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第七章 焦土
20.アレク様の怪我
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天幕に飛び込んだ私は、誰かにぶつかって転びそうになり、思わず手放したバシネットが床にガシャン!と耳障りな音を立てる。
「わっ!なんだ!
…って、えっクレメンティナ?!」
咄嗟に私の身体を支えながら声を上げたのは、エルヴィーノ様だった。
「どうしてここへ…」
「アレク様は?!」
助け起こした私の身体を離そうとしないエルヴィーノ様の腕から逃れようと身をよじる私に、エルヴィーノ様の背後から声がした。
「なんだと、クレメンティナ?」
「アレク様!」
愛しい人の声に、私は渾身の力を込めてエルヴィーノ様の腕を振りほどき彼の背後に向かって走る。
床に敷かれたラグマットの上に胡坐をかいているアレク様は上半身裸で、右肩から胸の方まで巻かれた包帯が痛々しい。
アレク様は驚いたように口を開け、それからぱっと腕を広げて胸に飛び込んだ私を甲冑ごとぎゅうっと抱きしめた。
「…この、おてんば娘め…
また俺の言うことを聞かなかったな。
レオンツィオもお前もお仕置きだ」
そう言いながらもアレク様は嬉しそうに私の頬にご自分の頬をすり寄せる。
私はアレク様の体温が嬉しくて、アレク様の腕の中で目を閉じた。
「アレク様、お怪我をなさったと聞きましたが…」
私の後ろから天幕に入ってきたにぃ兄様が心配そうに声をかけてくる。
オスヴァルド様がさっと駆け寄って「クレメンティナ、ちょっとどいて、アレクの傷の様子を診たい」と私の横に来て耳打ちする。
私ははっとしてアレク様の身体を離した。
「ああ、敵の放った矢が俺めがけて飛んできた。
ちょうど胴当ての隙間に刺さったんだ」
だけど大したことない、とアレク様は微笑んで手を伸ばし、私の髪を梳いた。
「いや、毒矢の可能性もある。
ちょっと…包帯外すぞ。
消毒液と傷薬を」
オズヴァルド様は真剣な顔で言い、包帯を解いていく。
アレク様は抵抗する様子もなく、オズヴァルド様のなすがままにされている。
「クレメンティナは見ないほうがいい」
淡々とオズヴァルド様は呟き、アレク様が私を引き寄せようとするが「それは邪魔、傷が見られない」と冷静に言われて私は立ち上がって一歩引く。
後ろからエルヴィーノ様が私の肩を抱いて自分の方へ向かせ、胸に私の顔を押し当てた。
鎖帷子を外したエルヴィーノ様の筋骨たくましい身体の感触に私はドキドキしたが、柔らかく鞣した皮の感触と独特の香りに少しずつ落ち着いてくる。
オズヴァルド様の「…うん、大丈夫そうだ」という、ホッとしたような声に、私はエルヴィーノ様の胸から顔を上げてアレク様の傍に行って膝をつく。
甲冑のせいで動きがかなり制限されるのがもどかしい。
オズヴァルド様は傷薬をしみ込ませた布を傷口に当て、その上から器用に包帯を巻いた。
アレク様も安堵したように笑って私の頬を撫でた。
「もう、毒矢を準備するような余裕はないと思うが…
それよりも…矢が当たったとき、目の前にクレメンティナの笑顔が浮かんで、会いたくてたまらなくて。
いつから俺はこんな弱虫になっちまったのか」
「レオンツィオはいるか」
私から目を逸らさず、アレク様は打って変わって冷たい声で尋ねる。
「はっ」
私の背後にレオ兄様の気配が近づいてきて、片膝をついて畏まるのが判る。
「そなたは余の命に背き、妃をこの最前線に連れてきてしまった。
相応の罰は覚悟しておるな」
「…はっ」
「いえ、大公殿下、わたくしが兄に無理を申したのでございます。
兄に咎はございません。
どうぞ罰するならわたくしを」
私は懸命に言って、頭を下げる。
アレク様は私に「そなたは黙っておれ」と言って、私の背後に目を遣る。
「レオンツィオには、これから最前線で余らと一緒にゲリラ戦を展開してもらう。
手持ちの兵がかなり減っている今、そなたの力が必要だ。
これほどここの地理に詳しい人間もいない」
「…はっ!畏まりました!」
声に感動をにじませ、レオ兄様は深く頭を垂れる。
「だが何故、クレメンティナをここへ連れてきた?
