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第七章 焦土
3.領主館からの急使
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「ダメだ」
アレク様のいる天幕に戻り、ヴァネッサと一緒に停戦交渉に行きたいと言うと、アレク様に言下に却下されてしまった。
その場にいたエセルバート様、エルヴィーノ様、オズヴァルド様、それににぃ兄様も「とんでもない!」と首を横に振る。
「何を考えてんだ、冗談もほどほどにしてくれ」
アレク様は呆れたように言って、また広げた地図の上に屈みこむ。
「参謀長、話を続けろ」
「聞いてください、アレク様!」
私は必死にアレク様に話しかける。
「クレメンティナ様!
今は会議中でございますよ!」
書類から目を上げて、にぃ兄様が厳しい声で言う。
その目は真剣で、私は見たことのないにぃ兄様の怖いような表情に、一瞬怯む。
「…いえ、黙りません。
ヴァネッサと一緒に、領主館へ行かせてください」
私が尚も言いつのると、アレク様はため息をついて振り返り、後ろ手にテーブルに手をついて私を見た。
「領主館の動きが不穏なんだよ。
すごく危険なんだ」
「…どういうことですか?」
アレク様の言葉に、私は怪訝に思って問い返す。
昨日までの報告では、市街戦は繰り広げられてはいるものの、ペデルツィーニや隣国の領主が占拠している領主館はそれほど被害が出ていなかったはず。
そうでなかったら、私だって自分はともかくヴァネッサを連れて行こうとは思わなかっただろう。
「昨日急使が来て、父上と兄上の連名の手紙を持ってきた」
エルヴィーノ様が一通の手紙をアンダーウェアのポケットから出す。
前ヴァラリオーティ侯爵様(エルヴィーノ様のお父様・私の叔父)は、失脚した後、息子の新ヴァラリオーティ侯爵様(エルヴィーノ様のお兄様・私の従兄で養子縁組する予定)の説得に、この南部の蜂起は間違っている、即刻兵を引き上げて欲しいとペデルツィーニに何度も書き送ったそうだ。
しかし、急にそんなことを言われてもできない何の冗談だと、当初は信じていなかったペデルツィーニは、どうやら前ヴァラリオーティ侯爵様が本気でこの戦から手を引こうとしていると感じて、隣国の領主とますます深く絆を結び、領主館で籠城しようとしている、とエルヴィーノ様は言った。
「さまざまな物資が領主館に運び込まれようとしていて、俺たちはそれを阻止している。
レオンツィオがゲリラ戦で、殆ど奪い取っていると思われる」
「奥方様はっ?」
「判らない。
領主館にいる女たちは誰も家に帰されていない。
中にいるんだろうが…」
エルヴィーノ様は暗澹たる表情になった。
「だから今、領主館に行くのは本当に危険なんだ。
ましてや娘やクレメンティナ様がのこのこ顔を出したら…
間違いなく人質に取られて、向こうに有利な交渉に持ち込む材料にされるだろう」
「判ったかクレメンティナ。
ペデルツィーニは今や手負いの獣だ。
まともな交渉ができると思うな」
アレク様も怖い声で言う。
「でも…女性だけでも解放させるように言わなければ…」
私は奥方様の優しい笑顔を思い出しながら、泣きそうになって言う。
「そんなことは何度もやっています。
しかし使者が帰って来なかったり、遺体となって帰ってきたりで話にならないのですよ」
オズヴァルド様が難しい顔で腕組みをした。
「停戦交渉に向けては、こちらも必死でやっている。
娘を行かせるのは、敵の体力をもっと削って、戦意を喪失してからだ」
アレク様が言い、またテーブルの方へ向き直った。
「お前は俺の傍にいろクレメンティナ。
都へ返すぞ、あまり我儘を言うと」
そう言われて、私はぐっと唇を噛んだ。
エセルバート様が慰めるように私の肩をぽんと叩く。
「…意外とどの道も狭いんだな。
ここに来てみて実感した。
戦車が通れるような道幅があるところは殆どないのだな」
「さようでございます。
農道が主でございまして、なるべく多く作物を収穫するため、できる限り畑の面積を増やしております」
にぃ兄様が答えると、アレク様は顎に手を当て、考え込むように少し黙った。
「農作物を踏み荒らすのは気が引けるが…
ここと、ここから中隊で攻め込むのがいいのかもな。
地盤はどうだ、大型の武器を支えられるか」
「小麦の畑は夏前に収穫を終わらせておりますから、今は家畜の飼料になる作物などが少し植わっているくらいで、殆ど乾いていると存じます」
「判った」
その時、天幕の外が慌ただしくなり、閉じた入り口の向こうで参謀次長の切羽詰まったような声がした。
「申し上げます!
領主館より、使いが参りました!
お目通りを願います!」
アレク様のいる天幕に戻り、ヴァネッサと一緒に停戦交渉に行きたいと言うと、アレク様に言下に却下されてしまった。
その場にいたエセルバート様、エルヴィーノ様、オズヴァルド様、それににぃ兄様も「とんでもない!」と首を横に振る。
「何を考えてんだ、冗談もほどほどにしてくれ」
アレク様は呆れたように言って、また広げた地図の上に屈みこむ。
「参謀長、話を続けろ」
「聞いてください、アレク様!」
私は必死にアレク様に話しかける。
「クレメンティナ様!
今は会議中でございますよ!」
書類から目を上げて、にぃ兄様が厳しい声で言う。
その目は真剣で、私は見たことのないにぃ兄様の怖いような表情に、一瞬怯む。
「…いえ、黙りません。
ヴァネッサと一緒に、領主館へ行かせてください」
私が尚も言いつのると、アレク様はため息をついて振り返り、後ろ手にテーブルに手をついて私を見た。
「領主館の動きが不穏なんだよ。
すごく危険なんだ」
「…どういうことですか?」
アレク様の言葉に、私は怪訝に思って問い返す。
昨日までの報告では、市街戦は繰り広げられてはいるものの、ペデルツィーニや隣国の領主が占拠している領主館はそれほど被害が出ていなかったはず。
そうでなかったら、私だって自分はともかくヴァネッサを連れて行こうとは思わなかっただろう。
「昨日急使が来て、父上と兄上の連名の手紙を持ってきた」
エルヴィーノ様が一通の手紙をアンダーウェアのポケットから出す。
前ヴァラリオーティ侯爵様(エルヴィーノ様のお父様・私の叔父)は、失脚した後、息子の新ヴァラリオーティ侯爵様(エルヴィーノ様のお兄様・私の従兄で養子縁組する予定)の説得に、この南部の蜂起は間違っている、即刻兵を引き上げて欲しいとペデルツィーニに何度も書き送ったそうだ。
しかし、急にそんなことを言われてもできない何の冗談だと、当初は信じていなかったペデルツィーニは、どうやら前ヴァラリオーティ侯爵様が本気でこの戦から手を引こうとしていると感じて、隣国の領主とますます深く絆を結び、領主館で籠城しようとしている、とエルヴィーノ様は言った。
「さまざまな物資が領主館に運び込まれようとしていて、俺たちはそれを阻止している。
レオンツィオがゲリラ戦で、殆ど奪い取っていると思われる」
「奥方様はっ?」
「判らない。
領主館にいる女たちは誰も家に帰されていない。
中にいるんだろうが…」
エルヴィーノ様は暗澹たる表情になった。
「だから今、領主館に行くのは本当に危険なんだ。
ましてや娘やクレメンティナ様がのこのこ顔を出したら…
間違いなく人質に取られて、向こうに有利な交渉に持ち込む材料にされるだろう」
「判ったかクレメンティナ。
ペデルツィーニは今や手負いの獣だ。
まともな交渉ができると思うな」
アレク様も怖い声で言う。
「でも…女性だけでも解放させるように言わなければ…」
私は奥方様の優しい笑顔を思い出しながら、泣きそうになって言う。
「そんなことは何度もやっています。
しかし使者が帰って来なかったり、遺体となって帰ってきたりで話にならないのですよ」
オズヴァルド様が難しい顔で腕組みをした。
「停戦交渉に向けては、こちらも必死でやっている。
娘を行かせるのは、敵の体力をもっと削って、戦意を喪失してからだ」
アレク様が言い、またテーブルの方へ向き直った。
「お前は俺の傍にいろクレメンティナ。
都へ返すぞ、あまり我儘を言うと」
そう言われて、私はぐっと唇を噛んだ。
エセルバート様が慰めるように私の肩をぽんと叩く。
「…意外とどの道も狭いんだな。
ここに来てみて実感した。
戦車が通れるような道幅があるところは殆どないのだな」
「さようでございます。
農道が主でございまして、なるべく多く作物を収穫するため、できる限り畑の面積を増やしております」
にぃ兄様が答えると、アレク様は顎に手を当て、考え込むように少し黙った。
「農作物を踏み荒らすのは気が引けるが…
ここと、ここから中隊で攻め込むのがいいのかもな。
地盤はどうだ、大型の武器を支えられるか」
「小麦の畑は夏前に収穫を終わらせておりますから、今は家畜の飼料になる作物などが少し植わっているくらいで、殆ど乾いていると存じます」
「判った」
その時、天幕の外が慌ただしくなり、閉じた入り口の向こうで参謀次長の切羽詰まったような声がした。
「申し上げます!
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お目通りを願います!」
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