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第七章 焦土
1.シエーラの現況
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シエーラの土地が見渡せる丘の上に着いたとき、私はあまりの惨状に眩暈がした。
愛馬のグラディアトラスの首に思わずしがみつく私を、アレク様が「おっと!」と馬に乗ったまま支えてくれる。
「大丈夫かクレメンティナ!」
「あ、…申し訳ありません。
大丈夫です」
眼下に広がる、豊かな緑があふれ実りの秋を迎えたはずのシエーラの自然は…
戦火に焼かれ、見るも無残な焼け野原と化していた。
ところどころに畑が残っているのが見えるが、それも焼けてしまうのは時間の問題のように見えた。
「普通は収穫が終わってから、宣戦布告してくるのが常識なんだが…
侵略だからそれは関係ないにしても、市街戦や農村は避けるべきだ。
隣国コルーミャの領主も、ペデルツィーニとやらも、前のヴァラリオーティ侯爵も気が狂ってるとしか思えんな」
アレク様は苦い表情で呟く。
春に種蒔いて半年かけて大事に育て、漸く秋に実りを迎えた作物を…
貧しいながらも神に自然に感謝して生きる人々の暮らしを支える、大切な糧を…
私は腹の底から湧いてくる怒りが抑えられなかった。
「…許さないわ」
思わず知らず声に出していた。
「そうだ、これはお前の故郷の話だけではない。
ダリスカーナ大公に盾突いた者の末路を、国の内外に見せつけてやる」
力強くアレク様は言い、「行くぞ皆!この美しい地方を我らが手に取り返すのだ!」と大きく声を上げた。
おお!とあちこちから呼応する声が聞こえる。
「女性や子供は、堰の向こうへ避難している。
ひとまずは安心だと思う。
昨日、俺たちより遅れて到着した隊の中に、ヴァネッサがいる」
エルヴィーノ様が馬を駆って私の隣へきて話しかける。
「ヴァネッサも、その女性たちの方へ合流させたいのだが…
本人が、自分は領主の娘なのだから、領主館へ帰って投降するように父親を説得すると言ってきかないんだ」
アレク様に続いて出発しながら困り果てたように話すエルヴィーノ様の隣に並ぶように、私も手綱を取った。
「ヴァネッサが…さようでございますか。
父親に背いて駆け落ちしたことを、彼女なりに責任を感じているのでしょうけど…
父親を嫌っておりましたので、説得と申しましても、あまりうまくいくとは思えませんわ」
私はため息交じりに答える。
「わたくしがヴァネッサに会って、話をいたします。
とりあえずは避難するように、説得いたしますわ」
「そうか、それは助かる。
正直なところ、どうして良いか判らなかった。
もし、娘の言うことなら聞くのだとしたら、会わせた方が良いのかとも思ったのだが、今はまだ停戦交渉も始められていない状態で、送り出すのも危険だから」
ホッとしたように言った後、エルヴィーノ様は「手綱さばきが堂に入っているな、上手いものだ。さすがエセルバートに手ほどきを受けただけはある」と感心したように私を眺めた。
「あ、ありがとうございます」
私は照れてしまってお礼を言う。
「その甲冑は…アレクから?」
「あ、はい、いつの間にか作ってくださっていたようで」
「クレメンティナにとてもよく似合っている。
…甲冑を似合っているというのもおかしな話だが、あなたのイメージにぴったりのような気がする。
戦いの女神、と言ったところか、勝利の女神だな」
エルヴィーノ様は「アレクには適わない、やっぱり」と寂しく呟いてスピードを上げ、先頭の方へ行ってアレク様に並んだ。
二人で何事か話している。
エルヴィーノ様のことは…お兄様のように感じ始めていることに気づいた。
とても頼りになる、お兄様が一人増えたという感覚。
エルヴィーノ様には大変申し訳ないと思うけれど、アレク様への想いが私のすべてを支配している今は、エルヴィーノ様を異性として見ることがまったくなくなってしまった。
願わくは、この戦に勝利して都に帰り、エルヴィーノ様に相応しい素晴らしい女性が現れんことを。
愛馬のグラディアトラスの首に思わずしがみつく私を、アレク様が「おっと!」と馬に乗ったまま支えてくれる。
「大丈夫かクレメンティナ!」
「あ、…申し訳ありません。
大丈夫です」
眼下に広がる、豊かな緑があふれ実りの秋を迎えたはずのシエーラの自然は…
戦火に焼かれ、見るも無残な焼け野原と化していた。
ところどころに畑が残っているのが見えるが、それも焼けてしまうのは時間の問題のように見えた。
「普通は収穫が終わってから、宣戦布告してくるのが常識なんだが…
侵略だからそれは関係ないにしても、市街戦や農村は避けるべきだ。
隣国コルーミャの領主も、ペデルツィーニとやらも、前のヴァラリオーティ侯爵も気が狂ってるとしか思えんな」
アレク様は苦い表情で呟く。
春に種蒔いて半年かけて大事に育て、漸く秋に実りを迎えた作物を…
貧しいながらも神に自然に感謝して生きる人々の暮らしを支える、大切な糧を…
私は腹の底から湧いてくる怒りが抑えられなかった。
「…許さないわ」
思わず知らず声に出していた。
「そうだ、これはお前の故郷の話だけではない。
ダリスカーナ大公に盾突いた者の末路を、国の内外に見せつけてやる」
力強くアレク様は言い、「行くぞ皆!この美しい地方を我らが手に取り返すのだ!」と大きく声を上げた。
おお!とあちこちから呼応する声が聞こえる。
「女性や子供は、堰の向こうへ避難している。
ひとまずは安心だと思う。
昨日、俺たちより遅れて到着した隊の中に、ヴァネッサがいる」
エルヴィーノ様が馬を駆って私の隣へきて話しかける。
「ヴァネッサも、その女性たちの方へ合流させたいのだが…
本人が、自分は領主の娘なのだから、領主館へ帰って投降するように父親を説得すると言ってきかないんだ」
アレク様に続いて出発しながら困り果てたように話すエルヴィーノ様の隣に並ぶように、私も手綱を取った。
「ヴァネッサが…さようでございますか。
父親に背いて駆け落ちしたことを、彼女なりに責任を感じているのでしょうけど…
父親を嫌っておりましたので、説得と申しましても、あまりうまくいくとは思えませんわ」
私はため息交じりに答える。
「わたくしがヴァネッサに会って、話をいたします。
とりあえずは避難するように、説得いたしますわ」
「そうか、それは助かる。
正直なところ、どうして良いか判らなかった。
もし、娘の言うことなら聞くのだとしたら、会わせた方が良いのかとも思ったのだが、今はまだ停戦交渉も始められていない状態で、送り出すのも危険だから」
ホッとしたように言った後、エルヴィーノ様は「手綱さばきが堂に入っているな、上手いものだ。さすがエセルバートに手ほどきを受けただけはある」と感心したように私を眺めた。
「あ、ありがとうございます」
私は照れてしまってお礼を言う。
「その甲冑は…アレクから?」
「あ、はい、いつの間にか作ってくださっていたようで」
「クレメンティナにとてもよく似合っている。
…甲冑を似合っているというのもおかしな話だが、あなたのイメージにぴったりのような気がする。
戦いの女神、と言ったところか、勝利の女神だな」
エルヴィーノ様は「アレクには適わない、やっぱり」と寂しく呟いてスピードを上げ、先頭の方へ行ってアレク様に並んだ。
二人で何事か話している。
エルヴィーノ様のことは…お兄様のように感じ始めていることに気づいた。
とても頼りになる、お兄様が一人増えたという感覚。
エルヴィーノ様には大変申し訳ないと思うけれど、アレク様への想いが私のすべてを支配している今は、エルヴィーノ様を異性として見ることがまったくなくなってしまった。
願わくは、この戦に勝利して都に帰り、エルヴィーノ様に相応しい素晴らしい女性が現れんことを。
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