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第五章 宮廷
13.背信
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ヴァラリオーティ侯爵様は、ふらふらとお母様に近づきお母様の手からひったくるようにして手紙を受け取った。
億劫そうに広げて最初は胡散臭そうに眺めていた侯爵様の目が、次第に血走るように赤くなっていく。
そして、お母様が差し出しているネックレスを奪うようにして取ると、ペンダントヘッドについている大きな紅い石を蝋燭の光に透かして見た。
「スタールビー…この意匠も…
間違いない、私がフィアンメッタに贈ったものだ」
愕然としたように呟く侯爵様に、お母様は話しかける。
「フィアンメッタ様はステファノを南部に送るにあたり、万が一を考えて、どこの誰か判るように持たせておいたのでしょう。
母親の深い愛情が感じられますわ。
ステファノを手放される決意はどのようなものだったでしょう。
フィアンメッタ様の心情を想像すると、同じ母親として耐えがたい思いがいたします。
その愛情は今、こうやって、ステファノを助けてくれました」
手紙とネックレスを抱きしめ、侯爵様は膝をついて声を忍んで泣いているようだった。
エルヴィーノ様とにぃ兄様が侯爵様の横に跪いて、肩に手をかける。
「そこに居るセノフォンテが、そなたの息子のステファノで間違いないな?」
アレク様がまっすぐにヴァラリオーティ侯爵様を見据えて、低い声で問う。
侯爵様は顔を上げて、「…はい」と頷いた。
手を伸ばし、にぃ兄様の肩に手を置いて優しく撫でさする。
それからエルヴィーノ様の方を向いて、頭を下げる。
「二人とも…悪かった。
私は、自分の愚かな行為と不明を恥じる。
これからはヴァラリオーティの三男として、兄弟三人で力を合わせて、陛下をお援けしていってほしい」
お母様は「セノフォンテ…」と呟き、レオ兄様に寄り掛かり泣きだしてしまった。
レオ兄様は黙って、お母様の背を擦る。
「いえ、私は、セノフォンテ・ステファネッリでございます、これからもずっと。
ヴァラリオーティを名乗るつもりはありません。
今ここで、侯爵殿にステファノであるとお認めいただいたので、それで結構でございます。
愛する人と結婚するために、その肩書が必要でした」
凛として声を張り、にぃ兄様は扉の方を振り返った。
黒いベールを胸の前まで垂らした女性がそこにいた。
にぃ兄様は立ち上がって女性の許へ行き、手を引いてアレク様の前に来た。
「大公陛下、教皇様。
私とベアトリーチェ・トランクウィッロ嬢の結婚をお許しいただけますか?」
いつの間にか背後にいらしていた、大きな白い帽子を被った教皇様が、アレク様と声を合わせて「許可しよう」と仰って、私は思わず拍手する。
大広間にいた人たちも、温かい拍手を送ってくれる(多分、何のことか判ってないだろうけど)。
にぃ兄様とベアトリーチェ様は深々と一礼して「ありがとうございます」と声を揃え、それからお母様の方へ歩いて行った。
にぃ兄様はお母様を優しく抱擁する。
お母様は縋るようににぃ兄様に抱きついた。
「父上、ヴァラリオーティ侯爵家が恒久的に存続するためには、その地位からも政治からも身を引いていただかなくてはなりません」
男性にしては高い声で冷たく言い放ったのは、侯爵様の後ろにいて事の経緯を見守っていた男の人だった。
侯爵家のご長男だったのか…そう言えば、整った顔立ちが侯爵様に似ていらっしゃる。
怜悧な双眸はまっすぐに侯爵様を見据え、侯爵様はまた青くなって「…なんだと?」と震える声を発する。
「先程、エルヴィーノがちらっと申しておりましたが…
あなたの度が過ぎた野心につきあって、共に滅びる気はありません。
とっとと退いて、私に侯爵の位を譲ってください」
怒りを含んだ声で、しかし冷静に静かに言うご長男を、侯爵様は見つめて「何を…突然。お前はいつでも私の味方ではなかったのか?」と声を絞り出す。
「そなたが隣国の貴族と結託して、南部シエーラの領主を懐柔し、挙兵しようとしていることは既に漏洩している。
そのために南西部で地方の豪族たちの小競り合いをわざと起こしたのだろう?
できの悪い息子のエルヴィーノの功績をどうにかして作ってやりたい思いもあっただろうが」
アレク様が言い、エルヴィーノ様は床に拳をついてうつむく。
えっ…どういうこと?
