129 / 172
第七章 焦土
9.ヴァネッサの乱入
しおりを挟む
「お父様!待って!
私よヴァネッサよ!」
ヴァネッサは髪を振り乱し、大声でペデルツィーニの背に向かって叫ぶ。
ペデルツィーニはその声を聴いて、弾かれたように足を止めて振り向く。
「…ヴァネッサか?!
本当に?!」
ヴァネッサは走ってペデルツィーニに抱きついた。
ペデルツィーニもヴァネッサの背に手を回して抱きしめる。
「心配かけてごめんなさい!
クレメンティナが…都で娼婦をしていた私を探し出して助けてくれたの!」
「娼婦…だと?
どうして、お前が、、」
「山賊に襲われて…ダニエーレが私を置き去りに逃げたの。
それで都へ連れて行かれて、売られたの…」
ヴァネッサの涙ながらの言葉を聞いて、ペデルツィーニはヴァネッサの身体を引きはがすようにして自分から離した。
ヴァネッサの肩をつかみ、揺さぶって大声で言う。
「ヴァネッサ・ペデルツィーニが…娼婦だと?!
何かの間違いだろ、なあ!
そんな汚らわしい…」
「お父様、痛い!
ごめんなさい、でも…」
痛がるヴァネッサの肩を揺さぶり、目をぎらつかせてペデルツィーニは続ける。
「じゃあ、クレメンティナもそうなんだな?!
娼館で会ったってことは…クレメンティナも娼婦だったんだな?!」
「違うわ!
クレメンティナは、そこにいらっしゃるエルヴィーノ・ヴァラリオーティ様に助けられて、首都の大公様の別宅にいたのよ。
私の身請けのお金は、エルヴィーノ様が支払ってくださったの!」
ヴァネッサの悲鳴のような声に、ペデルツィーニの身体からがくんと力が抜け、うつろな表情で呟くように言った。
「どうして…なぜこんなことになったんだ。
同じように山賊に襲われたのに…どうして逆じゃなかったんだ」
「私が悪かったの!
ごめんなさいお父様、我儘ばかり言って反省してる。
お父様とお母様を助けて生きていきたい。
だから、こんな反乱は止めて、お願い」
呆然自失の体で立ち尽くすペデルツィーニの姿は哀れで、嘆願するヴァネッサの声は悲痛で、私の胸は痛んだ。
ペデルツィーニの言う通り、私とヴァネッサの立場は逆だったかもしれないのだ。
そしてヴァネッサが山賊討伐隊に助けられ、名前を名乗ってシエーラに帰されていたならば。
ペデルツィーニはこんな無謀な蜂起は、しなかったかもしれない。
大広間の中の敵兵は、エルヴィーノ様とにぃ兄様がすべて倒してしまっていた。
メイド用の簡素なドレスとはいえ、動きにくい服を纏ってあれだけ動いたのに、息ひとつ切らさずに私の後ろに立ったエルヴィーノ様は、私の肩を抱いて頭に頬を寄せる。
「クレメンティナが泣くことじゃない。
あいつの言ってることは結果論で、クレメンティナだっていろんな事情に縛られて、つらい思いをたくさんしてきたんだ。
そもそも、ヴァネッサが大人しく愛妾候補として都に来ていれば、こんなことにはならなかったんだ」
「そうだよ、悪いのはすべてペデルツィーニだ。
結果として、今こうしているとしても、それはあいつのお陰じゃない。
あいつが何をしたのか、しているのか、しようとしているのか、すべてペデルツィーニ自身が償うべきことだ」
エルヴィーノ様とにぃ兄様はこもごもに言う。
私は頷いて、顔を上げた。
ペデルツィーニは悔しそうに拳を振る。
「ヴァネッサがこんな…汚らわしい状態になって帰ってくるなんて最悪だ。
こんなことなら、帰ってこないほうが良かった」
「そんな…」
酷い言葉に、ヴァネッサは言葉を失くして立ち尽くす。
「それはあまりに酷いわ、ペデルツィーニ!
ヴァネッサがどんな思いで過ごしていたか…」
私は思わず声をかける。
あのワガママお嬢だったヴァネッサが、こんなふうに素直に従順になった背景には、どれだけの猛省があったことだろう。
その猛省を生かし、幼いけれど澄んだ瞳でこの世界を見ようとしているヴァネッサに、そんな言葉を投げつけるなんて。
もっと私が言おうとしたとき、ペデルツィーニが出ようとしていた広間の奥の扉から「…ヴァネッサ!」とか弱い声が聞こえて、よろよろと姿を現したのは…
「お母様!」
ヴァネッサは叫ぶと、ペデルツィーニの横をすり抜けて広間の扉に向けて走った。
「ヴァネッサ!
…ああ、本当にヴァネッサなのね」
ヴァネッサにすがるように抱きつく奥方様の姿は…見ていられないくらいの窶れようで、私は目を逸らした。
「お母様、ごめんなさい本当に…」
ヴァネッサは号泣し、奥方様は天を仰いで「神様、感謝します」と呟いて涙をこぼした。
私よヴァネッサよ!」
ヴァネッサは髪を振り乱し、大声でペデルツィーニの背に向かって叫ぶ。
ペデルツィーニはその声を聴いて、弾かれたように足を止めて振り向く。
「…ヴァネッサか?!
