越えられず山賊どもの餌食になっている』というアレク様の言葉にを聞いて私は咄嗟に思ったのだ。
だったら、私が一人で帰っても、お館様は怒らないんじゃないかって。
しかしアレク様はそれを聞いて急に不機嫌そうに「そんなことは聞いていない。これは決定事項だ」と言う。
「長兄?」
とそこへ、エルヴィーノ様の大きな声が割り込む。
「あ、はい…
行方不明は次兄でございます」
私がビックリして答えるとエルヴィーノ様は「そんな話は…いや確かめてみないと」とかぶつぶつ言っている。
幼いころ、私はレオンツィオ兄様を「いち兄様」、セノフォンテ兄様を「にぃ兄様」と呼んでいた。
いち兄様のことはいつの間にか「レオ兄様」と呼ぶようになったが、にぃ兄様はそのままになってしまっている。
セノ兄様と呼ぼうとしたこともあったのだが、にぃ兄様がそのままがいいと仰ったからだ。
「とにかくすぐに準備しろ。
明日には出発する」
話は終わりだ、と短く言って、追いやるように手を上下に振る。
部屋の中にいた衛兵が私の腕を捕らえて、部屋の外へ出そうとする。
「手荒に扱うな!」
エルヴィーノ様の声が響き、衛兵はぱっと私の腕を離した。
「すまない…約束を守ってやれなくて。
とにかくアレクと一緒に都へ行ってくれ。
俺もすぐに帰るから、戦功をあげて、すぐに迎えに行くから」
私の前に来たエルヴィーノ様は私の両肩に手を置いて顔を覗き込むようにして言う。
私は途端に大きく跳ねだす心臓の音を持て余し、何故か泣きたいような気持ちでうなずいた。
「そうかねえ…?じゃ何で…」
と言いかけて私を見て、目を眇めた。
「ほう、こっちもか。
何だなんだ、面白くないな」
呟いて腕を解き、焦茶の髪をかき上げる。
「俺が今回、自ら軍を率いてこんなところまで来たのは、山賊討伐隊がなかなか山賊どもを殲滅できなかったからだ。
大公の愛妾候補が何人も、この山脈を越えられず山賊どもの餌食になっている。
隊長であるエルヴィーノはもとより、こいつの家までも都では評判を落としていた。
エルヴィーノの幼馴染であり親友の俺が、救済を一役買って出たというわけさ」
え…愛妾候補が何人も…って、私だけじゃなかったんだ。
私は密かに息を呑む。
「ところが着いてみたら、ちょうど山賊は全滅させました、ときた。
牢には山賊が満杯で、兵を山中に放ってみたが本当に何もいなかった。
ま、不穏な場所はここだけじゃないんで、兵は他の場所に移動させればいいけど…
義勇に駆られてわざわざ来てやった俺の面目は丸つぶれじゃねぇか?」
本当につまらなそうに、アレク様は肩をすくめる。
どんな地位の人だか判らないけど…ずいぶん、戦好きの人だな。
都の人って、こんな人が多いのかな。
田舎は生活が手いっぱいで、皆が協力しないと生きていけないから、あまりそういう人はいないのよね。
好戦的な人がまったくいないわけじゃないけどね。
エルヴィーノ様は項垂れている。
何か言葉をかけてあげたいけど…
「しかもあのエルヴィーノが、女嫌いで暴れん坊の輩の代表と悪評高かったエルヴィーノが。
垢抜けない謎の田舎娘をそりゃあ大切にしてるなんて、誰が聞いたって笑い話だ」
「誰に笑われたって良いんだ。
どうせ俺は貴族社会からのはみ出しもんだから」
暗い声でエルヴィーノ様は呟く。
アレク様は意外そうにエルヴィーノ様を見遣った。
「トゲトゲのお前からそんな言葉が出るなんてなぁ。
面白い。よし判った。
この骨折り損の旅の代償に、女を俺がもらおうと思っていたんだが…
エルヴィーノ、お前がこれから行く場所で戦功を上げたらクラリッサは返してやる」
抗議の声をあげようとするエルヴィーノ様を片手で制してアレク様は続けた。
「いずれにせよ、命令で今はお前は都へ帰れない。
俺がクラリッサを連れて行ってやるよ。
大丈夫だ、俺の隠れ家に匿うから。
お前の家族には見つからないようにする」
ぐっと押し黙るエルヴィーノ様を満足げに見て、アレク様は私に視線を移す。
「クラリッサ、お前は俺と都へ行くんだ。
お前の兄のことはエルヴィーノから聞いた。
俺が探してやるよ」
「えっでも…」
私は突然の話に驚き、何と返事して良いか判らず口ごもる。
「わたくしは、エルヴィーノ様と都へご一緒させていただけるものとばかり思っておりましたし…
そういうことなら一度、故郷へ帰って改めて長兄と都へ上がります」
先ほどの『大公の愛妾候補が何人も、この山脈を越えられず山賊どもの餌食になっている』というアレク様の言葉にを聞いて私は咄嗟に思ったのだ。
だったら、私が一人で帰っても、お館様は怒らないんじゃないかって。
しかしアレク様はそれを聞いて急に不機嫌そうに「そんなことは聞いていない。これは決定事項だ」と言う。
「長兄?」
とそこへ、エルヴィーノ様の大きな声が割り込む。
「あ、はい…
行方不明は次兄でございます」
私がビックリして答えるとエルヴィーノ様は「そんな話は…いや確かめてみないと」とかぶつぶつ言っている。
幼いころ、私はレオンツィオ兄様を「いち兄様」、セノフォンテ兄様を「にぃ兄様」と呼んでいた。
いち兄様のことはいつの間にか「レオ兄様」と呼ぶようになったが、にぃ兄様はそのままになってしまっている。
セノ兄様と呼ぼうとしたこともあったのだが、にぃ兄様がそのままがいいと仰ったからだ。
「とにかくすぐに準備しろ。
明日には出発する」
話は終わりだ、と短く言って、追いやるように手を上下に振る。
部屋の中にいた衛兵が私の腕を捕らえて、部屋の外へ出そうとする。
「手荒に扱うな!」
エルヴィーノ様の声が響き、衛兵はぱっと私の腕を離した。
「すまない…約束を守ってやれなくて。
とにかくアレクと一緒に都へ行ってくれ。
俺もすぐに帰るから、戦功をあげて、すぐに迎えに行くから」
私の前に来たエルヴィーノ様は私の両肩に手を置いて顔を覗き込むようにして言う。
私は途端に大きく跳ねだす心臓の音を持て余し、何故か泣きたいような気持ちでうなずいた。
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