シエーラの領主って、…まさか?!
億劫そうに広げて最初は胡散臭そうに眺めていた侯爵様の目が、次第に血走るように赤くなっていく。
そして、お母様が差し出しているネックレスを奪うようにして取ると、ペンダントヘッドについている大きな紅い石を蝋燭の光に透かして見た。
「スタールビー…この意匠も…
間違いない、私がフィアンメッタに贈ったものだ」
愕然としたように呟く侯爵様に、お母様は話しかける。
「フィアンメッタ様はステファノを南部に送るにあたり、万が一を考えて、どこの誰か判るように持たせておいたのでしょう。
母親の深い愛情が感じられますわ。
ステファノを手放される決意はどのようなものだったでしょう。
フィアンメッタ様の心情を想像すると、同じ母親として耐えがたい思いがいたします。
その愛情は今、こうやって、ステファノを助けてくれました」
手紙とネックレスを抱きしめ、侯爵様は膝をついて声を忍んで泣いているようだった。
エルヴィーノ様とにぃ兄様が侯爵様の横に跪いて、肩に手をかける。
「そこに居るセノフォンテが、そなたの息子のステファノで間違いないな?」
アレク様がまっすぐにヴァラリオーティ侯爵様を見据えて、低い声で問う。
侯爵様は顔を上げて、「…はい」と頷いた。
手を伸ばし、にぃ兄様の肩に手を置いて優しく撫でさする。
それからエルヴィーノ様の方を向いて、頭を下げる。
「二人とも…悪かった。
私は、自分の愚かな行為と不明を恥じる。
これからはヴァラリオーティの三男として、兄弟三人で力を合わせて、陛下をお援けしていってほしい」
お母様は「セノフォンテ…」と呟き、レオ兄様に寄り掛かり泣きだしてしまった。
レオ兄様は黙って、お母様の背を擦る。
「いえ、私は、セノフォンテ・ステファネッリでございます、これからもずっと。
ヴァラリオーティを名乗るつもりはありません。
今ここで、侯爵殿にステファノであるとお認めいただいたので、それで結構でございます。
愛する人と結婚するために、その肩書が必要でした」
凛として声を張り、にぃ兄様は扉の方を振り返った。
黒いベールを胸の前まで垂らした女性がそこにいた。
にぃ兄様は立ち上がって女性の許へ行き、手を引いてアレク様の前に来た。
「大公陛下、教皇様。
私とベアトリーチェ・トランクウィッロ嬢の結婚をお許しいただけますか?」
いつの間にか背後にいらしていた、大きな白い帽子を被った教皇様が、アレク様と声を合わせて「許可しよう」と仰って、私は思わず拍手する。
大広間にいた人たちも、温かい拍手を送ってくれる(多分、何のことか判ってないだろうけど)。
にぃ兄様とベアトリーチェ様は深々と一礼して「ありがとうございます」と声を揃え、それからお母様の方へ歩いて行った。
にぃ兄様はお母様を優しく抱擁する。
お母様は縋るようににぃ兄様に抱きついた。
「父上、ヴァラリオーティ侯爵家が恒久的に存続するためには、その地位からも政治からも身を引いていただかなくてはなりません」
男性にしては高い声で冷たく言い放ったのは、侯爵様の後ろにいて事の経緯を見守っていた男の人だった。
侯爵家のご長男だったのか…そう言えば、整った顔立ちが侯爵様に似ていらっしゃる。
怜悧な双眸はまっすぐに侯爵様を見据え、侯爵様はまた青くなって「…なんだと?」と震える声を発する。
「先程、エルヴィーノがちらっと申しておりましたが…
あなたの度が過ぎた野心につきあって、共に滅びる気はありません。
とっとと退いて、私に侯爵の位を譲ってください」
怒りを含んだ声で、しかし冷静に静かに言うご長男を、侯爵様は見つめて「何を…突然。お前はいつでも私の味方ではなかったのか?」と声を絞り出す。
「そなたが隣国の貴族と結託して、南部シエーラの領主を懐柔し、挙兵しようとしていることは既に漏洩している。
そのために南西部で地方の豪族たちの小競り合いをわざと起こしたのだろう?
できの悪い息子のエルヴィーノの功績をどうにかして作ってやりたい思いもあっただろうが」
アレク様が言い、エルヴィーノ様は床に拳をついてうつむく。
えっ…どういうこと?
シエーラの領主って、…まさか?!
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