クレメンティナの我儘にそう易々と従う兄ではないだろう?」
エルヴィーノ様が不思議そうにというよりは怪訝そうに問う。
「ヴァネッサ嬢ちゃんが…我々の天幕に徒歩で来て。
どうしても領主館のペデルツィーニに会って説得したいと。
最初はとてもそんな要求に応じることはできないと突っぱねたのですが…
嬢ちゃんのあまりに真剣な様子にクレメンティナがほだされて」
「そういえばヴァネッサは?!」
私は大声で尋ね、にぃ兄様が天幕を飛び出す。
「トーニオ!」
と大きな声で呼んでいるのが聞こえてきた。
砲撃の時にはいた。
トーニオがかばって、助け起こしていたのは見た。
だけどその後、…どうだった?
ちゃんとついてきてた??
私は身体がガタガタ震えてくるのが判った。
アレク様のことばかり考えて、ヴァネッサの思いに真摯に向き合っていなかった。
「クレメンティナ、落ち着け」
アレク様が私の頭を引き寄せる。
膏薬の匂いのする胸に顔を押し当て、アレク様は私の髪を優しく撫でる。
「居ない…
トーニオも」
にぃ兄様が真っ青になって戻ってきた。
「どこではぐれた?」
レオ兄様も立ち上がる。
「いや、あの砲撃のどさくさで領主館に向かったのじゃないか?
トーニオがそれに気づいて追って行ったのか...」
オズヴァルド様が腕を組む。
その時、天幕の外が急にざわざわと騒がしくなって怒号のようなものも聞こえた。
皆が注視する入口の向こうで「申し上げます!」と声がした。
「なんだ!」
エルヴィーノ様が声を張る。
「領主館で動きがあった模様です!
お越しを賜りたいとエセルバート殿が」
「わっ!なんだ!
…って、えっクレメンティナ?!」
咄嗟に私の身体を支えながら声を上げたのは、エルヴィーノ様だった。
「どうしてここへ…」
「アレク様は?!」
助け起こした私の身体を離そうとしないエルヴィーノ様の腕から逃れようと身をよじる私に、エルヴィーノ様の背後から声がした。
「なんだと、クレメンティナ?」
「アレク様!」
愛しい人の声に、私は渾身の力を込めてエルヴィーノ様の腕を振りほどき彼の背後に向かって走る。
床に敷かれたラグマットの上に胡坐をかいているアレク様は上半身裸で、右肩から胸の方まで巻かれた包帯が痛々しい。
アレク様は驚いたように口を開け、それからぱっと腕を広げて胸に飛び込んだ私を甲冑ごとぎゅうっと抱きしめた。
「…この、おてんば娘め…
また俺の言うことを聞かなかったな。
レオンツィオもお前もお仕置きだ」
そう言いながらもアレク様は嬉しそうに私の頬にご自分の頬をすり寄せる。
私はアレク様の体温が嬉しくて、アレク様の腕の中で目を閉じた。
「アレク様、お怪我をなさったと聞きましたが…」
私の後ろから天幕に入ってきたにぃ兄様が心配そうに声をかけてくる。
オスヴァルド様がさっと駆け寄って「クレメンティナ、ちょっとどいて、アレクの傷の様子を診たい」と私の横に来て耳打ちする。
私ははっとしてアレク様の身体を離した。
「ああ、敵の放った矢が俺めがけて飛んできた。
ちょうど胴当ての隙間に刺さったんだ」
だけど大したことない、とアレク様は微笑んで手を伸ばし、私の髪を梳いた。
「いや、毒矢の可能性もある。
ちょっと…包帯外すぞ。
消毒液と傷薬を」
オズヴァルド様は真剣な顔で言い、包帯を解いていく。
アレク様は抵抗する様子もなく、オズヴァルド様のなすがままにされている。
「クレメンティナは見ないほうがいい」
淡々とオズヴァルド様は呟き、アレク様が私を引き寄せようとするが「それは邪魔、傷が見られない」と冷静に言われて私は立ち上がって一歩引く。
後ろからエルヴィーノ様が私の肩を抱いて自分の方へ向かせ、胸に私の顔を押し当てた。
鎖帷子を外したエルヴィーノ様の筋骨たくましい身体の感触に私はドキドキしたが、柔らかく鞣した皮の感触と独特の香りに少しずつ落ち着いてくる。
オズヴァルド様の「…うん、大丈夫そうだ」という、ホッとしたような声に、私はエルヴィーノ様の胸から顔を上げてアレク様の傍に行って膝をつく。
甲冑のせいで動きがかなり制限されるのがもどかしい。
オズヴァルド様は傷薬をしみ込ませた布を傷口に当て、その上から器用に包帯を巻いた。
アレク様も安堵したように笑って私の頬を撫でた。
「もう、毒矢を準備するような余裕はないと思うが…
それよりも…矢が当たったとき、目の前にクレメンティナの笑顔が浮かんで、会いたくてたまらなくて。
いつから俺はこんな弱虫になっちまったのか」
「レオンツィオはいるか」
私から目を逸らさず、アレク様は打って変わって冷たい声で尋ねる。
「はっ」
私の背後にレオ兄様の気配が近づいてきて、片膝をついて畏まるのが判る。
「そなたは余の命に背き、妃をこの最前線に連れてきてしまった。
相応の罰は覚悟しておるな」
「…はっ」
「いえ、大公殿下、わたくしが兄に無理を申したのでございます。
兄に咎はございません。
どうぞ罰するならわたくしを」
私は懸命に言って、頭を下げる。
アレク様は私に「そなたは黙っておれ」と言って、私の背後に目を遣る。
「レオンツィオには、これから最前線で余らと一緒にゲリラ戦を展開してもらう。
手持ちの兵がかなり減っている今、そなたの力が必要だ。
これほどここの地理に詳しい人間もいない」
「…はっ!畏まりました!」
声に感動をにじませ、レオ兄様は深く頭を垂れる。
「だが何故、クレメンティナをここへ連れてきた?
クレメンティナの我儘にそう易々と従う兄ではないだろう?」
エルヴィーノ様が不思議そうにというよりは怪訝そうに問う。
「ヴァネッサ嬢ちゃんが…我々の天幕に徒歩で来て。
どうしても領主館のペデルツィーニに会って説得したいと。
最初はとてもそんな要求に応じることはできないと突っぱねたのですが…
嬢ちゃんのあまりに真剣な様子にクレメンティナがほだされて」
「そういえばヴァネッサは?!」
私は大声で尋ね、にぃ兄様が天幕を飛び出す。
「トーニオ!」
と大きな声で呼んでいるのが聞こえてきた。
砲撃の時にはいた。
トーニオがかばって、助け起こしていたのは見た。
だけどその後、…どうだった?
ちゃんとついてきてた??
私は身体がガタガタ震えてくるのが判った。
アレク様のことばかり考えて、ヴァネッサの思いに真摯に向き合っていなかった。
「クレメンティナ、落ち着け」
アレク様が私の頭を引き寄せる。
膏薬の匂いのする胸に顔を押し当て、アレク様は私の髪を優しく撫でる。
「居ない…
トーニオも」
にぃ兄様が真っ青になって戻ってきた。
「どこではぐれた?」
レオ兄様も立ち上がる。
「いや、あの砲撃のどさくさで領主館に向かったのじゃないか?
トーニオがそれに気づいて追って行ったのか...」
オズヴァルド様が腕を組む。
その時、天幕の外が急にざわざわと騒がしくなって怒号のようなものも聞こえた。
皆が注視する入口の向こうで「申し上げます!」と声がした。
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