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第四章 謎解き
18.呼び出し
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手紙を書き終わったころ、ドアが遠慮がちにノックされた。
「クラリッサ、ちょっといいかい?」
バルトロの声がして、私は立ち上がってドアを開けた。
「バルトロ!久しぶり…」
「あ、やっぱここにいた!
そこの女の子!
アドルナートさんが呼んでるから来て」
バルトロは私の頭越しに部屋の中を覗き込み、ヴァネッサに目を留めて声をかける。
「あ、…はい」
ヴァネッサは返事をして立ちあがる。
「え?アドルナートが何を…?」
私が背の高いバルトロを見上げて抗議するように問うと、バルトロは私を見下ろして困ったように笑った。
「さあ…アドルナートさんのことだから、手の空いてる居候には何かしらの仕事をさせるんだろ。
クラリッサだって山賊討伐の館では、いろいろやらされていたじゃないか」
「私は、家事をするのは日常だったけど、この子は違うのよ。
シエーラの領主で、伯爵相当の地位のある方のお嬢さんなんだから」
生まれてからずっと、家のことなど何も、一切やったことがない。
「クレメンティナ、大丈夫よ。
あたし、都に来るまでの道中も、娼館でもいろいろとさせられたから。
エルヴィーノ様に、あんなにたくさんの金貨で娼館から身請けしていただいたんだし。
昨日はずっと休ませてもらったから、今日からは何か、やらないとだよね」
ヴァネッサは私を宥めるように、懸命に声をかけてくる。
「ヴァネッサ…」
私は、とてもあのヴァネッサの言葉とは思えず、呆然とヴァネッサを眺める。
ヴァネッサは苦笑して(そんな表情も初めて見た)、私とバルトロの方へ歩いてきた。
「この何か月で、あたし、社会のいろんな面を見たわ。
もう、あなたの知っているヴァネッサじゃない部分もあるわ」
一瞬、荒んでやさぐれたような光がヴァネッサの瞳を過り、私は息を呑んで立ちすくんだ。
…私なんかの想像もつかないような、酷い体験をしたのかもしれない。
私はヴァネッサを優しく抱擁する。
「そうね、でも生きていてくれて本当にありがとう」
「クレメンティナ…」
身体を離すと、バルトロが「早く行かないと。アドルナートさん気が短いから」と言ってヴァネッサを急かす。
そうだわ、私も最初、アドルナートに早くしろって怒鳴られたっけ。
「あっそうだ、クラリッサ」
バルトロは何かを思い出したように言って、部屋に入ってきた。
私の方へかがんで、内緒話のように声を潜めて話す。
「さっき外に、ディーノとかいう下男が来てて。
どうも、クラリッサを呼びに来たみたいなんだけど…伝言を取り次いでもらえないって言ってて。
エセル様?アレク様?なんだっけ、がサン=バルロッテ館にいるからとか…
だけど、これエルヴィーノ様とかブリーツィオに言ったらダメなやつだよな?」
アドルナートが朝食後には「後で問い合わせます」って言っていたのに…
取り次いでもらえないってどういうことかしら。
私は言い知れぬ不安が胸の中に広がり、私は「そうね、言わないでちょうだい。教えてくれてありがとう」と答えて、二人を送り出す。
それから私は急いで置手紙をしたためて、少し判りにくい場所に置いた。
帽子をかぶり、顔の前にベアトリーチェ様ほどではないけれど結構たっぷりドレープを取ったベールを垂らして部屋を出る。
あまり人が多くない邸ではあるけれど、それでも働く人が行き交っている。
誰にも会わないように祈りながら、私は速足でそっと食堂の掃き出し窓から外へ出た。
広くはない庭を横切り、小さな扉から邸の敷地を出て、横丁のような細い路地を歩いて表通りに出る。
あ…この道なら、何となく方向感覚がある。
西に向かって、大公様の居城の方向に歩いて行けばいいんだわ。
私はホッとして、速足で歩いていく。
昼過ぎの街路はすごく混雑していて、日差しが強い。
少し汗ばみながら、私は人々の喧騒の合間を縫って、サン=バルロッテ館を目指した。
「クラリッサ、ちょっといいかい?」
バルトロの声がして、私は立ち上がってドアを開けた。
「バルトロ!久しぶり…」
「あ、やっぱここにいた!
