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第四章 謎解き
7.にぃ兄様の訪問
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私はブリーツィオに先導されて部屋へと向かう。
「あの、わたくしたちと一緒に馬車に乗っていた女の子は…」
気になっていることを尋ねると、ブリーツィオは振り返ってグレーの瞳を優しく笑わせた。
「ひどく汚れていたのでお湯を使っていただき、その後傷の手当てをいたしました。
お食事をお部屋でお摂りになって、お疲れだったようですぐにお寝みになりました」
「あ、…そうですか、ありがとうございます」
そのまま黙って歩いていく。
ブリーツィオは咳払いをして、静かな声で話し出した。
「申し遅れました。
私は、エルヴィーノ様のお身の回りをお世話する従者のブリーツィオと申します。
山賊討伐には行けなかったのですが、その後同行いたしまして、クレメンティナ様のことはエルヴィーノ様から伺っております」
エルヴィーノ様は私のことをどういう風に仰っているんだろう…
すごく気になったが、初対面の人に訊くのも…と思って黙って速足のブリーツィオについて行った。
これまでに見たこともないお姫様のお部屋のような、豪華な室礼の部屋に圧倒されながら晩餐用のドレスに着替えて(ちゃんとアリアンナがいてくれた)、夕食をエルヴィーノ様と一緒に摂った。
エルヴィーノ様は都にまつわる面白い話をたくさんしてくれて、私は終始笑いっぱなしだった。
食事中に声を上げて笑うなんて、貴族の令嬢としてはあるまじきはしたない態度だけれど、エルヴィーノ様の朗らかで温かい雰囲気は私にとっては懐かしいものだった。
まるでシエーラの家に帰ったような、この日の楽しい食卓の風景はその後ずっと私の心に残った。
翌日は、朝早くにエセルバート様が訪ねてきて、私は昨日の蛮行についてこってり叱られた。
訓練中のように大声で怒鳴られるのかと思っていたら、静かに諭すように理を説かれ、私は自分が如何に愚かな行為をしたのかを思い知らされて、心から反省し謝罪した。
ディーノも叱られただろうかと心配になったが、エセルバート様がとりなしてくださって、懲罰は無しとのことで安心した。
兄上に会うのだからと今日のお稽古も無しになって、私は今日は厳しく指導されるだろうと思っていたので拍子抜けした。
アレク様にも昨日の話は伝わってしまったのだろうか…
どう思われたかと考えると、不安で居ても立ってもいられない気分に襲われる。
朝食後にヴァネッサに会おうとしたのだけど、顔が腫れていて恥ずかしいと言い、部屋から出てこなかった。
相変わらずのワガママぶりに、私はホッとしたような怒りたいような複雑な気分だった。
山賊に襲われて恋人に裏切られ、人買いに売られて首都で娼婦をしていたなんて、元はお嬢さん育ちということを差し引いても相当辛いこともあったに違いない。
ワガママが言えるなら、少しは心のゆとりができたということなんだろう。
にぃ兄様と伯爵令嬢は夜にいらっしゃるということだった。
昼過ぎにフランシスカの弟のシプリアノが遊びに来てくれて、私は彼と久しぶりにさまざまな文学の話や最近の傾向などを話して旺盛に知識欲を満たした。
シプリアノもアレク様のお邸の図書室に行ったことがあると言い、その話でも盛り上がった。
エルヴィーノ様はそんな私たちを驚いたように眺めていた。
「クレメンティナの文学に対する知識はすごいな。
一緒に暮らすようになったらクレメンティナの好きな本を集めて図書館を作ろう」
と楽しそうに笑う。
その言葉を聞いて、私は気持ちが落ちるのを感じた。
私はまだ、エルヴィーノ様のプロポーズに対する答えは保留している状態、だと自分では思っている。
だけどエルヴィーノ様は、違うみたい。
もう、私が結婚を承諾したかのようにお振る舞いになる。
どうしたらいいんだろう。
お断りするほどの理由があるのか?
お父様を都から追い出した叔父の息子である従兄弟のエルヴィーノ様との結婚を、ステファネッリ家の家族はどう思うだろう。
快くは思わないだろうな…
にぃ兄様と会ってお話したい。
聡明なお兄様のお考えを聴きたい。
夕刻が近づくにつれ、私は挙動不審になって、エルヴィーノ様やアドルナートに笑われていた。
だけどそういうエルヴィーノ様だって心なし緊張なさっているように見える。
アレク様に作っていただいた可愛らしいドレスに着替えて、髪も流行りの若い女性向けの、前髪をちょっと取って膨らませた可愛い髪型にしてもらった。
エルヴィーノ様に勧められて、お茶を飲んで懸命に心を落ち着けていると、扉がコンコンとノックされ、ブリーツィオの落ち着いた声が聞こえた。
「申し上げます。
トランクウィッロ伯爵家ご令嬢ベアトリーチェ様ならびにステファネッリ子爵家ご令息セノフォンテ様がお越しでございます」
私は思わずお茶のカップを取り落としそうになり、「おっと!」とエルヴィーノ様が咄嗟に手を出して受け止めた。
カップのがちゃん!という耳障りな音も聞こえないほど、胸の高鳴る音が体中に鳴り響く。
にぃ兄様!
