59 / 172
第三章 都での生活
19.リーチェの訪問
しおりを挟む
エルヴィーノ様が部屋を出て行ってしばらく、私は呆然とソファに座り込んでいた。
衝撃が大きすぎて、頭と感情がついて行かない。
エルヴィーノ様が…私を?
次男なのに首都に私邸を持つほどの方なら、お父上はきっと国の中枢にいらっしゃるお方だろう。
いずれ名のある貴族なのだろうとは思っていたけれど、まさか。
だって、山賊討伐隊の隊長として州境の山林を駆け回っておられたり、地方の小戦を収めに行かれたり、都の偉い貴族の御子息とは思えないし。
それにお振る舞いは確かに優雅で品があるけれど、討伐隊の館にいらしたときのあのラフな格好や、割と乱暴な言葉遣い。
『ヴァラリオーティ家の恥さらしな不出来の次男坊の俺』
耳元で囁いたエルヴィーノ様の言葉が蘇る。
ヴァラリオーティ…山賊討伐隊の邸で聞いたときも思ったけれど、どこかで聞いたことがある。
都の偉い方のようだから、何かの国家事業が行われたときに聞いたとか?
…いえそうじゃない気がする。
もっと昔、幼いころ?
どこで、どういうシチュエーションで聞いたのだったか…
そこまで考えてはっとする。
え…さっき、エルヴィーノ様は『何なら、俺はお前と一緒にシエーラに住んでも良い。お前の父親のように』と仰った?
私、生まれ故郷のシエーラと、子爵家の娘であることは話したけど、お父様の出身についてまでは話していない。
ということは、…???
頭が混乱して、思わず頬を抑えていると、ドアが遠慮がちにノックされた。
「クラリッサ…リーチェです。
入って良い?」
「あ、どうぞ」
答えると、リーチェが扉を開けて入ってきた。
後ろにアリアンナがワゴンを押してついてきている。
「こんにちはクラリッサ。
今日はエセルバート様のお稽古がお休みになるだろうから、クラリッサの相手をしておあげってアレク様に言われて遊びに来たの」
「まあ、そうなの…
ありがとうリーチェ」
私はいつもと変わらぬ明るいリーチェの笑顔にほっとしながら、立ち上がってリーチェを向かいのソファへ誘った。
アリアンナは「ジョルジーニ様から、お茶のお取替えを命じられてきました」と言って、すっかり冷めてしまったお茶を捨てて、リーチェの分も新しいあつあつのお茶を淹れてくれた。
「エルヴィーノ様と何のお話をなさっていたの?」
リーチェはお茶の湯気を吹きながら、何気ないふうに訊く。
「あ、あの…
わたくしの兄の居所が判ったと」
「あらそうなのね、良かった!
でも、それだけじゃあないわよね?
ジョルジーニがこの部屋の扉の前でやきもきしていたのよ」
「えっ…」
私は先ほどのエルヴィーノ様の言葉や行為を思い出して顔が赤くなってしまうのを止められなかった。
「やば、その反応!
えっ、遂に仰ったのね?
わーどうするのクラリッサ!」
リーチェは楽しげに身を乗り出す。
「え、どうするって言われても…」
「この館からでていっちゃうの?
エルヴィーノ様、ついてこいって仰ったんでしょう?」
…どうしてリーチェが、そんなことまで知っているのかしら…
黙って訝しげに見つめる私に、リーチェはこほんと咳払いして、ソファに座りなおした。
「だって、クラリッサがエルヴィーノ様のお邸に行っちゃったら、こうやって気軽に遊びに来るなんてできなくなっちゃうじゃない?
あたし、クラリッサとお出かけしたりおしゃべりするの、すごく好きなのよ」
もじもじと組み合わせた手を動かしながら、リーチェはしょんぼりと話す。
私は腰を浮かせてリーチェの手の上に自分の手を重ねた。
「わたくしも、リーチェとこうやって過ごすのが大好きよ。
まだ当面は、サン=バルロッテ館に置いていただくつもりよ。
アレク様がどう仰るか判らないけれど…
わたくしの故郷の友人が、どうしているか知りたいし」
リーチェの可愛らしい手を撫でながら私が言うと、リーチェは顔をほころばせた。
「本当?
良かったぁ~アレク様も喜ぶわ」
何で、アレク様が?喜ぶの?
私が訊こうとしたとき、おずおずとアリアンナの声がした。
「あの…クラリッサ様、そのことについてディーノから話がありました」
私は驚いて振り返り、顔を赤くして立っているアリアンナを見た。
「え、本当なの?
