身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第七章 焦土

19.爆撃

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 「アレク様が?!」
 私とにぃ兄様、それにレオ兄様も大きな声を上げる。

 「ん?女性の声??
 …そこにいるのは誰だ?」
 鎖帷子を羽織ってはいるが兜はなしという軽装のオズヴァルド様は目をすがめて、こちらを覗くように見つめる。

 「オズヴァルド様!
 アレク様のお怪我って…酷いのですか?!」
 「えっ!クラリッサ?!
 なんで、ここに…」

 駆け寄って詰め寄る私に、オズヴァルド様は驚いてのけぞる。
 「すみません、どうしてもアレク様のお傍にいたいと、言ってきかなくて…」
 私の後ろからのっそりと顔を見せた レオ兄様の巨躯を見上げて、オズヴァルド様は驚き冷めやらぬ様子だったが、「…ああ、そう」と呟いた。

 「自分で歩いてきたようだから、大したことはないと思うが…
 しかし、クラリッサが来てくれてよかったよ。
 アレクのやつ、なんだかやさぐれちゃってて」
 オズヴァルド様は苦笑して言い、「しかし目立つなあ、そのかっちゅ…」

 と言いかけたところで、突然閃光が走り、ドーン!!と爆音が響き渡って、私は咄嗟にオズヴァルド様を引き倒して上に覆いかぶさった。
 バラバラガンガンと石や木っ端などが私の甲冑に降り注ぐ。
 軽くするために、やや装甲が薄いのでちょっとヒヤッとしたけど、それほど大きなものは当たらなかったので痛みもない。

 しかし周囲にたくさん転がっている負傷兵たちのうめき声が大きくなって、私は急いで身を起こして周りを見渡す。
 暗闇に焼けた木片などがそこここでくすぶっているのが見える。
 しかし大きな被害は無いようだった。
 ヴァネッサもトーニオに守られて無事だったようだ。

 「…クラリッサ、ありがとう助かった」
 呆然という感じでオズヴァルド様が起き上がりながら言う。
 
 「お兄様方、無事ですか?」
 大きな声で背後を見ると、レオ兄様がにぃ兄様の上に覆いかぶさっていて、にぃ兄様が「重い…兄上…」と呻いた。
 にぃ兄様の細い身体にレオ兄様の巨体が乗っかってきたら、そりゃ潰されてしまうわね。
 甲冑があって良かった。

 「あんな爆弾…まだ持ってやがったか」
 舌打ちしてオズワルド様は言い、「早く戻ろう、こんなところにも火薬弾が撃ち込まれるようじゃ、よほど敵も焦っているんだろう」とにぃ兄様の手を引いて起こした。

 「ここは敵の負傷兵もたくさんいる。
 我々が捕虜として扱っていないのは向こうも知っているはずなのに…」
 にぃ兄様も声に苦渋の色をにじませて周りを見渡した。

 今の砲撃で、そこここに寝かされている負傷兵たちの呻き声が一段と大きくなり、手当てをする兵たちも走り回っている。
 医療兵の中にも怪我を負ってしまった者がいるようだ。
 援けを求める声の大きさに、私は痛む胸をどうすることもできず耳を塞いでしまいたかった。
 
 オズワルド様に促され、私たちは暗澹たる気持ちでその場を後にした。
 ご自分で歩いておられたとオズワルド様が言っていたけれど、アレク様の容態もとても気になる。
 怪我を負った当初は無事に見えても後から急変するなんてことはよくある話だ。

 馬に乗るほどの距離でもなかったので、私たちは速足で怪我人たちの間を抜けて硝煙の臭いの漂う村を通り過ぎる。
 全半壊した家々の中には誰も居ないようだ。
 粗末な鎧戸が閉じられ、通りも兵士たちが行き交うほかは閑散としている。

 「母上があちこちの村の人たちを説得してあの隠れ家に連れて行ったんだ。
 他の領主たちが手をこまねいて、自分のことで精いっぱいで指揮系統も自警団もへったくれもなくなってしまっているときに、おひとりで子爵領の女たちに指示を出しご自分も不眠不休で動いておられた」
 レオ兄様が呟くように言う。

 「アレクも驚き感心していた。
 傭兵たちの強奪から守るためにもまず民の保護から考えなくてはと思っていたから、そこの手間を丸ごと省いてくれた女子爵殿の手腕に舌を巻いていたよ」
 皆の早足について歩きながら話すオズワルド様の息は少し切れている。
 
 お母様は生まれながらの統治者であられる。
 私は改めてそう思った。
 ご自分のことより、下の者たちの生活を常に心に留めて弱き者たちを助けることに心を砕いている。
 
 私もお母様のようになりたい。
 国という、途方もなく大きなカテゴリではあるけれど、きっと統治者の心の在り方は領主と同じはずだ。
 私は決意を新たにして歩いて行った。

 村を外れて丘を登ったところに、木立に隠れるように天幕が張ってあった。
 私はそれが視界に入るなりガシャガシャと甲冑を鳴らして走り出す。
 「クレメンティナ!」
 にぃ兄様が驚いたように呼び掛ける声を無視して私は一目散に天幕の入り口を目指す。

 恐らく甲冑姿の女性など見たことのない、天幕の周りにいた騎士兵士たちはビックリしたように道を塞ぐ。
 「え、誰だ?」
 「女の兵士??」
 「我が国にこんなのいたか?」
 
 「道をあけなさい!」
 私はバシネットを外して大声で言う。
 躊躇する兵士たちに、私の背後に追いついてきたにぃ兄様が苦笑するように話した。
 「クレメンティナ大公妃であらせられます、開けてください」

 仰天したように道を開けた兵士の間を縫うように私は再び走り出した。
 天幕の前にいた衛兵の、驚いて固まりながら構えている槍の下をすり抜けて私は入り口の布をばっとめくって中に走りこんだ。

 「アレク様!」

 私はこの時、自分の思いにばかり意識が向いていて、大切なことを見逃していた。
 後に悔やんでも悔やみきれない後悔に苛まれることになる。
 
 
 
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