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第七章 焦土
2.説得
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シエーラの端に位置する場所に、大小の天幕がいくつも張られ、私たちは兵士達に大歓待されて大きな天幕に入った。
「お待ちしておりました、大公陛下!」
天幕の中で畏まってお辞儀をしていたのは。
「にぃ兄様!」
私は甲冑の重さも気にならないくらい嬉しくて、ガシャガシャと音を立てながらにぃ兄様に近づく。
「えっ!クレメンティナ?!
っ…様?!」
やはり少し痩せたように見えるにぃ兄様は驚愕したように私の顔を見て、慌てて言い直した。
「どうして…おま、いや、貴女がここへ?」
「今まで通りで結構ですわ、にぃ兄様」
私は可笑しくなって、笑いながら答えた。
「どうしても行くって言って聞かないんだよ。
新婚旅行兼、里帰り代わりに戦場に連れてきちまった。
俺も大概、甘いよなあ」
アレク様が部下に手伝わせて甲冑を脱ぎながらぼやく。
「ま、役には立つから。
本人もお飾りで居る気はないから、遠慮なく使ってやって。
ただし前線に出すことは許さない」
「あ…はぁ…畏まりました」
にぃ兄様は毒気を抜かれたように答え、アレク様はそんなにぃ兄様を見ながら笑いを含んだ声で言った。
「クレメンティナ、お前も甲冑は脱げ、重いだろう。
時間がない、会議を始めるぞ。
参謀長を呼べ」
デメトリアやフランシスカの乗った馬車はまだ到着していない。
どうやってこれ脱ぐのかな、ひとりじゃ無理だし。
そう思っていると、兵長に連れられて大きな天幕を出て少し小さいテントに移動する。
「クレメンティナ!いえ、お妃様!」
テントの入り口を守っていた衛兵が畏まって布を上げると、中に女の子が二人ほどいて、ひとりが嬉しそうに声を上げた。
「ヴァネッサ!」
私も大きな声で言って、抱きついてくるヴァネッサを受け止める。
「お妃様。
某はこの天幕の外におります。
お召し替えがお済みになりましたらお声がけください」
中年にさしかかったという年頃の兵長は丁寧に言って頭を下げた。
兵長が出て行くと、私は「これ、どうやるか判る?」とヴァネッサに訊いた。
「はい、先ほどレクチャーを受けました」
ヴァネッサはそう言って、もう一人の、ヴァネッサと同じくらいの年頃の子と二人で、ちょっと苦労しながら脱がせてくれた。
アンダーウェアに短衣を着て、乗馬用の長靴を履く。
着替えながら、私はヴァネッサに先程エルヴィーノ様と話したことを言い、説得を試みる。
「ヴァネッサの気持ちは判るわ。
お館様が、いくら侯爵様に唆されたからと言って、隣国の領主と結託して蜂起するだなんて、わたくしだって信じられない。
だけど、あなたが今急に姿を現して説得をしても…どうなのかしら」
まさかとは思うけれど。
却って人質にされる可能性は絶対にない、とは言い切れない。
私はお館様という人を全く信用していない。
私を娘の身代わりにして都へ行かせ、しかも交換条件に出したはずのことは簡単に反故にして、レオ兄様に薬を盛って騙した人を、信じられるわけがない。
私利私欲のためならどんなことでもする人だ。
「判ってるわ。
私だって、ここまでのことをしでかしてしまったお父様が、私ごときの説得でそう簡単に気持ちを変えるとは思っていない。
だけど…」
ヴァネッサは声を震わせぎゅっと粗末なドレスのスカートを握りしめる。
「今なら、お父様が自分から投降すればまだ少しは罪が軽くなるかもしれない。
最悪の刑は、免れられるかもしれない。
あんな人だけど…私にとっては可愛がってくれた父親なの。
もしかしたら、勢いで始めてしまって今頃後悔しているかもしれない、そう思うと、このまま自分だけ避難することはできないの」
ぽろぽろと涙をこぼすヴァネッサを、私は優しく抱きしめた。
「判ったわ。
わたくしもあなたと一緒に、お館様のところへ行くわ」
私が言うと、「えっ?!はっ?!」とヴァネッサは驚いて私の顔を見た。
いつの間にか私と同じくらいの背丈になっていたヴァネッサの、少し大人びた顔を見ながら、私は手を上げてヴァネッサの髪を撫で、微笑みかけた。
「ヴァネッサとにぃ兄様と一緒にシエーラに帰る。
わたくしが都へ連れて行かれたときに、強く心に誓ったの。
それを実行するだけよ」
「お待ちしておりました、大公陛下!」
天幕の中で畏まってお辞儀をしていたのは。
「にぃ兄様!」
私は甲冑の重さも気にならないくらい嬉しくて、ガシャガシャと音を立てながらにぃ兄様に近づく。
「えっ!クレメンティナ?!
っ…様?!」
やはり少し痩せたように見えるにぃ兄様は驚愕したように私の顔を見て、慌てて言い直した。
「どうして…おま、いや、貴女がここへ?」
「今まで通りで結構ですわ、にぃ兄様」
私は可笑しくなって、笑いながら答えた。
「どうしても行くって言って聞かないんだよ。
新婚旅行兼、里帰り代わりに戦場に連れてきちまった。
俺も大概、甘いよなあ」
アレク様が部下に手伝わせて甲冑を脱ぎながらぼやく。
「ま、役には立つから。
本人もお飾りで居る気はないから、遠慮なく使ってやって。
ただし前線に出すことは許さない」
「あ…はぁ…畏まりました」
にぃ兄様は毒気を抜かれたように答え、アレク様はそんなにぃ兄様を見ながら笑いを含んだ声で言った。
「クレメンティナ、お前も甲冑は脱げ、重いだろう。
時間がない、会議を始めるぞ。
参謀長を呼べ」
デメトリアやフランシスカの乗った馬車はまだ到着していない。
どうやってこれ脱ぐのかな、ひとりじゃ無理だし。
そう思っていると、兵長に連れられて大きな天幕を出て少し小さいテントに移動する。
「クレメンティナ!いえ、お妃様!」
テントの入り口を守っていた衛兵が畏まって布を上げると、中に女の子が二人ほどいて、ひとりが嬉しそうに声を上げた。
「ヴァネッサ!」
私も大きな声で言って、抱きついてくるヴァネッサを受け止める。
「お妃様。
某はこの天幕の外におります。
お召し替えがお済みになりましたらお声がけください」
中年にさしかかったという年頃の兵長は丁寧に言って頭を下げた。
兵長が出て行くと、私は「これ、どうやるか判る?」とヴァネッサに訊いた。
「はい、先ほどレクチャーを受けました」
ヴァネッサはそう言って、もう一人の、ヴァネッサと同じくらいの年頃の子と二人で、ちょっと苦労しながら脱がせてくれた。
アンダーウェアに短衣を着て、乗馬用の長靴を履く。
着替えながら、私はヴァネッサに先程エルヴィーノ様と話したことを言い、説得を試みる。
「ヴァネッサの気持ちは判るわ。
お館様が、いくら侯爵様に唆されたからと言って、隣国の領主と結託して蜂起するだなんて、わたくしだって信じられない。
だけど、あなたが今急に姿を現して説得をしても…どうなのかしら」
まさかとは思うけれど。
却って人質にされる可能性は絶対にない、とは言い切れない。
私はお館様という人を全く信用していない。
私を娘の身代わりにして都へ行かせ、しかも交換条件に出したはずのことは簡単に反故にして、レオ兄様に薬を盛って騙した人を、信じられるわけがない。
私利私欲のためならどんなことでもする人だ。
「判ってるわ。
私だって、ここまでのことをしでかしてしまったお父様が、私ごときの説得でそう簡単に気持ちを変えるとは思っていない。
だけど…」
ヴァネッサは声を震わせぎゅっと粗末なドレスのスカートを握りしめる。
「今なら、お父様が自分から投降すればまだ少しは罪が軽くなるかもしれない。
最悪の刑は、免れられるかもしれない。
あんな人だけど…私にとっては可愛がってくれた父親なの。
もしかしたら、勢いで始めてしまって今頃後悔しているかもしれない、そう思うと、このまま自分だけ避難することはできないの」
ぽろぽろと涙をこぼすヴァネッサを、私は優しく抱きしめた。
「判ったわ。
わたくしもあなたと一緒に、お館様のところへ行くわ」
私が言うと、「えっ?!はっ?!」とヴァネッサは驚いて私の顔を見た。
いつの間にか私と同じくらいの背丈になっていたヴァネッサの、少し大人びた顔を見ながら、私は手を上げてヴァネッサの髪を撫で、微笑みかけた。
「ヴァネッサとにぃ兄様と一緒にシエーラに帰る。
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それを実行するだけよ」
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