話して、アリアンナ!」
衝撃が大きすぎて、頭と感情がついて行かない。
エルヴィーノ様が…私を?
次男なのに首都に私邸を持つほどの方なら、お父上はきっと国の中枢にいらっしゃるお方だろう。
いずれ名のある貴族なのだろうとは思っていたけれど、まさか。
だって、山賊討伐隊の隊長として州境の山林を駆け回っておられたり、地方の小戦を収めに行かれたり、都の偉い貴族の御子息とは思えないし。
それにお振る舞いは確かに優雅で品があるけれど、討伐隊の館にいらしたときのあのラフな格好や、割と乱暴な言葉遣い。
『ヴァラリオーティ家の恥さらしな不出来の次男坊の俺』
耳元で囁いたエルヴィーノ様の言葉が蘇る。
ヴァラリオーティ…山賊討伐隊の邸で聞いたときも思ったけれど、どこかで聞いたことがある。
都の偉い方のようだから、何かの国家事業が行われたときに聞いたとか?
…いえそうじゃない気がする。
もっと昔、幼いころ?
どこで、どういうシチュエーションで聞いたのだったか…
そこまで考えてはっとする。
え…さっき、エルヴィーノ様は『何なら、俺はお前と一緒にシエーラに住んでも良い。お前の父親のように』と仰った?
私、生まれ故郷のシエーラと、子爵家の娘であることは話したけど、お父様の出身についてまでは話していない。
ということは、…???
頭が混乱して、思わず頬を抑えていると、ドアが遠慮がちにノックされた。
「クラリッサ…リーチェです。
入って良い?」
「あ、どうぞ」
答えると、リーチェが扉を開けて入ってきた。
後ろにアリアンナがワゴンを押してついてきている。
「こんにちはクラリッサ。
今日はエセルバート様のお稽古がお休みになるだろうから、クラリッサの相手をしておあげってアレク様に言われて遊びに来たの」
「まあ、そうなの…
ありがとうリーチェ」
私はいつもと変わらぬ明るいリーチェの笑顔にほっとしながら、立ち上がってリーチェを向かいのソファへ誘った。
アリアンナは「ジョルジーニ様から、お茶のお取替えを命じられてきました」と言って、すっかり冷めてしまったお茶を捨てて、リーチェの分も新しいあつあつのお茶を淹れてくれた。
「エルヴィーノ様と何のお話をなさっていたの?」
リーチェはお茶の湯気を吹きながら、何気ないふうに訊く。
「あ、あの…
わたくしの兄の居所が判ったと」
「あらそうなのね、良かった!
でも、それだけじゃあないわよね?
ジョルジーニがこの部屋の扉の前でやきもきしていたのよ」
「えっ…」
私は先ほどのエルヴィーノ様の言葉や行為を思い出して顔が赤くなってしまうのを止められなかった。
「やば、その反応!
えっ、遂に仰ったのね?
わーどうするのクラリッサ!」
リーチェは楽しげに身を乗り出す。
「え、どうするって言われても…」
「この館からでていっちゃうの?
エルヴィーノ様、ついてこいって仰ったんでしょう?」
…どうしてリーチェが、そんなことまで知っているのかしら…
黙って訝しげに見つめる私に、リーチェはこほんと咳払いして、ソファに座りなおした。
「だって、クラリッサがエルヴィーノ様のお邸に行っちゃったら、こうやって気軽に遊びに来るなんてできなくなっちゃうじゃない?
あたし、クラリッサとお出かけしたりおしゃべりするの、すごく好きなのよ」
もじもじと組み合わせた手を動かしながら、リーチェはしょんぼりと話す。
私は腰を浮かせてリーチェの手の上に自分の手を重ねた。
「わたくしも、リーチェとこうやって過ごすのが大好きよ。
まだ当面は、サン=バルロッテ館に置いていただくつもりよ。
アレク様がどう仰るか判らないけれど…
わたくしの故郷の友人が、どうしているか知りたいし」
リーチェの可愛らしい手を撫でながら私が言うと、リーチェは顔をほころばせた。
「本当?
良かったぁ~アレク様も喜ぶわ」
何で、アレク様が?喜ぶの?
私が訊こうとしたとき、おずおずとアリアンナの声がした。
「あの…クラリッサ様、そのことについてディーノから話がありました」
私は驚いて振り返り、顔を赤くして立っているアリアンナを見た。
「え、本当なの?
話して、アリアンナ!」
1
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる