身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第四章 謎解き

1.行動

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 その日、何故かジョルジーニが捕まらなかった。
 私は邸中を歩き、ジョルジーニを探して邸内の誰彼に尋ねて回ったが、誰も知らない見ていないと口を揃えて言う。

 エセルバート様に一度行き合い「おお、クラリッサ!エルヴィーノ様のお屋敷に行かないって本当か」と大きな声で訊かれて、私は赤くなってうつむいた。

 「はい、あの…まだ決心が」
 「まあそうかもな、エルヴィーノ様の奥方になるってことは、都の重鎮の仲間入りって事だからなあ…
 しかしゆっくり考える時間もそうは無いだろう」

 私は思ってもいなかった言葉を聞いて、心が重くなっていくのを感じた。
 エルヴィーノ様の奥方…私のような田舎出身の下級貴族の娘に、そんな大役はとても無理。
 どうしてエルヴィーノ様は、そんな無茶ブリを私に課すのだろう。
 しかも既にご婚約者様がいらっしゃるというのに…

 『クレメンティナ、どうか…俺と一緒になってくれ』
 エルヴィーノ様の甘く切ない声が私の鼓膜に甦り、顔が赤くなってしまうのを止められなかった。
 顔を上げられず、両手で頬を覆う。

 「俺も師として付き合いは長いが、エルヴィーノ様のあんなに真剣な様子は初めてだ。
 都の悪童と言われて民からの評判は良くなかったし、お父上やお兄上との折り合いが悪くていつも不満そうで不真面目だった。
 今回はアレク様も絡んでいるから猶更かも知れないが…」
 感慨深げにエセルバート様は呟いて腕を組んだ。

 エセルバート様もジョルジーニには会っていないと言い、私はまだ何か話したそうなエセルバート様を置いてその場を後にし、またジョルジーニを探して厨房の方へ向かって歩き出した。

 厨房に行くと、コックたちもジョルジーニ様?そう言えば、朝会ったきりですねと不思議そうに顔を見合わせた。
 「いつも館内を歩き回って何かしらのお仕事をなさってる方ですからねえ…
 今日は、偉い方がいらっしゃると言って、料理やお酒についてすごい細かく指示されましたね。 
 ここはご主人様以外の方がいらっしゃるのは珍しいので、緊張なさっている感じでしたけど」
 司厨長が忙しなく手を動かしながら、考えるように言う。

 客間に私を案内した時、ジョルジーニの声がわずかに震えていたのを思い出す。
 エルヴィーノ様ってどういう方なんだろう。
 それはアレク様にも言えることだけど。

 その時、厨房の建物外へつながっている扉が開いて、少年がひょこっと顔を出した。
 「ジャコッベさん、酒屋と八百屋に注文伝えてきました」
 「ああ、判った。
 あちらに昼餉が用意してあるからお食べ」
 「ありがとうございます!」

 元気よく言って扉を閉めようとした少年を、私は慌てて呼び止める。
 「ディーノ!
 ちょっと待って、聞きたいことがあるの!」
 「あ、…はい?」
 ディーノはビックリしたように動きを止めて、大きな青い瞳で私を見る。
 
 「ね、司厨長、ちょっとこの子借りてもいいかしら」
 「えっ?!
 あ、まあいいですけど、…こいつが何かやらかしましたか?」
 驚いたように訊く司厨長に、ディーノは首を竦める。
 
 私は両手を振り「違うわ、そうじゃないの。わたくしの頼みごとを聞いてもらっていたから、その話で…」と急いで弁解する。
 でっぷり太った司厨長は私とディーノを頬の肉にうずもれたような細い目で見比べていたが、ふーんと大きく鼻から息を吐いて言った。
 「ディーノ、昼餉をこちらに持ってきて、ここで食べなさい。
 クラリッサ様をお前たちの食堂に行かせるわけにはいかないから」

 ディーノは急いで出て行き、メイドが厨房の卓の上の物を片付けて一隅に椅子を置いてくれた。
 パンとシチューのようなものを持ってきたディーノの横に腰かけて、私は食べながら聞くように促す。
 コックたちは忙しそうに立ち働いているけど、私は耳を憚って小さな声で話す。

 「あなたが凱旋パレードの日に、マルケッティ通りの娼婦たちの話を聞いたとアリアンナから聞いたの。
 確かに、ヴァネッサと呼ばれている娘がいたのね?」
 ディーノはパンを頬張りながら、はい、と頷く。

 「そのヴァネッサは、シエーラの領主の娘で、ご愛妾候補だったと」
 「はい。それが嫌で駆け落ちしたけど山賊に襲われて男は一人で逃げちゃったって」
 パンを飲み込んで話すディーノの言葉に、私はダニエーレに改めて殺意を覚えた。
 
 酷い…
 何てこと、あの優男。
 許さないわ。

 「ディーノ、そこのマルケッティ通り?に連れて行って欲しいの。
 そのヴァネッサは私の故郷の大切な友人なの。
 ご両親もご心配なさっているから探して連れて帰らないと」
 
 ディーノは少し困っているようだったが、私が銀貨をそっと手渡すと「判りました、今日の仕事が終わったら」と小さくうなずいた。

 
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