身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

文字の大きさ
94 / 172
第五章 宮廷

14.剥奪と付与

しおりを挟む
 ヴァラリオーティ侯爵様は呆然として、アレク様、エルヴィーノ様を見回し、最後にご長男を見た。
 「ちょ…っと待ってくれ…
 今、何が起きている?」

 そしてアレク様の後ろに控える、宰相様に目を遣って、そこに自分と同じ驚きを見て取ったらしい。
 私が宰相様の方を見ると、宰相様は驚愕の表情でアレク様を見つめていた。

 アレク様はふっと皮肉な笑いをこぼす。
 「俺は、短気で浅慮で尊大で頭の悪い暴君だと。
 世間巷間には思われているらしいな?
 ま、その通りだよ。
 しかし、国の存亡にかかわる危機に気づかないほどのバカじゃないんだな。
 残念だったなあ?」

 そう言って、アレク様は侯爵様を射貫くように見据えた。
 アレク様の表情が真剣なものに変わり、纏っている空気もぴりっと張りつめた。

 「アルフレード・ヴァラリオーティ。
 あなたには、宰相と同じように幼いころからとても世話になってきた。
 ともすれば宰相を凌ぐほどのそなたの野心には、小さいころから気づいていた。
 いつか何かが起こる、そう思っていた」

 「今回の愛妾候補にまつわる、山賊たちの突然のおかしいほどの暗躍、討伐隊の苦戦に加えて。
 唐突な南部の小競り合い、しかし首謀者が見当たらない。
 誰がどこで最初にこんなことを起こしたのかが見えない。
 誰かが裏で糸を引いているように感じた。
 俺としては、いよいよだなと」

 アレク様は私の腰に回していた手を離し、エルヴィーノ様に近づいて手を差し伸べて立たせ、二人並んで侯爵様を見下ろす。
 ご長男もお二人の隣に来た。

 「エルヴィーノとステファノの件で、幼かったがゆえに知らなかった、そなたとキアッフレードの話を初めて調べてみた。
 実の兄に濡れ衣を着せ、ありもしない罪に陥れて、都に一生幽閉しようとしたんだな。
 キアッフレードの方が先回りして南部に逃げて、子爵令嬢と結婚した。
 そのことすらも、自分の手柄のように吹聴して居たそうじゃないか」

 「そして今度の、南部の蜂起だ。
 俺が何も知らないとでも?
 宰相に次ぐ、盲目の馬鹿だなお前は」

 空気の入れ替えに窓が少し開けられ始めた。
 大広間の蝋燭が、大勢の小姓たちの手によって端から取り替えられていく。
 何事が起こるのかと、固唾を飲んで見守っている聴衆は、新鮮な空気にほっとしたように息をついた。

 明るくなった大広間に、アレク様の声が響く。
 「余の権限において、アルフレードの爵位を剥奪し、キアッフレードに返還する。
 アルフレードの長男のバルダッサーレが後を襲うか?
 それとも…」

 アレク様は視線を上げて、レオ兄様を見た。
 レオ兄様は息を呑んで、居住まいを正す。
 「キアッフレードの長男の、レオンツィオに付与するか?」

 「お待ちください!
 そんな…急に…私は今まで、暴君のあなた様に黙って仕えてきた!
 政治のことや宮廷内のあれこれを、幼いころから、貴方様にご教授申し上げたのは私だ!」
 「だからといって、俺を傀儡の大公にし、宰相を追い落として摂政になろうなどというのは、度が過ぎた夢だな。
 この場でそなたを断罪し、爵位剥奪くらいで済ませてやるのは、今までのそなたの功績に対する、余の温情である!」

 だんだん声が大きくなり、最後は大喝する。
 そんなアレク様を見て、何か言おうとするけど言葉が出てこない様子で、侯爵様は紙のように白い顔色になり、がっくりと両手を床についた。

 「さて…どうする?
 俺が決めてやっても良いが…
 禍根を残すことになっては良くないしな」
 アレク様は、レオ兄様とバルダッサーレ様を交互に見る。

 「私は…幼いころから、父の姿を見て育ってまいりました。
 父は、度外れた途方もない野心家ですが、仕事はできたと思いますし、立ち居振る舞いも宮廷の中では際立っていました。
 私は父のような野心はないし、お恥ずかしいがその能力もない。
 こう申してはなんですが、南部育ちでいらっしゃるレオンツィオ殿が、突然宮廷の重鎮として迎え入れられても、なかなか難しいのではあるまいか」

 バルダッサーレ様は、馬鹿にするふうでもなく、淡々と事実を述べる。
 レオ兄様はぎゅっと拳を握りしめた。
 お母様とにぃ兄様が心配そうに寄り添う。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

処理中です...