そこの女の子!
アドルナートさんが呼んでるから来て」
バルトロは私の頭越しに部屋の中を覗き込み、ヴァネッサに目を留めて声をかける。
「あ、…はい」
ヴァネッサは返事をして立ちあがる。
「え?アドルナートが何を…?」
私が背の高いバルトロを見上げて抗議するように問うと、バルトロは私を見下ろして困ったように笑った。
「さあ…アドルナートさんのことだから、手の空いてる居候には何かしらの仕事をさせるんだろ。
クラリッサだって山賊討伐の館では、いろいろやらされていたじゃないか」
「私は、家事をするのは日常だったけど、この子は違うのよ。
シエーラの領主で、伯爵相当の地位のある方のお嬢さんなんだから」
生まれてからずっと、家のことなど何も、一切やったことがない。
「クレメンティナ、大丈夫よ。
あたし、都に来るまでの道中も、娼館でもいろいろとさせられたから。
エルヴィーノ様に、あんなにたくさんの金貨で娼館から身請けしていただいたんだし。
昨日はずっと休ませてもらったから、今日からは何か、やらないとだよね」
ヴァネッサは私を宥めるように、懸命に声をかけてくる。
「ヴァネッサ…」
私は、とてもあのヴァネッサの言葉とは思えず、呆然とヴァネッサを眺める。
ヴァネッサは苦笑して(そんな表情も初めて見た)、私とバルトロの方へ歩いてきた。
「この何か月で、あたし、社会のいろんな面を見たわ。
もう、あなたの知っているヴァネッサじゃない部分もあるわ」
一瞬、荒んでやさぐれたような光がヴァネッサの瞳を過り、私は息を呑んで立ちすくんだ。
…私なんかの想像もつかないような、酷い体験をしたのかもしれない。
私はヴァネッサを優しく抱擁する。
「そうね、でも生きていてくれて本当にありがとう」
「クレメンティナ…」
身体を離すと、バルトロが「早く行かないと。アドルナートさん気が短いから」と言ってヴァネッサを急かす。
そうだわ、私も最初、アドルナートに早くしろって怒鳴られたっけ。
「あっそうだ、クラリッサ」
バルトロは何かを思い出したように言って、部屋に入ってきた。
私の方へかがんで、内緒話のように声を潜めて話す。
「さっき外に、ディーノとかいう下男が来てて。
どうも、クラリッサを呼びに来たみたいなんだけど…伝言を取り次いでもらえないって言ってて。
エセル様?アレク様?なんだっけ、がサン=バルロッテ館にいるからとか…
だけど、これエルヴィーノ様とかブリーツィオに言ったらダメなやつだよな?」
アドルナートが朝食後には「後で問い合わせます」って言っていたのに…
取り次いでもらえないってどういうことかしら。
私は言い知れぬ不安が胸の中に広がり、私は「そうね、言わないでちょうだい。教えてくれてありがとう」と答えて、二人を送り出す。
それから私は急いで置手紙をしたためて、少し判りにくい場所に置いた。
帽子をかぶり、顔の前にベアトリーチェ様ほどではないけれど結構たっぷりドレープを取ったベールを垂らして部屋を出る。
あまり人が多くない邸ではあるけれど、それでも働く人が行き交っている。
誰にも会わないように祈りながら、私は速足でそっと食堂の掃き出し窓から外へ出た。
広くはない庭を横切り、小さな扉から邸の敷地を出て、横丁のような細い路地を歩いて表通りに出る。
あ…この道なら、何となく方向感覚がある。
西に向かって、大公様の居城の方向に歩いて行けばいいんだわ。
私はホッとして、速足で歩いていく。
昼過ぎの街路はすごく混雑していて、日差しが強い。
少し汗ばみながら、私は人々の喧騒の合間を縫って、サン=バルロッテ館を目指した。
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