「あの、わたくしたちと一緒に馬車に乗っていた女の子は…」
気になっていることを尋ねると、ブリーツィオは振り返ってグレーの瞳を優しく笑わせた。
「ひどく汚れていたのでお湯を使っていただき、その後傷の手当てをいたしました。
お食事をお部屋でお摂りになって、お疲れだったようですぐにお寝みになりました」
「あ、…そうですか、ありがとうございます」
そのまま黙って歩いていく。
ブリーツィオは咳払いをして、静かな声で話し出した。
「申し遅れました。
私は、エルヴィーノ様のお身の回りをお世話する従者のブリーツィオと申します。
山賊討伐には行けなかったのですが、その後同行いたしまして、クレメンティナ様のことはエルヴィーノ様から伺っております」
エルヴィーノ様は私のことをどういう風に仰っているんだろう…
すごく気になったが、初対面の人に訊くのも…と思って黙って速足のブリーツィオについて行った。
これまでに見たこともないお姫様のお部屋のような、豪華な室礼の部屋に圧倒されながら晩餐用のドレスに着替えて(ちゃんとアリアンナがいてくれた)、夕食をエルヴィーノ様と一緒に摂った。
エルヴィーノ様は都にまつわる面白い話をたくさんしてくれて、私は終始笑いっぱなしだった。
食事中に声を上げて笑うなんて、貴族の令嬢としてはあるまじきはしたない態度だけれど、エルヴィーノ様の朗らかで温かい雰囲気は私にとっては懐かしいものだった。
まるでシエーラの家に帰ったような、この日の楽しい食卓の風景はその後ずっと私の心に残った。
翌日は、朝早くにエセルバート様が訪ねてきて、私は昨日の蛮行についてこってり叱られた。
訓練中のように大声で怒鳴られるのかと思っていたら、静かに諭すように理を説かれ、私は自分が如何に愚かな行為をしたのかを思い知らされて、心から反省し謝罪した。
ディーノも叱られただろうかと心配になったが、エセルバート様がとりなしてくださって、懲罰は無しとのことで安心した。
兄上に会うのだからと今日のお稽古も無しになって、私は今日は厳しく指導されるだろうと思っていたので拍子抜けした。
アレク様にも昨日の話は伝わってしまったのだろうか…
どう思われたかと考えると、不安で居ても立ってもいられない気分に襲われる。
朝食後にヴァネッサに会おうとしたのだけど、顔が腫れていて恥ずかしいと言い、部屋から出てこなかった。
相変わらずのワガママぶりに、私はホッとしたような怒りたいような複雑な気分だった。
山賊に襲われて恋人に裏切られ、人買いに売られて首都で娼婦をしていたなんて、元はお嬢さん育ちということを差し引いても相当辛いこともあったに違いない。
ワガママが言えるなら、少しは心のゆとりができたということなんだろう。
にぃ兄様と伯爵令嬢は夜にいらっしゃるということだった。
昼過ぎにフランシスカの弟のシプリアノが遊びに来てくれて、私は彼と久しぶりにさまざまな文学の話や最近の傾向などを話して旺盛に知識欲を満たした。
シプリアノもアレク様のお邸の図書室に行ったことがあると言い、その話でも盛り上がった。
エルヴィーノ様はそんな私たちを驚いたように眺めていた。
「クレメンティナの文学に対する知識はすごいな。
一緒に暮らすようになったらクレメンティナの好きな本を集めて図書館を作ろう」
と楽しそうに笑う。
その言葉を聞いて、私は気持ちが落ちるのを感じた。
私はまだ、エルヴィーノ様のプロポーズに対する答えは保留している状態、だと自分では思っている。
だけどエルヴィーノ様は、違うみたい。
もう、私が結婚を承諾したかのようにお振る舞いになる。
どうしたらいいんだろう。
お断りするほどの理由があるのか?
お父様を都から追い出した叔父の息子である従兄弟のエルヴィーノ様との結婚を、ステファネッリ家の家族はどう思うだろう。
快くは思わないだろうな…
にぃ兄様と会ってお話したい。
聡明なお兄様のお考えを聴きたい。
夕刻が近づくにつれ、私は挙動不審になって、エルヴィーノ様やアドルナートに笑われていた。
だけどそういうエルヴィーノ様だって心なし緊張なさっているように見える。
アレク様に作っていただいた可愛らしいドレスに着替えて、髪も流行りの若い女性向けの、前髪をちょっと取って膨らませた可愛い髪型にしてもらった。
エルヴィーノ様に勧められて、お茶を飲んで懸命に心を落ち着けていると、扉がコンコンとノックされ、ブリーツィオの落ち着いた声が聞こえた。
「申し上げます。
トランクウィッロ伯爵家ご令嬢ベアトリーチェ様ならびにステファネッリ子爵家ご令息セノフォンテ様がお越しでございます」
私は思わずお茶のカップを取り落としそうになり、「おっと!」とエルヴィーノ様が咄嗟に手を出して受け止めた。
カップのがちゃん!という耳障りな音も聞こえないほど、胸の高鳴る音が体中に鳴り響く。
にぃ兄様!
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