本当に?!」
ヴァネッサは走ってペデルツィーニに抱きついた。
ペデルツィーニもヴァネッサの背に手を回して抱きしめる。
「心配かけてごめんなさい!
クレメンティナが…都で娼婦をしていた私を探し出して助けてくれたの!」
「娼婦…だと?
どうして、お前が、、」
「山賊に襲われて…ダニエーレが私を置き去りに逃げたの。
それで都へ連れて行かれて、売られたの…」
ヴァネッサの涙ながらの言葉を聞いて、ペデルツィーニはヴァネッサの身体を引きはがすようにして自分から離した。
ヴァネッサの肩をつかみ、揺さぶって大声で言う。
「ヴァネッサ・ペデルツィーニが…娼婦だと?!
何かの間違いだろ、なあ!
そんな汚らわしい…」
「お父様、痛い!
ごめんなさい、でも…」
痛がるヴァネッサの肩を揺さぶり、目をぎらつかせてペデルツィーニは続ける。
「じゃあ、クレメンティナもそうなんだな?!
娼館で会ったってことは…クレメンティナも娼婦だったんだな?!」
「違うわ!
クレメンティナは、そこにいらっしゃるエルヴィーノ・ヴァラリオーティ様に助けられて、首都の大公様の別宅にいたのよ。
私の身請けのお金は、エルヴィーノ様が支払ってくださったの!」
ヴァネッサの悲鳴のような声に、ペデルツィーニの身体からがくんと力が抜け、うつろな表情で呟くように言った。
「どうして…なぜこんなことになったんだ。
同じように山賊に襲われたのに…どうして逆じゃなかったんだ」
「私が悪かったの!
ごめんなさいお父様、我儘ばかり言って反省してる。
お父様とお母様を助けて生きていきたい。
だから、こんな反乱は止めて、お願い」
呆然自失の体で立ち尽くすペデルツィーニの姿は哀れで、嘆願するヴァネッサの声は悲痛で、私の胸は痛んだ。
ペデルツィーニの言う通り、私とヴァネッサの立場は逆だったかもしれないのだ。
そしてヴァネッサが山賊討伐隊に助けられ、名前を名乗ってシエーラに帰されていたならば。
ペデルツィーニはこんな無謀な蜂起は、しなかったかもしれない。
大広間の中の敵兵は、エルヴィーノ様とにぃ兄様がすべて倒してしまっていた。
メイド用の簡素なドレスとはいえ、動きにくい服を纏ってあれだけ動いたのに、息ひとつ切らさずに私の後ろに立ったエルヴィーノ様は、私の肩を抱いて頭に頬を寄せる。
「クレメンティナが泣くことじゃない。
あいつの言ってることは結果論で、クレメンティナだっていろんな事情に縛られて、つらい思いをたくさんしてきたんだ。
そもそも、ヴァネッサが大人しく愛妾候補として都に来ていれば、こんなことにはならなかったんだ」
「そうだよ、悪いのはすべてペデルツィーニだ。
結果として、今こうしているとしても、それはあいつのお陰じゃない。
あいつが何をしたのか、しているのか、しようとしているのか、すべてペデルツィーニ自身が償うべきことだ」
エルヴィーノ様とにぃ兄様はこもごもに言う。
私は頷いて、顔を上げた。
ペデルツィーニは悔しそうに拳を振る。
「ヴァネッサがこんな…汚らわしい状態になって帰ってくるなんて最悪だ。
こんなことなら、帰ってこないほうが良かった」
「そんな…」
酷い言葉に、ヴァネッサは言葉を失くして立ち尽くす。
「それはあまりに酷いわ、ペデルツィーニ!
ヴァネッサがどんな思いで過ごしていたか…」
私は思わず声をかける。
あのワガママお嬢だったヴァネッサが、こんなふうに素直に従順になった背景には、どれだけの猛省があったことだろう。
その猛省を生かし、幼いけれど澄んだ瞳でこの世界を見ようとしているヴァネッサに、そんな言葉を投げつけるなんて。
もっと私が言おうとしたとき、ペデルツィーニが出ようとしていた広間の奥の扉から「…ヴァネッサ!」とか弱い声が聞こえて、よろよろと姿を現したのは…
「お母様!」
ヴァネッサは叫ぶと、ペデルツィーニの横をすり抜けて広間の扉に向けて走った。
「ヴァネッサ!
…ああ、本当にヴァネッサなのね」
ヴァネッサにすがるように抱きつく奥方様の姿は…見ていられないくらいの窶れようで、私は目を逸らした。
「お母様、ごめんなさい本当に…」
ヴァネッサは号泣し、奥方様は天を仰いで「神様、感謝します」と呟いて涙をこぼした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
叶えられた前世の願い
レクフル
ファンタジー
「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる